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未完成の絵画壱

 「こちらはなかなか......」


「都の貴族も興味が持ちそうですね」



 この間作ってみた石鹸を実際に仁湖様と清さんに使ってもらうと好評だった。これで衛生面はちょっとマシになった。やったね。



「おや、今日は一段と良い匂いがしますね」


「あら、忠良殿?どうしたのです?今日は予定にございませんよね?」



 わたしが持っていた布で仁湖様は手を拭きながら、突然来訪してきた忠良様に歓迎しているとは言えないような言葉を送った。いつも通りの穏やかな雰囲気なのに不機嫌さがにじみ出ているのってすごいよね。



「実はお願いと帝からの褒章に伝えに参りました」


「帝ったら......」


「忠良様、内容を簡潔になるべく早くでお願いします。百合、こちらはわたしが片づけるので、向こう側で話を伺って来て下さい。お茶などは出さなくて結構です」


「は、はぁ。分かりました」



 わたしは衝立の後ろに広がる空間に案内した。貴族の屋敷ってこっちに来て初めて知ったけど、貴族のお屋敷には壁が存在しないし、天井も高いんだよね。



「あの、忠良様、それで褒章はなんですか?」


「帝からは百合殿が欲しい物を何でも叶えるとお言葉をいただきました。それで、百合殿、欲しい物は何ですか?」


「わたしの欲しい物......ですか?」


「難しく考えなくて良いのですよ。お着物だったり、書物だったり何でも大丈夫ですよ」



 仁湖様はぱっとでてこないわたしに例を出してくれたけど、物となると思いつかない。いや、あるよ、でもさ、わたしが欲しいのってお金だから。でも、仁湖様が生活費を出してくれているからお金の心配はなくなったんだよね。昔から欲しい物があっても、お金がなくて諦め癖がついたせいなのかな?これといって思いつかないや。



「あの、ほんとに何でもいいんですよ?お金に関しては国庫から出ますし......」


「ほんとに何でも良いですか?物じゃなくても?」


「もちろんです!それで何を......?」


「わたしに関する衣、食、住をわたしが生きている間、保証して欲しいです」



 明日のご飯を心配する必要も、お金がもったいないからって照明を消して蝋燭を使う必要も、トイレは目の前にある公園の公衆トイレを使う必要もないそんな生活がほしい。




「......あの―百合殿。それに関してはもう叶ってると思うんですけど?」


「へ?」


「わたくしがあなたを侍女にしたことで既にわたくしが後ろ盾となっています。そして、忠良様をはじめとする大臣の一族も帝もあなたの後ろ盾となってますよ。だから、生活は保障されていると思いますよ」



 ......そんな事実、初めて知りました。でもそうなると本当に欲しい物なんてないんですけど。



「後日にすることはできます?生活を送ることができるだけでわたしは満足なので」


「「......」」



 二人とも黙っちゃったよ......。わたし、そんな変なこと言ったっけ?しかも、目だけで会話しちゃって全く何を話しているのか分からない。



「それで忠良様、お願いって何ですか?」


「今、都で火事が起こってるんです」



 季節は春の終わり。これから湿度が高くなる時期に火事だなんて珍しいといえば珍しいけど、建物と言ったらきっと木造建築で鉄筋コンクリートの建物なんてきっとないここなら今の季節に火事が起こってもおかしいことではない。


 話しを続けるようこくりと頷いて促すと、忠良様が重たそうに口を開けた。



「実はその原因が一枚の絵だそうです」



 はい、来ましたー。怪火の次は絵が燃えるんですか......。皆火の元用心しているのか不安になってくるよ。



「それで忠良殿は百合の知識を得ようとやって来たわけですか」


「忠良様、わたし。ただでは働きませんよ?」



 見た目だけは生粋のお姫様だけど、中身は週七でバイトをしていた学生。生活を保障するという言質はとったとはいえ、それとこれとは話が別。わたしは無償で働かない主義である。



「もちろん、先日の燭台怪火事件で存じ上げてます。そうですね......役人にすると言ったらどうでしょう?もちろん、仁湖様の侍女が本業ですので、役人としての立場は名前だけになるかもしれませんが、毎月賃金はもらえます。それに、宮廷などの施設を自由に使うことができますよ」



 へえ......。これは中々破格の条件だね。でも、



「何か含んでますよね?何を思ってこんな条件を?」



 良い話の裏には何かある。社会に片足を踏み込むと嫌でも勘付いてしまう。



「......ほんとに賢いですね。伝えるつもりはなかったのですが、しょうがないですね。この立場は百合殿の願いを何でも叶える権利とは別に百合殿に与える褒賞でした。誰も分からなかった原理をわずか十にもみたない少女が解明したことで、帝と中宮は期待して後ろ盾になるそうです」



 まじかよ。炎色反応はわたしが見つけたわけじゃないし、偶々持っていた知識だったっていうだけだし、わたしはそんなに凄い人じゃない。それなのに、見たことない人がわたしに期待してくれてる。



「分かりました。できる限り尽力します」

新しい謎が飛んできました。百合はなんだかんだ言って放置することはできません。ちょっとお金にがめついけど良い人です、きっと。

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