プロローグ
わたしは百合園紗奈。
名字はどこか貴族みたいな感じがするけど、都会からほど遠い千葉県某所に住む高校生。
周りの友達が18歳となり、おいてかれた気になってしまう早生まれの17歳だけど、人生で一度は仕事とか家事とかと無縁な生活を送ってみたい野望がある。日々の生活をバイトで切り盛りしているわたしには無理だけどね。
今日の予定は学校行って、放課後に近所でちびちゃんたちの勉強を見て......
「紗奈!なにぼんやりしてるの⁉学校、遅刻するわよ」
......ぼんやりしているわけじゃないのに。ちぇ。
言葉には出さなかったけど、顔に不満が表れていたのか
「そんな顔になるなら、もっと早めに出なさいよ。あんたはいつだって
やってしまった。ママのお小言タイムが始まってしまった。
でも、わたしはちゃんと聞くような良い子ちゃんじゃない。そんなわけで、ママのお小言ではなく、つけっぱなしになっているテレビから聞こえるアナウンサーの声に耳を傾けた。
『ーでは次のニュースです。今日で一か月となった千葉県千葉市で起きた女性の行方不明事件。警察は被害女性であるー』
「紗奈!聞いてるの⁉」
「へ?あ、うん。聞いてる聞いてる。じゃあ、わたし、学校あるからもう行くね」
ふー、脱出成功。
十中八九、全く効いていないことがばれたけど、セーフ。
わたしが逃げるように外へ出ると、ちょうど遠くでホームルーム開始5分前のチャイムが聞こえた。
やば!急がないと。
周りを見ずにおんぼろアパートの敷地から飛び出ると同時に車のエンジン音と激しいクラクションに襲われて、横を見ると近づいてくるトラックが見えた。
このままだと轢かれるのは分かっている。でも、世界から取り残されてたかのように体が動かない。動かせなかった。
だから、次の瞬間、今までの人生で感じたことのないような衝撃と体の内側から壊れていく感覚がやってくる来たのは必然だった。
あ、わたし、死ぬの......?
さっきまで感じていた燃えるような熱が消えて体の末端から冷たくなると、嫌でも死を感じる。
人生100年と言われている中で大人に慣れずに終わるたった17年の人生。
後悔がないっていったら、嘘になる。今日だって、バイトが、あるし、でも、次、は......
ここでわたしの、百合園紗奈の人生は幕が閉じた。
◇◇◇
......遠くで声が聞こえる。
トラックで轢かれたから死んだと思ったけど、生きていたんだ、わたし、
ゆっくりと生きていることを確認するように指を少し動かしてみると、慣れた人のむくもりが触れた手を通して伝わってくる。でも傷だらけでガサガサだったままの手と違って傷一つないしっとりとした感触。
足を動かすと何かに包まれているような、例えるなら、櫃間に日の光をたっぷりと浴びた布団にくるまれているような感じ。
「もうしばらくで目覚めるでしょう。わたくしは着替えと桶を準備してきますね」
「ええ、お願いしますね」
最悪。誰かが歩くせいで床が小刻みに揺れるんですけど。さっきまで最高の気分だったのに。まあ、でもこれくらいならまだ寝れ......
「......わたくしはあなたが目覚めることを望んでいます。だから、目を開けて下さいませ」
なかった。
今まで聞いたことがない声の持ち主であるじょでいが何故かわたしが起きることを願っている。
意味が分からないけど、気になっちゃって、固く閉じていた瞳を開けると
「......っ⁉良かったです......。ほんとに......」
感無量と今にも泣きそうな顔をした見知らぬ女性がいた。
あの感激しているところ水差して悪いんだけど、どちら様ですか?
始めてしまいました。
ちょっとした息抜きになっていただけたら、嬉しいです。