合言葉は、しろくまがすき
「・・・しろくま、?」
やっとのことで言葉が出たが、春香はマスターの繰り返ししかできなかった。
しろくまってあのしろくま?ホッキョクグマ?ポーラーベアー?
なんでしろくま?そういえば、このお店もしろくまって言ってた気がするな・・・
「そうそう、しろくま。しろくまが好きっていうなら、掃除とか店の手伝いをしてもらって、ここに泊まってもらってもいいよ。」
仕立てのいい高級ソファーにまた背中を預け、身振り手振りで楽しそうに春香を誘っている。
「三食付き!お風呂も広いし、家自体も大きいからプライバシーも補償。ただ、電波はないけどね。」
どう?と破格の待遇を提示している。
余裕のある大人の雰囲気に飲まれつつ、あの味噌汁がまた飲めると思うとすぐにでも首を縦に振りたいと考えている春香は、考えた。ぼんやりニート生活で衰えた脳をフル回転させた。
詐欺か?裏社会との繋がりが!?!?まずは、犯罪じゃないことを証明したい。それに、店員二人とも慎重高いし、日本人っぽいけど、ただ日本語がうまいだけかもしれない。通貨は円だよね?
帰りもロープーウェイで帰れそうだし、なんといっても!!!あの味噌汁がうますぎた!!!!
ということは!ほかの料理も美味しいに決まってる!そうだ、値段だ!値段を聞け!春香!
深呼吸をし、マスターに質問をした。
「あの、一泊いくらですか?あんまり高いと払えないかもしれないので・・・」
「いらないよ、タダ!タダ!」
片手でゼロを作り、そこから春香を覗くマスター。
「えぇっ!?大丈夫ですか、それ。騙されてます?」
「騙してないよ!部屋はたくさんあるし、掃除とかお店の手伝いしてくれるなら、お金なんていらないよ~」
「帰るときに事後請求とか、味噌汁お代わりにつき1000円とかありません??」
「いやいや、本当に要らないよ。むしろ、働いてくれるならお給料あげちゃう。」
「えええええ?!?!?!?」
春香は思わずソファーから立ち上がり、漫画のように両手を口に当てて、あり得ない!という顔でマスターを見下ろした。
やっぱりおかしいよね!お金いらないけど、手伝ったらお給料あげる!?!?!そんなうまい、うますぎる話なんてあるー??お金ほしいけど、ありえないぞ!春香!騙されるな!
涙を呑んで、断ろうと意思を固めたその時ー
「じゃあさ、3泊くらいしていってよ、必ず帰りのロープーウェイは保証するし、3食付きも補償。
掃除とかお店の手伝いも少しだけでもいいよ。その目で見て、判断してもらえないかな?」
まっすぐ見つめるマスターの目から顔を逸らすことが出来ず、その提案に首を縦に振ってしまった。
「よかった!じゃあ、交渉成立ね!お部屋準備してくるから、ここで待っててねー!」
スキップしながら入口に向かう途中、マスターは、「忘れてた」と春香に振り返った。
「合言葉は、しろくまがすき。忘れちゃだめだよ。」
話している内容に反して、真剣な表情で春香にしっかりと言い聞かせる。
「しろくまが、すき。」
マスターの圧に耐えられず、合言葉を繰り返す。
ーーーカランカラン
ふっと笑って、マスターは店内から出て行ってしまった。
しろくまが好きです!!!!これは作者の熱い気持ち・・・