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金の作り方壱

 熱で倒れて数日後、



「もう大丈夫そうですね」


「元気になって良かったです」


「休んでいた分も取り戻せるように頑張りますね」




 布団と友達になっていた日々からの脱却!

 これくらいの熱はどうだってことないから働くと伝えたら、寝室に放り込まれて一週間仕事するなと命令された。風邪をひいても生活するにははたらかないと行けなかったから今まで休んでこなかったから、はじめてのんびりとした時間を過ごせた気がする。



「あ、そういえば百合。先日、百合が持ってきた桐箱はどうしたら良いですか?絵画の方は和葉殿と忠良殿が水に浸して持って帰って行きました」



 そういえば後片付けを全部任せちゃったんだ......。まじですみません。



「そうですね......取り敢えず、中を確認しましょうか」


「百合、これであってます?」


「ありがとうございます」



 桐箱はどこにあるんだろうと周りを見るとすーっと清さんが出してくれた。

 人の動きをよく見ているよね、ほんとに。

 清さんが持って来てくれた箱を開けると



「「......っ⁉」」


「お金、ですか」



 怪しさ極まりないけど、私の手元にあるってことはわたしの物で良いんだよね。

 手を伸ばすと清さんになぜかパシッと叩かれた。

 ......それなりに痛い。



「もうなにするんですか?」


「三つに分けるという考えはないのですか?それに、このお金、本当に金なのですか?」


「え?」



 清さんのお小言は置いといて(今だけだよ、もちろん。忘れて怒られたくないからね)、その後の言葉が気になる。



「清、どういうこと?」


「わたくしの勘違いかも知れませんが、さきほど運んだ時、軽い気がしたのです。でも、ほんの少しの違和感で百合が貰ってきた桐箱の方が軽かったからかもしれませんが」



 金が軽い、ね。



「ちょっと調べてみましょうか」


「調べられるの?」


「はい。ただ、その......金を少しだけいただけますでしょうか」



 さすがの仁湖様も調べるためにほいほい金を与えてくれないよね。

 不純物が絶対に入っているからやりたくないけど、疑われている小判の表面を剥いで使うか。

 そんなことを考えていると



「金ですよね。少しだったら構いませんよ」


「いいんですか⁉金ですよ。お金になるんですよ」


「大丈夫ですよ。取ってきますから」



 珍しい。仁湖様が清さんやわたしに仕事を渡さず、自分から動くなんて。

 不思議そうに見ていると



「お金など財宝に関しては仁湖様しか場所を知らないのですよ。警戒心が強い方ですからね」


「そうなのですか?」



 ちょっと意外。見ず知らずのわたしに職を与えてさらには衣食住の面倒まで見ているから誰に対しても慈悲深くて優しい方だと思っていた。



「いづれ分かりますよ。さあ、百合、仁湖様が準備してくださっている間にこちらでも支度をしましょう」


「そうですね。では、清さんはこの銀貨を削って下さい。できるだけ内側の部分が欲しいです。結果が分かりやすいので」


「分かりました」



 金を準備してくれている仁湖様。どこからかとりだした刀で金(仮)を削っている清さん。じゃあわたしは何をするのかって?

 それはね、



「この間作っておいて良かった」



 飾り気がない部屋に似つかわしくない渡来製の硝子瓶を取り出した。

 中に入っているのは偶々手に入れた硫黄と硝酸カリウムを燃やして蒸気で冷却して作った硫酸。

 本当は接触法っていう二酸化硫黄を酸化バナジウムを触媒として酸素と反応することで生成される三酸化硫黄を濃硫酸に吸収して、できた発煙硫酸を希硫酸で薄める方法を使いたかったけど、無理だった。

 濃度が心配だけど、素人が作った割には上出来なはず。

 そんなわけで手作り硫酸を持って外に移動。

 北風が寒いけどしょうがない。

 持っていたこれまた硝子製の器に硫酸を注いでいく。

 せっかく貰ったものなのに劇物を入れたことでもう実験用の器になりました。渡した人もびっくりだよね。まさか試験管とかビーカーと同じような使い方になるなんて思っていないんだから。



「百合、これで大丈夫ですか?」



 縁側を見ると何か持っている清さんと横に仁湖様が立っていた。

 そばに駆け寄ると



「良い感じですね」



 表面が削れているから反応しやすそう。



「今日は中でやらないのですね」


「ちょっと危険ですので今日は外ですね。危ないのでお二方はそこから見ていて下さいね」



 これだけ危ないと言っておけば二人は来ないはず。

 よっし、始めるか。

 まず二つの容器にそれぞれ小判と金を入れる。そして、この容器を火にかける。



「百合、おかしな臭いが漂って来るのですど、大丈夫ですか?」


「実験は上手く行っているようなので大丈夫ですし、もう結果は出ましたね」


「どのようにして調べているのです?」



 金か金ではないか。

 重さを量るなどいくつかの方法がある。

 その中でも



「イオン化傾向ですよ」


「『イオン化傾向』、ですか?」


「ええ。簡単にすると金属には水などの溶液に溶ける物と溶けない物があるんです」



 イオン化傾向

 金属が水、または水溶液中で陽イオンになろうとする性質のこと。

 イオン化傾向が小さくなるほど金属は水、熱水、塩酸、希硫酸、硝酸、熱濃硫酸、と酸化力がある酸と反応するようになる。

 そして、金は王水(濃硝酸と濃塩酸の体積比が1:3の混合物)と呼ばれるきわめて強い酸化力を持つ物質としか反応しないけど、他の物質は濃硫酸に反応して二酸化硫黄と硫酸塩ができる。



「では泡が出ているこちらは金ではないと」


「はい。おそらく銀とかその辺りの金属でしょうね」


「清の予想は間違っていませんでしたね。そうなると、この小判は偽物となりますか」


「見た目は少なくとも金とほとんど同じだったので、一体どのように作ったのでしょうか」


「一応、偽金を作ることは可能ですよ」



 非金属から金のような貴金属を精錬しようとする錬金術じゃないから、金のような物は作ることができる。

 実際、幕末の江戸幕府や各藩では金の価値を落とした貨幣を作ることで、金減量分の利益を生み出していたし。



「ただ、硼砂と硝石が必要ですが」



 銀に金を入れた合金にすればより金に近くなるけど、合金を作ろうとしたら大事になる。

 硼砂と硝石があれば作れるんだけどな。

 そっと仁湖様のことを見つめると、



「......清、硼砂と硝石を手配してください」



 用意してくれた。ありがとうございます!



「仁湖様、まさかやるつもりなのですか?」


「銀から金を作ろうとしているのよ?それに、わたくしの名で行い、役人を数名呼べは、偽物の存在を向こうも知るでしょう?」



 錬金術みたいな実験ができきることに少し興奮していたわたしには仁湖様と清さんの会話は耳に入って来なかった。

本業が忙しくて更新のスピードが落ちてしまい、すみません。


今回から錬金術に入ります。

次回も実験です。

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