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第2話 回顧

学校に不法侵入! 

職員室をブチ破り、鍵を入手!

そして、佐藤が向かった先は―――?

階段を昇り、三階に辿り着く。

二年二組の教室の前で足を止める。ここが俺のクラスの教室だ。

職員室から拝借した鍵束の中から、「二年生フロア」とラベルの貼られた鍵を手に取る。

錠前に鍵を差し込み、何回か捻るとガチャリと開錠音が鳴る。

俺の学校は、三年生なら二階、二年生なら三階、一年生なら四階と、学年毎にフロアが分けられている。

というか、教室個別の鍵がないのか。

ウチの学校って、けっこう警備がザルかもしれない。


船底取手に指をかけて扉をスライドさせると、風圧で床の埃がふわりと舞い上がり、空気中に漂った。

ああ、あの頃とほとんど変わらない教室だ。

懐かしさと忌まわしさが入り混じる、俺のクラスの教室。


整然と、規則的に並べられた机と椅子。

教室の後ろに設置された、金属製の錆びたロッカー。

俺に嫌がらせをしてきた男子の机の上に置かれた花瓶。そして、机に散らばる枯れた花のカス。

黒板に描かれた、カラフルで楽し気な絵と、クラスメイト全員の再開を願うメッセージが込められた文字列。


教室に一歩足を踏み入れると、押し込めていた記憶が溢れ出す。

いつの間にか、身体が習慣に従って一番後ろの窓際の席(俺の席だ)まで進んでいた。

例え、眠気に襲われても教師に感づかれないし、内職もし放題。

一般的には人気の高い席・・・・・・だと思う。

しかしこのクラスでは違う。

俺のような鼻つまみ者を視界の外へ追いやる、何とも不名誉な席として扱われている。

コミュニケーションが不得手である、あるいはコミュニケーションを取りたくないと思われている人間は、端に追いやられるのが常である。

昼休みはずっとこの席で過ごしていた。小説を読んだりしてたっけな。

クラスの陽キャから「佐藤くん、何のラノベ読んでるの?」と侮蔑交じりに聞かれるまでは。

以降、教室で過ごすことをやめた。ちなみにその時、俺はラノベを読んでいない。

図書室の自習エリアだけが俺の孤独と無聊を慰めた。

折角の昼休みに勉学に努める奇特な奴なんてほとんどいないから、ほぼ俺専用の場所だった。

独占状態だ。しかし、独占していたからこそ、誰の目にも入らなかった。

ある日、新作のソシャゲに夢中になって徹夜したせいで、自習エリアで爆睡してしまった。

目を覚ますと六時間目の途中。誰も俺を起こしてくれなかった。

図書室には、昼休み終了の五分前に差し掛かった頃、図書室の全エリアを見回り、居残り生徒がいないか確認した後、施錠を行うことを任命されている生徒がいた。

恐らく、図書委員だと思う。

まあ早い話、見回りの図書委員に存在を無視されてしまった。

しかも、何故か図書室は外施錠で、誰かに鍵を開けてもらうまで出ることができなかった。

窓から飛び降りようにも図書室は3階で、飛び降りた先はコンクリートである。

まあ、下に草とか木があっても飛び降りようは思わないけど。

放課後、掃除の時間になってようやく図書室から解放された。

そして、俺は図書室に不法侵入して授業をサボったとされ、教師陣にしこたま怒られた。

ただ教師に隷従していることで得られていた「大人しいが真面目」という無難な生徒像が一瞬にして崩れ去り、「周囲との協調性のない独善的で利己的で自己中心的な不良生徒」として認識されてしまった。

可が僅かにある不可のない者は、可が無くなった瞬間に不可の烙印を厳しく刻み込まれてしまう。

あの日以来、俺を見る目が厳しくなり、寝ていないのに寝るなと注意を受けたり、難しい問題ばかり当てられたりすることが多くなった気がする。

友達のいない俺にとって、教師というのは最後の砦であり、ライフラインだ。

たった一日でライフラインが崩壊した。

あれから学校は最低限出席を取る方針で登校した。


久々に登校した日、自分の席から椅子がなくなっていたこともあった。

ショックだった。

高校生にもなってこんな幼稚なことをするクラスメイトに。

そして、俺という存在がここまで軽んじられていることに。

まあ、別にそんなことはなかったようで、俺が休んでいる間、俺の席の椅子は黒板を掃除するための脚立代わりにされていたらしい。

黒板の近くにある椅子を取りに行くと、クラスの会話が密やかになり、クラスメイト全員が俺を見ているような感覚に陥った。

いや、絶対に俺のことを注視していた。

席まで椅子を運ぶと、何事もなかったかのように会話が再開された。

別に何でもないことをしているだけなのに、妙に注目を受ける。

息苦しさが常に続く。文字通り、真綿で首を絞められているみたいだった。

息苦しい息苦しい息苦しい・・・・・・しかし、死に至ることはない。

ギリギリ耐えられる苦痛を断続的に与えられている―――――そんな感覚。

いつ終わるんだろう、これ。



なんか思い出すことが辛い事ばかりで辛くなってきた。

頭を抱え、記憶の奔流を堰き止めようとする。

負の連想ゲームが止まらない。ちょっと吐きそう。口の中が酸っぱ苦い。

視界が滲む。目が潤るんでいた。絶対に埃のせいじゃない。

指先から力が抜け、微細に震え始める。

尾骶骨の辺りの筋肉がキュッと収縮し、便意がないにも関わらず何故かウンコが漏れそうな感覚を覚える。

いつものストレス反応だ。じきに治る。


深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

埃臭い空気で肺が満たされる。

落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け・・・・・・。




本当に落ち着いた。ウンコは漏れなかった。

汗で衣服がぴったりと衣服に張り付いていて、気持ちが悪い。

特に、うなじのあたりの発汗がひどく、襟足だけジャンプの主人公の髪型みたいにツンツンしている。

・・・・・・気を取り直して、本来の目的の達成に移ろう。

さて、黒寄りの灰色の思い出ばかりの教室は、今日から楽しくて愉快な思い出に塗り替えられる。

白く。白濁に。透明に。

大いなる苦痛からの開放、そのカタルシスを味わうのだ!


「マスターキー(ロッカー)」とラベルの貼られた鍵を鍵束から取り出す。

ウチの学校の警備は本当にザルだ。教室も入り放題、ロッカーも漁りたい放題だからだ。

試しに、鍵を俺のロッカーの錠に差し込む。

多少抵抗はあるが、鍵は根元まで挿入された。捻ると、ガチャリと音を立てて開く。

マスターキーの名に偽りは無いようだった。

他の適当なロッカーで試したが、結果は同様。

この鍵一本で、どのロッカーも問題なく開錠できることが明らかになった。


悪いな女子共、今から俺色に染まってもらうぜ!

手始めに、俺は「有坂 香」のロッカーの開錠し、戸を開いた。

多分続く

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