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8/11

やみつきのフレンチトースト

ガチャンーーー


荷物を置いた春香の部屋を施錠して、マスターは部屋の鍵を春香の首にかけた。

「はい、これ。この部屋の鍵ね。一つしかないからなくさないように。肌身離さず持っていてほしいから首から下げておくのをお勧めするよ。許可証みたいなものだからね。」


細い金色のチェーンにぶら下がった美術品のような鍵は、アンティークの鈍い色で光っていた。

マスターの言った通りにそのまま首にかけて、服の内側にしまいこんだ。


マスターは満足したように春香の行動を見つめ、「さ、行こうか」と来た道を戻っていった。


ーーーカランカラン


「おかえりなさい」

「戻ったよ、大丈夫だった?」

「まだなーんにも。今日は、暇かもですね~」


マスターと春香を迎えた店員Aは、店内の状況をマスターに共有していた。


「そういう日もあっていいね。さ、ランチはカウンターでいいかな?」

カウンターの向こう側から入口に佇んでいた春香を誘導した。

「はい、ありがとうございます。」

高めの椅子に座り、視界が変わった春香は、カウンターに並べられているお酒や調理器具などを観察していた。


いろんなお酒がある、バーみたいだ。コーヒーサイフォンもあって、味噌汁もつくったり?喫茶店というより食事処?まあ、喫茶店は響きがいいとか言ってたしな~

なんかすごいんだろうな~手に馴染んでる調理器具とかもたくさんあるんだろうな~かっこいい・・・


カウンターに前のめりの春香を見ている店員Aは、グラスを磨きながら声をかけた。

「そうだ、店員Bのお姉さん。名前はなんていうの?」


え、名前?・・ ここに泊まることも決まっていたのに、名乗っていなかったことに気づき、慌てるように椅子から降りた。

「今日からお邪魔します。櫻井春香です。ご挨拶が遅くなってしまってすみません。」

腰を折るように深くお辞儀をした。


「春香さん、そんな仰々しくしなくていいよ。ほら座って。もうすぐ出来るよ。」

キッチンで静かに作業していたマスターが声をかけてくれた。

その声に従うようにカウンターの椅子に座っていると、間髪なく、

「じゃあ、春ちゃんだね。よろしく。俺は、すい。翠くんでも翠さんでも読んでね。」

ニコッと子犬のような可愛い笑顔をいただいた。


「じゃあ、すい「店員Aくん、手が止まってるよ。」

「マスター、今日俺に冷たくない?!」


グラスを磨く手を止めずに、わーわーとマスターにいちゃもんをつけている店員Aこと、翠さん。スラッとしていてスーツが似合う人だ。大型犬みたいな人懐っこさがある。

「(マダムに)モテそう」と声に出てしまったことに気付かず、店員Aの話を聞き流しているマスターを見ながら、いつものことなのかなと思っていた。

20分くらい経った頃だろうか・・・


コトン。

ほんのり甘く、バターの香りが鼻腔を擽る今日のランチ。

白地に群青の縁取りがされているお皿には、山型食パンが半分ずつ切られ、ひまわりのようなキレイな黄色の服を纏っていた。これはーーー


「お待たせしました。しろくま特製のフレンチトースト~バニラアイス添え~です。」


きらきらとした卵の黄色と所々にあるキャラメリゼの光沢・・・

温かいフレンチトーストと冷たいアイスを組み合わせてくれるなんて・・・至高!!!


「召し上がれ。」


磨かれたナイフとフォークをぎゅっと握り、姿勢を正す。

「いただきますっ!」


さく、ふわっ。

少し大きめにカットしたフレンチトーストを頬張る。

プリンまではいかないけど、しっかり味が染みこんで中までしっとり、周りのカリカリもほんの少しの苦みが甘味を引き立てていて、めちゃくちゃ美味しい!!!!

二口目は溶ける前にバニラアイスを乗っけて、ぱくっ!!!!

温かさと冷たさのマリアージュは贅沢すぎるよ・・私、罰当たらないかな・・・・


幸せそうにフレンチトーストを頬張る春香をみて、マスターと翠も穏やかな笑顔で言葉を交わしていた。

「うまそうに食べてますね、春ちゃん。」

「味噌汁を食べてくれたときもすごかったよ。こっちが幸せになっちゃうね。」


急にカウンターにいるマスターを見るように顔を上げた春香は、勢いよく話し出した。

「美味しいです!マスター!こんなに美味しいの初めて食べました!美味しすぎて、私罰当たりそうです・・」

止まることなくフレンチトーストを頬張り続ける春香に、マスターは悪魔の囁きをするのだった。


「春香さん。これ、かけても美味しいよ?」

悪だくみをしていそうな笑顔で、ハニーポッドを差し出すマスター。


「っっ!!だめです、これ以上は私本当に、罰が当たります!!!」

「大丈夫、当たらないから。」

と勝手に琥珀色のハチミツを残りのフレンチトーストにかけていった。


「あああああああ!なんてことを・・・罪だ・・これは有罪確定だ・・・」

悲しい顔をしつつもナイフとフォークは止まらず、おいしいと呟きながら食べ続けていた。


「マスター楽しみすぎでしょ。」翠は、くすっと笑う。


「やみつきフレンチトーストとはまさにこのこと!!!!」



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