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豆腐とわかめの味噌汁

2024.11.28 修正しました。

「え、ここ、どこ、、、」


ぽかんと口を開けて、山頂からの雪化粧とたくさんの花が咲く季節が混じったような風景を見上げることしか出来なかった。

雪があるのに花?寒いけど吹雪じゃないし、山頂って寒いはずだよねえー?

どのくらい経っただろうか。春香は、考えることを辞めて、行動をすることを選択した。


「よし、行ってみるか。」

目の前の道に視点を下ろし、悩んでても仕方がないと、とりあえず進んでみることにした。


さくさくさく・・と雪の軽い感触を足で感じながら、自分の足音しか聞こえない静かな道を10分ほど歩くと右手に西洋館が見えてきた。

雪国に適しているような大きな三角屋根で、文明開化を思わせる明治時代の建物のようだった。

素人目にも分かる丁寧に手入れされた庭には、雪と花と緑が共存しているかのように館を惹き立てていた。


「うわぁ・・すごい立派だ。噴水もあるんだ、ここって権力者の家とか?いや、歴史館みたいなところかな。」


入口付近までくると、看板があった。


ーーー開店中。どなたでもご利用できます。


「お店なんだ。どなたでもってことは、入ってもいいのかな。」

恐る恐る階段を上り、大きな門をくぐると西洋館の玄関まで道が照らされているように見えた。

キレイに補整されている石畳を進み、3mはありそうな大きな玄関扉に辿り着いた。


ーーーノックしてください。


ドアノッカーが扉の真ん中と160㎝の春香が手を伸ばせば届く位置にあった。

「これでノックすればいいってこと?」

手を伸ばし、ゴンゴンゴンと叩きつけた。


ギギギギィ・・・


ゆっくりと玄関扉は開き、人ひとりが通れる程度の幅で止まった。


「・・・止まった。監視カメラとかついてるのかな。原動力ってなんだろう。まさか手動?なわけないか。」

ぶつぶつ独り言を言いながら、西洋館の奥にゆっくり足を進めた。


貴重な骨董品や絵画が飾られ、床も毛足の長い高級そうな絨毯が敷かれている。

春香は、雪で絨毯が濡れていないか、怒られたりしないか、とびくびくしていたが、振り返ると絨毯には足跡がついていないことが分かって一安心した。


掃除も行き届いているのか、埃っぽくもなく全体的に暖かい館内で徐々に身体の冷えも消えていった。


「ここだ。」

なぜか目の前の扉が入口のような気がして、扉のノブに手をかけた。


ーーーカランカラン


喫茶店のような軽い音色に懐かしさを覚えつつ、お客さんのいない店内をぐるっと見回した。

「こんにちはー?」

春香の悩んだような声はあっという間に空間に吸収され、誰にも届いていない気さえした。


暖かい店内でいらなくなったマフラーを外し、1分くらい入口で立ち続けていると、遠くから声がした。

「空いてる席にどうぞ~」


初めて行くお店って緊張するー!入ってきた人の顔が見える位置が安全性高いよね、きっと。春香は窓に背中を向け、入口とカウンターが見える席についた。

「うわっ、ふっかふか~」

ソファーは明らかに高級で、冷えた春香の身体を包み込むような安心感のあるものだった。

にやにやしながら、ソファーの感触に浸っていると、

「いらっしゃ・・・あれ、珍しいお客様だな~」

先ほど聞こえた声がより近くに感じ、春香は声のする方向に顔を向けた。


いかにも裕福な家庭に育っていそうな白いパリッとしたシャツにベスト、首元にスカーフを巻いた50~60代のイケオジがカウンターに立っていた。


「あ、すみません!空いている席とのことだったので、えっと、入っても大丈夫でしたか?」

春香は立ち上がり、イケオジに向かって早口で弁明をした。


「ははっ、いいんだよ。好きなところに座ってね。いいソファーでしょう?」

「はいっ!最高です。このソファー!包み込んでくれる感じでずっとここに居られちゃいそうです。」


イケオジの優しさにも包まれ、穏やかな空気の中でゆっくり休めるいい場所をみつけたと確信した。


「そうだ、外寒かったでしょう?温かいのとかどう?」

「あ、ぜひ!お願いします!」

「少し待っててね~」


カウンターの中は春香の席からは見えないか、鍋をコンロにかけた音がした。

でも珈琲飲めないんだよな・・・言えなかったけど、大丈夫かな。でも珈琲っぽくないからいいかとおもい、黙って待ってみることにした。

カウンターには、コーヒーサイフォンがあるが、メニューがなく、何があるのか分からなかった。



ふわ~っと、出汁の香りが店内に充満し、春香の期待は膨らんでいた。


「お待たせ~」

お盆にこれまた高級そうなお椀の漆器をイケオジが持ってきてくれた。

「はい、どうぞ。冷えた身体にはこれが一番だよ。」

「ありがとうございます!いい香り!」


目の前のお椀には、丁寧に取られたであろう出汁をベースにした豆腐とわかめの味噌汁があった。

賽の目の豆腐に若葉のような鮮やかな緑のわかめが踊り、立ち上る湯気には香りも纏っていた。

目を閉じ、出汁と味噌の香りを深く吸うと、自然を笑みが零れた。


「いただきます!」


ふーふーとやけどをしないように冷ましながら、一口味わう。

身体の中心から徐々に指先まで染み渡る美味しさ。

その春香の笑みにイケオジも満足したように口角が上がっていた。


「おおいしいいいい!かつおだし沁みますぅ~!」

「おっ、分かるのかい。嬉しいよ、そんなに言ってもらえると。」

「はいっ!かつおだし効いてて私の好みすぎます!もう一杯ありますか?」

「そう思って。はい、どうぞ。」


カウンターに戻っていると思いきや、新しいお椀に味噌汁を注いでくれていたのだ。


「最高です!よい出会いに乾杯っ!」


お酒のようにお椀を掲げて乾杯をした春香は、2杯目の味噌汁を食べ進めた。

美味しいものにはテンション上がっちゃうんです。

それに、お客さん誰もいないならいいかな~と楽しくなっちゃってる春香です。

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