異常
月を目指して、高度を上げる2人の男女。
金位貴族ファーバイン家のライズと、同じく金位貴族エリカトラル家のレイラ。
彼らは、第一王女サリエル・クローディアの命令で、宇宙の様子を確認に行くことになったのだ。
「王女様は、無茶苦茶だなあ。いきなり、月がきれいか見てきて欲しいなんて。」
軽口をたたくライズ、しかし、その顔に油断はない。
「何もないといいね。」
レイラは、ぽそりとつぶやく。
「⋯。」
ライズは、気をそらしていたが、やはり、レイラもきな臭さを感じていたようだ。
王女は、多くを語らないが、だいたい王女に頼まれて行う仕事は、ひどいものばかり。
今回もおそらくそうだろうとは心のどこかで、思っていた。
「もうすぐ、結界が見えるよ。」
星の結界は、多くの星に住む高等種族によって、強化されているものだ。
「星の結界なんて、月が落ちてきでもしない限り破られるはずもない。」
結界は想定異常に悪い状態だった。
びっしりと宇宙空間中に広がる紫に輝く虫の大群が、結界の全面に張り付いていたのだ。
「これは、時間の問題だな。」
「新種っぽい。ちょっと、観察してきていい?」
「何なら、サンプルいるか?」
「欲しい。あればあるだけ。サリエルも喜ぶと思う。」
「一応結界抜けの魔道具持ってきてよかった。」
ライズは言うなり腕輪の魔道具をつけ、分厚い結界を通過し、大量の紫虫の眼前に立つ。
レイラは、おれをしっかり観察している。
ライズの火属性の魔法が、辺りを燃やしていく。
「とりあえず、間引いてっと♪」
次に、いくつかの鋼の槍の土属性魔法を放ち、何体かを串刺しにする。
大きいの、小さいの、中くらいの合わせて7種類を確保した。
レイラが結界の内側で早くサンプル!っと騒いでいる。
ライズは、マジックバッグにサンプルを収納して、結界を再度すり抜け戻る。
レイラはサンプルを受け取ると、解析しつつ、バラしていった。
そこへ、第一王女サリエルから念話が飛んでくる。
「どうでしたか?」
「うじゃうじゃいたぞ。どうなってんだ?」
「実は、始虫が起きたようでして。」
さも困ったわというような声色で言うサリエル。
ライズは、深くため息をつき、文句を言う。
「そんな重要案件なら、俺やレイラじゃなくて、父上にでもやらせてください。」
「だめよ。国の防衛も結構、心配なの。虫種が強くなって、凶暴化しているって報告も来てるから。それより、レイラ。解析は終わった?」
「今、報告書に上げた。」
「ありがとう。うちにもサンプルちょうだいね。」
「「了解です。」」
念話が切れる。
まるで、見ていたかのようなサリエルの言葉に、2人は改めて王族のすごさを思い知る。
「はあ、帰るか。」
ライズは、疲れたように言う。
「帰ろう。」
レイラも同意した。




