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未完成の絵画弐

 そんなわけで数日後、燃えた絵と同じ物を所持しているという人物の屋敷を訪ねることとなった。



「貴族の屋敷って、大きいかと思っていたのですが、意外と小さいですね」


 眼下に聳え立つのは仁湖様の屋敷より小さな家。それでも十分大きいけど、仁湖様の屋敷しか知らなくて基準が仁湖様の屋敷になっているわたしにとっては小さく感じてしまう。


 そして、



「あほそうな感想を述べているこの童が本当に解明したのか......?忠良、こいつで間違いないのか?」



 精神年齢が低いのは認めるけど、こう見えてもわたし、河〇模試で偏差値65以上なんだからね。

 ってなわけで、ドン引きしてわたしの頭脳に疑いをかけている男の子が屋敷の前で待っていた。



「ええ。和葉様、この方が百合殿です。仁湖様の側にいらっしゃる方でありながら、宮中の謎を解き明かした張本人です。百合殿、こちらにいらっしゃるのが和葉様です。年は12でありながら、陰陽寮に属し、陰陽師として働いているほど優秀な方です」



 わたしの後ろにいる忠良様がお互いのことを紹介してくれたけど、まだ信じていないのが態度でバレバレ。

 まあ、仕事に問題なかったらそれで別に構わないけど、せっかくなら仲良くなりたいよね。比較的余裕がある今なら友達を作れるかもしれないから。



「これからしばらくの間、よろしくお願いします、和葉様」


「......⁉あ、ああ。よ、よろしく。ほら、行くぞ。まずは現場検証だ」






 貴族の屋敷の間取りが一切分からないわたしは和葉様の後ろを付いていく。そして、



「和葉様がしている陰陽師ってやっぱり妖怪を倒すんですか?わたし、陰陽師については呪いを使って妖怪を倒す人っていう認識で......」



 質問をしていた。見た目はわたしの方が小さいけど、中身はわたしの方がお姉さん。和葉様を見ていると、バイト先の主人の息子さんを思い出すせいで、つい話しかけちゃうんだよね。



「よくそんな知識であの方に仕えることができるな......。陰陽師がするのはお前が行ったこと以外にも暦をつくったり星をみたりするんだ」


「陰陽師ってお化け退治以外にも仕事があったんですか」



 本好きな友達が読んでいる本に出てくる陰陽師っていつも若くてイケメンで冷酷でお化け退治してるけど、実際は違うらしい。


 新しい知識を獲得していると、



「ここが正殿。家主には俺が対応するから、お前は後ろにいろよ。陰陽師の和葉と百合が参上しました」


「中へ入ってくれ」



 許可が下りたので、御簾の内側へと足を踏み入れると、中年太りしたおっさんが畳の上に座っていた。見た目は貴族の正装、たぶん束帯を着ているけど、どこか成金を感じる。こういう人って、下位の者を見下してくるから、嫌いなんだよね。こういうときこそ、愛想笑い。

 わたしがにっこりと後ろで社交スマイルを浮かべている間、



「当代一と呼ばれるほどの腕前を持つ和葉殿と百合殿の英知があれば、もう百人力じゃよ!」


「ご期待に応えられるよう精進します。で、問題の絵画はどちらに?」


「おお、そうじゃったな」



 おっさんがとぼけているうちに若いお兄さんが和葉様の前に出してくれたのでわたしも一緒に見ると、



「すっごい綺麗な絵......!」



 彫刻が施された木製の枠に入った絵には黄色の衣に身を纏わせた一人の女性が描かれていた。仁湖様がとんでもないほどの美人だし、清さんも顔立ちが整っているせいか、顔には多少耐性がついたと思ったけど、同性のわたしもびっくり。どきりと鼓動がなっちゃうような麗しの美女だった。

 でも、賞賛したのはわたしだけだったようで



「人物に関しては中々だが、背景が白一色のせいで価値が下がるな」


「そうですね。人物が優れているからこそ、残念でなりません。これほどの腕前なら、背景を書いて欲しかったですね」



 和葉様も忠良様もかなり辛口に評価していた。別に衣が白一色でも背景が黄色だけでも良くない?



「商人も残念がってましたわい。なんでも、この画家はこの絵の描き途中で失踪したそうで。昔馴染みで才能を認めていたその商人によって世に広まったそうじゃ。それで、だ。その絵を持って行ってくれないかのう?絵が燃えたせいで、家来が怖がるわ、客人がこないわ、こちらも大変でなあ」



 提案と言いつつ、下座に座るわたし達にとってこれは命令に近い。いや、おっさんが買ったんだから、おっさんが処理しろよと言いたいけど、証拠品を手に入れられるのはこちらにとっても利がある。だから、条件を飲み込むけど、今口出し禁止って言われているせいで、意見が言えないよ。和葉様が気づいてくれるといいんだけど。和葉様に視線を送ると意図があるのを気づいたのか、



「申し訳ございませんが、話合いをする時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「うむ。わしがいないとでも思って、思う存分話してもらって構わんぞい」



 成金風情でちょっと無理とか思ってごめんなさい。私の中でおっさんからおじさんに昇格した。


 おじさんが許可を出したことで、和葉はわたしの方へ振り向いて



「お前、もう思いついたのか?」


「絵を見ただけでは分かりませんよ」



 こっちだって突然燃えたっていうことしか知らないのに分かるわけないでしょ。本当に絵から燃えたのか分からないのに。



「じゃあ、お前は何を伝えたかったんだ?」


「あの、お.........ではなく、大納言、様?の意見をのむよう進言しようと」


「......」


「......百合殿、普通は上の階級からの提案はよほどのことがない限り断らないんですよ。仁湖様の手段はさすがとしかいえません、ほんとうに」



 二人が残念な子を見るような視線を送ってくるのが痛い。



「同感だ。あの方を超える方はほとんどいないし、あの方の養女というだけで、誰も文句を言うことはできないからな。話しは終わりか?」


「あ、はい」



 あの方って仁湖様のことだよね?家の広さからしてかなりすごいのは分かっていたけどもしかしてかなり凄い人だったりして......?まあ、凄い人には関係ないから、あまり関係ないんだけど。



「若いっていいのう。それで、この絵は持って行ってくれるで良いか?」


「はい。少なくとも事件が解明するまではこちらで管理させていただきます」


「ではよろしく頼む。それと、これも持っていてくれないかのう?」



 先ほどと同様若い人が入って来てわたし達の前に黒色の箱を置いた。



「こちらは?」


「実はこちらも商人から貰った者でして、こちらも持っていて下さいな」


 また押しつけですか......。どんだけ商人から物を買ったんですか、おじさん。



「かしこまりました。ではこちらも保管させていただきますね。それでは、後日報告しに参上いたします」


「良い結果を待っている」


「おまかせください。後はお前の仕事だ。お前の力量をこの目で測らせてもらう」


「では早速行きましょうか、和葉様」



 え?みたいな顔をしているけど、残念でした。動ける人は使う主義なんで、そこんところよろしくです。

一部を除いて働いてもらいます。百合には貴族常識が通じませんので。


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