表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/88

傾国の災姫 14話



 バクレツタケの雨が敵陣を焼き尽くす中、セレスの瞳が一点を捉えた。


 炎の海をものともせず、悠然と立つ赤髪の男。炎将グレイド。


 爆炎の余波が彼の周囲だけを避けるように渦巻いている。


 指輪のような何かを指にはめて、凶悪な笑みを浮かべた。


「ふん…爆発の計略とは、小賢しい真似を。だが、そちらから距離を詰めるとは好機」


 真なる炎帝のシジル――炎を支配する者に、炎は牙を剥かないということか。


「――グレイドの護衛が死んだ今がチャンスよ!」


 セレスの声は焦っている


「待て、やつは明らかに何かを――」


 俺がなにか言おうとする前に、蒼黒の竜が急降下を開始した。


 彼女の手には槍。狙いは一点。グレイドの心臓だ。


「そう、それでいい!!」


 グレイドは大剣『紅蓮断』を構え、迎え撃つ姿勢を取った。


 ガギィィィン!!


 槍と大剣が激突し、衝撃波が周囲の炎を吹き散らす。


 セレスの突進力と竜の質量を乗せた一撃。


 だが、グレイドは受け止めていた。


「強いな……今まで戦った者の中で一番強い力だ。だが、場数が足りぬ」


「――っ!」


 大剣が力の流れを横にそらし、槍の方向を変えた。


「ちぃ…!もう一度よ!」


 セレスの竜が体勢を立て直そうと空へ退避、一瞬でかなりの距離を稼ぐが……


 グレイドの左手が、炎を纏って突き出された。


 溜めを長くして、力を一点に集中させているようだ!


「逃がさん…!」


 放たれたのは、灼熱の光線。


 太陽を凝縮したような灼熱の奔流が、竜の翼膜を貫いた。


「グァアアァッ!!」


 竜が悲鳴を上げる。翼膜に大穴が空き、体が傾いてしまう!


「だめっ、モヒカン! 掴まっ――」「うお…!まずい!落ちる!」


 遅かった。


 傾いた竜の背から、俺の身体が投げ出される。


「うおぉおっ……!?」


 視界がぐるぐると回転する。空と地面の区別がつかない。


 落下。


(やば…!召喚が間に合わない!)


 俺は為す術もなく、地面へと叩きつけられた。


「かは…!」


 VRとは思えないほどの衝撃が体中に渡った。


 HPゲージは一気に削られ、画面がぶれてうまく前が見えない!


「モヒカンッ!!」


 セレスの側近の一人 エリーゼの叫びが聞こえた。


 彼女は即座に自分の竜を旋回させ、俺の元へ急降下してくる。


「う…げっほ ごっほ…エリーゼ、そっちじゃない! 俺はいいから、セレスの方へ……!」


「貴方を放置できるわけないでしょう!? 動けないなら狙い撃ちにされる!」


 彼女の判断は正しかった。俺は落下の衝撃でデバフがついてしまったのか、すぐには立ち上がれない。


 待ってましたと言わんばかりに、敵兵がすぐに数名やってきて、俺を仕留めようとするが、エリーゼと彼女の竜がうまく立ち回って庇ってくれた。


 エリーゼは敵を始末すると、俺の腕を掴んで肩にかけ、引きずるように物陰へ移動させた。


「しっかりして! 骨は折れてない!?」


 慣れた手つきで怪我がないかをチェックしていく、彼女の医療処置を受け、HPゲージが少しだけ戻ってきた。


「あぁ……たぶん、大丈夫だ……」


 だが、身体が言うことを聞かない。しばらくは動けそうにない。


「もうこれで大丈夫だ。 悪いがお前の後ろに乗せてくれ。すぐにセレスの所へ行こう」


「…そうね。わかった でも、何かあればすぐに言って」


「あぁ」


 彼女は俺を介抱しながら竜に乗せてくれた。


 この少しの間の離脱が、致命的だった。



 ⚜⚜⚜⚜



 セレスの竜が墜落する。


 翼に穴を空けられた竜は、それでも翼を広げ、衝撃を和らげようとした。


 ズゥン!!


