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すれ違い


「ごちそうさまでしたあぁぁぁぁ!」


両手を合わせて、お皿に感謝をする。本当に美味しかったんだもん!

「お粗末様でした。」

マスターが皿を下げて、空いてるグラスに水を注いでくれた。


「春ちゃん、美味しかったでしょ。マスターのフレンチトースト。」

「はい!とっても!罪を背負いながら生きていこうと思ったくらいです!」

「ははは、それは言い過ぎでしょ、それならそれを作ったマスターが有罪だね。」

「じゃあ、それを食べた私も共犯ですね!仲間はたくさんいますよ!マスター!」

カウンターに前のめりでマスターに気持ちを伝えると翠はそこまでか、と驚いていた。

あんなに美味しいフレンチトースト・・・自分では再現できないんだろうな~

毎日、いや休日の朝にアイスと一緒に食べたいいいいいい


「春香さんこのあとだけど、お部屋でゆっくりしてもいいよ。お手伝いは明日からお願いしてもいいかな?」

「では、お言葉に甘えてお部屋でゆっくりしようと思います!」

マスターの提案をのみ、椅子から降りて御礼をした。

「夜ごはんできたら、呼びに行くね。19時くらいかな。」

「わかりました!ありがとうございます!」

美味しいご飯を食べて幸せそうな顔で出ていく春香を見送るマスターと翠。


「本当に美味しかったんですね。春ちゃん。」

「嬉しいよね~あんなに美味しそうに食べてくれるともっと作りたくなっちゃうよね~」

片づけをしながら、マスターと翠は穏やかに過ごした。


お店を出た春香は、あの部屋を楽しむぞ!と張り切って部屋に向かった。



ーーーカランカラン


「やあ、マスター。」

「いらっしゃいませ。若旦那様。」

着物姿の長身男性がカウンターに通され、マスターに挨拶をした。

「今日は早いんですね。」

「今日はね、珍しいお客さんに会ったから、ここに来てないかなと思ってね。」

「ほぅ、それはそれは。良かったですね。」


若旦那と呼ばれる着物姿の長身男性は、マスターから翠へと目線を移した。

「なあ、翠。」

「はい、なんでしょう。若旦那様。」

グラスを磨いていた手を一旦とめて、若旦那に身体を向ける。


翠を見て、目を細める若旦那

「扉の戸締り、忘れたね?」

「っ!!!」

隣にいるマスターは、やはりそうだったかと肩をすくめて片づけを続けた。


やばいやばい。マスターにも黙ってたのに、まさかこんなときに若旦那様にバレるなんて・・

やっちまったぞ・・・クビか?それとも・・・いやいや、早まるな俺!

翠のこめかみから汗がたらりと流れていく。

「途中で気づいて鍵をかけたみたいだけど、目の前で扉が開いたらそりゃあね?」

いつもの微笑みが今日は怒りを抑え込んだ顔に見えちまう。若旦那様ってやっぱり怖すぎ!!!

やっぱりクビか、クビだよな。それならさっさと謝って帰るしかないか。

腹を括り、顔色が悪くなりながら翠は謝罪した。

「申し訳ございませんでした!すぐ気づいたんですが、俺が戻ってきた時には、すでに春ちゃんがここに座っていました・・」

「はるちゃん?」

知らない名前が登場し、なんのことだと若旦那は頭の上に?を数個浮かべた。

「え?春ちゃんのこと言ってたんじゃないんですか?

ロープーウェイのお客さんといえば、春ちゃんしかいないと思って・・」

なんだよ!はるちゃんのことは知らなかったじゃん!!!!自爆した!!くっそおー!!

ガクっと肩を下げ翠は落ち込み続けた。


カウンターでは「はるちゃんっていうのか・・」とぶつぶつ言いながら腕を組んだ若旦那は、ロープーウェイで出会った女性を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わー!すごーい!」と冬の山肌をあんな純粋な顔で楽しんでいる人はなかなかいない。

若くは見えるが、それなりに経験も積んでいそうな大人の顔も見え隠れしていた彼女から目を離せなかった。薄化粧だがまん丸に開かれた目と寒さで赤くなっている鼻先と頬がなぜか魅力的に映ったのだ。

暖かそうなマフラーに顔を埋め、長めの髪はマフラーの中で首を守っているかのように見えた。


まさか真冬のロープーウェイに人が乗っているとは思わず、いつものように動いている途中で乗ってしまったことが良い方向に行くとは思わなかったな。駅に着く10分前くらいからやっと私の存在に気付いたのか、その女性はそわそわしていたようにも見えた。

駅に到着すると、ロープーウェイの扉を開け、レディーファーストをしたつもりが驚かせてしまったようで、逃げるように改札を猛スピードで通り過ぎ切符も握りしめたままだったのは少し笑ってしまった。

あれには駅員もあっけにとられていたな。


御礼も謝罪もできて、ご両親の教育が良かったんだろうと感じた。

このまま吹雪の外に出て、山頂までいくのかと思ったが、駅を出た瞬間に風が彼女に纏い、髪の毛1本1本を梳くように春の香りをつけられていた。


瞬きをすると彼女はいなくなっていた。


そこで初めて、扉の戸締りがされていないことに気付いたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まさか、ここに辿り着いているとは思わなかった。

「ふふ、運がいいな。」



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