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第0話 春が来た

薄暗い部屋の中、ニュースキャスターの声が響いていた。


「―――2020年から、原因不明のウイルスによって男性が次々と死亡する事態が発生しています」

画面の下部には赤いテロップで「男性6割死亡」と表示され、彼女の背後に映し出されたグラフが死者数の急激な増加を如実に物語っていた。


「現在まで、原因は依然として不明であり、各国の研究機関が対策を急いでいる状況です。なぜウイルスが男性にのみ影響を及ぼしているのか、具体的な対策は未だ見つかっていません。政府は引き続き警戒を呼びかけています……」


キャスターの淡々とした声が続く中、テレビ画面は次々と異なる映像に切り替わっていく。


病院の外の様子が映し出される。

長蛇の列を作る救急車が次々と病院前に到着し、スタッフたちが忙しく患者を運び込んでいる。

患者たちは担架に載せられ、すぐに病院内へと運ばれていく。

病院は、まるで一時も休む暇のない戦場のような緊迫感を漂わせていた。


街の様子へ。

騒がしかった通りが異常な静けさに包まれており、かつての喧騒が消え去っている。

街を歩く人々はマスクを着用している。画面に映る人間は、ほとんどが女性だった。

時折、男性らしき人間が映る。マスク越しでも伝わる沈鬱な表情。不安を隠せない様子が見て取れた。


政府の記者会見へ。

壇上で話しているのは、疲れ切った表情の政府高官。

彼は深刻な顔つきで最新の感染者数と死亡者数を発表している。

背後には「非常事態継続」の文字が赤々と浮かび、会場内の記者たちが一斉に手を挙げて質問を投げかけている。しかし、回答は曖昧なものばかりだった。


海外のニュース映像へ。

混乱に陥った、外国の街並みが映し出される。

政府首脳の突然死によって、国の政局は一変し、大規模なデモや暴動が発生している。

政府機関は機能不全に陥り、今となっては数少ない警察や軍隊が暴徒と化した市民たちを抑えている。



テレビ画面に映し出される混乱した世界の様子をぼんやりと眺めながら、俺はふと、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じていた。


近い未来、地球から人間のオスは完全に消え去るだろう。

4年間で男性の6割が死んだ。ウイルスの勢いが衰えない限り、来年には7割、いや8割は死んでいても誰も驚きはしない。

ウイルスの対策ができない限り、人類は自然繁殖が不可能になり、絶滅の危機に瀕することになる。

するとどうなるだろう。各国政府は、国家を存続させるといった大義名分を振りかざし、急激な人口減少に対し確実に手を打つ。

どのような対策を実施するのか、答えはひとつ。


―――セックスである。


国家は必然的に、絶滅を回避するため、セックスを奨励……いや、セックスを義務とする政策を打ち出すだろう。

未曾有の事態で生き残っている優秀な男は国家の存続の鍵となる特別な存在だ。

未来を国家を形作るために、文字通り精力を注ぐことになるのだ!


今まで誰からもゴミのように扱われた俺が、一気に貴重な存在として扱われる日が訪れる。


国家存続義務セックス政策立案! 

全会一致、即可決! 

既存の社会規範や道徳は一掃!

恋愛や婚姻は旧習として扱われ、国家主体の人類繁殖活動が行われる!

新たな秩序の幕開けだ! 

もう誰にも止められない!


想像するだけで体が熱くなる。


もうすぐ俺の時代が来る。

今まで俺に見向きもしなかった女共は、俺と俺のモノを求める。

今世において、俺の股間が乾く暇は訪れない。


俺は小さく笑いながら、テレビを消した。


世界がどうなろうが構わない。

いや、むしろ可及的速やかに悪くなって欲しい!

この先、素晴らしい未来が俺を待っているはずだから!

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