表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

黒い水滴

 私が勤める病院での話です。


 ある日、トイレにある汚物流しの上に、黒いシミがあることに気付きました。


 最初は雨漏りでもしているのかなと思っていたのですが、いざ雨が降ってもその場所から雨が漏れることはなく、むしろ乾いたままだったので、いつも不思議に思いながら眺めていました。


 それから数ヶ月が過ぎた、ある日。ふと天井を見上げたら、そのシミが大きくなっていることに気付きました。


 やはり雨漏りかとも思ったんですが、よくよく見てみると、天井に張り付けられたボードはただ黒くなっているだけで、腐っているわけでもカビが生えているわけでもないのです。首を捻るばかりでしたが、次の日。その汚物流しで私が汚物を処理していると、ポチャンと水の落ちる音が聞こえました。


 音のした方へ視線を落とすと、汚物捨てにためられた透明な水の水面に、黒く澱んだ液体がじわりと広がっていくのが見えました。まさかと思いゆっくりと上を見上げると、天井に出来たシミからもう一滴、黒い水滴が落ちてきたのです。


 いつの間にか雨でも降ってきたのだろうか? そう思ってトイレの窓から外の景色を見ると、雲一つ無い快晴でした。じゃあ、この黒い水滴は一体? 背筋に薄ら寒いものを感じながらゆっくりその場を後ずさっていると、突然ポケット入れたPHSが鳴り響きました。


 得体の知れない恐怖を感じていた私は、ゴクリと生唾を呑み込みながら、恐る恐るPHSに出ました。


「もしもし……」

「先輩、急変です! すぐに315号室に来て下さい!」

「……分かった。近くに居るから、すぐ行くね」


 PHS越しに聞こえる後輩の声に安堵した私は、その病室がさっきまで私が汚物を処理していた患者さんの病室だと言うことも忘れて、トイレの斜向かいにあるその病室へと向かいました。


 ものの数秒でトイレから出ると、すぐに後輩の姿が見えました。すると、後輩は私に何か言うよりも先に、病室の前に立つ黒ずくめの男性に気付いて会釈をしました。何も言わずにじっと病室を見つめる姿に違和感を感じたものの、急いでいたこともあって私も後輩と同じように会釈をしてから、そのまま病室へと入りました。


 数時間後。その患者さんは、懸命な治療の甲斐も無く帰らぬ人となりました。


 ……今日も私は、一回り大きくなった天井にある黒いシミを見ています。


 あの時、病室の前に立っていた黒ずくめの男性のことを、私と後輩は家族だと思っていました。ですが、誰に聞いてもそんな人は見ていないというのです。中には、これから家族に連絡しようとしていたのだから、既に誰か来ているのはあり得ないと言う看護師もいて、実際、面会名簿に家族の名前が書かれていたのはもっと後の時間になってからでした。


 黒い水滴を見た後にいた、あの黒ずくめの男性は一体何者だったんでしょうか。


 そういえば最近になって、黒いシミの真ん中に、5センチほどの裂け目ができました。……この黒いシミと真ん中の裂け目が大きくなったとき、一体何が起こってしまうのでしょうか。


 分からないことだらけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