傾国の災姫 25話
強敵だった、と思う…が、展開はこちら側が優勢、いや…一方的だった。
グラップラーとして強化したハゲをぶつけ、ひたすら殴らせる。
フィジカル全般が超強化されたおかげか、死ぬまでのインターバルが圧倒的に伸びたし、相手に必ず有効打を与えられたのもポイントが高かった。
真なるシジル持ちのガルヴァンに真正面から組み合うのはおそらく本来は自殺行為…なのだろうが、ハゲにとって死は一時的な『状態』でしかない。
致命傷を受けようが、腕をもがれようが、頭を土の槍で貫かれようが、俺が再び召喚すればまたリスクを捨てた戦い方で突っ込んでいく。
そして、ガルヴァンがこちらに意識を向ければ、メディが魔眼を発動する。手数で来るなら【狂気の魔眼】で周囲の敵兵を操り、ガルヴァンに飛びかからせる。ガルヴァンがそれを処理しようとすれば、ハゲの拳が急所を正確に抉るように攻撃を加える。
メディの魔眼とハゲの途切れぬ猛攻が、そうなるしかない状況を作り上げるのだ。
ガルヴァンからすれば地獄だろう。目の前では死を恐れぬ化物が、これまた死を天秤にすらかけない最効率の攻撃を仕掛ける。何度倒してもすぐに蘇って殴りかかってくる。背後からは自軍の兵が発狂して斬りかかってくるし、大技で決めようとすれば、間髪入れずにメディの麻痺が動きを止め、止まったところにハゲの拳が顔に叩き込まれる。
メディは元々、ダンジョン産の魔物であり、多対一を想定した防衛と時間稼ぎに特化しているのも状況が味方した。
相手が防戦に回れば回るほど、メディの土俵になる。
切り札の石化を使うまでもなかった。 ハゲを三度、四度と再召喚した頃には、ガルヴァンの動きは目に見えて鈍っていたからだ。
そして、このループで、勝ちを無理やりもぎ取った。
「おらぁぁ!!」
ガァン!!
もう何百か何千かもわからないほどの殴打の後、ハゲのとびきり力を込めた拳がガルヴァンの頭蓋を陥没させたとき、呆気ないほど静かな終わりを迎えた。
砕けた顔が地面に沈むと同時、ガルヴァンが維持していた大規模な防壁が、一斉に崩落したのだ。
轟音!!
ゴゴゴゴゴゴ……!!
「うわぁぁ!足元が!崩れる!」「退避、退避ぃ~!!」「ママー!」
足場を失った兵たちが瓦解して雪崩のように落ちていく。
その隙を逃すドラゴンナイトの軍勢ではなかった。空から一斉に攻勢へ転じ、落ちていく兵たちに追撃を加えていく。
こうなれば空戦ができる兵科の独壇場だろうし、魔術部隊の固定砲台も陣形を維持することは不可能だ。
ガルヴァンが弱り始めた頃から、風の音も大人しくなっている。
あの暴風……セレスが相手をしている風使いの術。 これが弱まっているということは、セレスが仕事をしたのだろう。
「さて、俺たちの仕事も終わったことだし……セレスのところへ向かないとな」
「へへ……旦那、こいつ、どうしやすか。串刺しにして触れ回るとか」
ハゲがガルヴァンだったものの首を持ちあげる。
「いや……さすがにそれは。 その辺に捨てていいよ」
「へい!」
ハゲがゴミを捨てるかのように将軍をぶん投げた。
「さて…」
風を操る相手に、あいつがどこまでやれているのか心配だ。
だが、地上にいる俺には空への足がない。
誰か一騎でもいい、乗せていってくれると助かるんだがなぁ~~と思っていると、一頭の竜が旋回して降りてきた。
「モヒカン様! ご無事ですか!」
エリーゼだった。壁が一斉に崩れたのを見て、駆けつけてくれたらしい。
「あぁ、心配ない。この通りだ」
その辺に転がっているガルヴァン『だったもの』を顎で示すと、エリーゼの目が見開かれた。ごくり、と喉が鳴る。
ハゲが自慢げに拳を突き合わせ、メディの目が光る。
「やはり……セレスティア様が一目置くだけのことはありますね。 まさか、真なるシジルを持つガルヴァンをほぼ無傷で討ち取ってしまわれるとは……それにその……」
彼女はメディに恐怖したような目線を向ける
「キシャァアァアア!!」
「ひぃ!?」
が、すぐに首を振った。
俺は肩をすくめるだけにしておいた。
(こう見えてもメディは乙女だからな…怖がられるのは嫌なんだろう)
「さ、さぁ、竜にお乗りください」
エリーゼが手を差し出す。
「風が弱まっているとはいえ、術はいまだ健在です。セレスティア様がまだ戦われているかもしれません」
「あぁ、わかった。召喚は一度解除するぞ」
「へい、いつでも呼んでくだせぇ」
差し出された手を取り、竜の背に跳び乗る。
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