 セレスも投げ出され、槍を地に刺して衝撃を和らげるが、すぐには立てない。


 地面が揺れ、土煙が舞い上がった。


 墜落地点に、グレイドがゆっくりと歩み寄った。


「驚いたな。これだけの傷を負って、まだ動くとは……それにこの竜は普通じゃない」


 蒼黒の竜が、主を庇うように身を起こした。喉元に青白い光が集束していく。


 ドラゴンブレスだ。通常の人間ならば耐えることは叶わないが……


「グォォォォォッ!!」


 竜の口から蒼い炎が放たれた。凍てつくアイスブレスが、グレイドを飲み込もうとする。


 だが、グレイドは動じなかった。


「良い気迫だ。――だが」


 彼の全身から、紅蓮の炎が噴き出す。


「『真なる炎帝のシジル』…解放っ!」


 グレイドの言葉に呼応するように、先ほどとは比較にならないほどの出力を持った炎熱光線がほとばしった!!


 蒼と紅


 二つのエネルギーがぶつかり合い、せめぎ合う。


 一瞬だけ、拮抗した。だが、それも一瞬のこと。


「所詮はシジルを扱えない主に飼われた獣の力よ。 真なるシジルを持つものだけが 理を変えるのだ!!」


 グレイドの炎が膨れ上がり、蒼を押し返していく。


「ギャアアァァッ!!」


 竜が悲鳴を上げ、炎の圧に押されて後方へ吹き飛ばされた。巨体が地面を転がり、瓦礫の山に突っ込んで動かなくなる。死んではいないだろうが、戦闘続行は難しいと誰が見ても分かる重傷だ。


「……っ!」


 セレスがダメになった槍を捨てて剣を抜き、グレイドに向けた。


 だが、墜落の衝撃で足元がふらついていた。


 グレイドは、その隙を見逃さない


「念には念を入れさせてもらう……王家の血を持つ者よ」


 彼の手にはめてあった指輪が輝きだす


 セレスの顔が蒼褪めた。


「それは……王家の……!」


「そう。王の勅命と共に授けられた呪具。お前の血を縛る鎖だ。 もしものためにと、一つしかない秘宝を王から賜ったのだ。 他ならない、お前を殺すために!」


 指輪が淡く輝いた瞬間、セレスの身体が硬直した。


「っ……身体が、動かない……!」


「効果は一瞬。だが――」


 グレイドは大剣を構え直し


「お前など、一瞬で十分だ」


 刀身に炎が凝縮していく。紅蓮の輝きが、夕暮れの空よりも赤く燃え上がる。


(チェックメイトだ)


 炎の音で何も聞こえないが グレイドの口が、たしかにその言葉を形作る。


 大剣が振り下ろされる。解き放たれようとする灼熱の斬撃波。


 その瞬間――


「お嬢様ァァァッ!!」


 空から一騎の竜が突っ込んできた。


 ルドガーだ!!


 彼は竜から飛び降りながら、セレスの前に身を投げ出した。


 炎熱はセレスの目の前


 ギリギリ間に合うか、間に合わないか


 その紙一重のタイミングで


「守護の小シジル――全解放ッ!!」


 透明なヴェールが幾重にも重なり、盾となって斬撃波を受け止めようとする。


 ギギギギギ……!!


 炎と守護がせめぎ合う。ルドガーの足が地面にめり込み、ヴェールに亀裂が走る。


「ぐ、ぅぅぅぅ……!!」


 彼は歯を食いしばり、両腕を前に突き出して耐えていた。


 だが、力の差は歴然だった。


「邪魔だ、若造が」


 グレイドの声は、まるで処刑を宣告するかのように冷たかった。


「お前の守護など、俺の炎の前では紙切れに等しい」


 ヴェールが砕けていく。一枚、また一枚。


「ルドガー、退きなさい!!」


 セレスが叫ぶ。だが、王家の指輪の呪縛はまだ解けていない。動けない。


「……退け、ません」


 ルドガーの声は、震えながらも、揺るぎなかった。


「俺は……お嬢様の、盾ですから……」


 最後の守護が、限界を迎える。


 パリィィン……!!


 防御が消滅した瞬間、炎の斬撃がルドガーの身体を貫いた。


「が……っ……!」


 胸から背中へ、焼け焦げた穴が空いて、炎の勢いは止まった


 彼は、セレスを庇うように両腕を広げたまま、一歩も退かなかった。


 グレイドは顔を歪めた


「同時に貫くつもりだったが……ふむ、先ほどの竜に力を使いすぎたか…?」


 指輪が砕け、呪縛が解けた 忌まわしいタイミングだった


 セレスが駆け寄る。だが、もう遅かった。


「ル、ドガー……!?」


「お……嬢、様……」


 ルドガーの身体が、ゆっくりと倒れていく。


 セレスの腕の中で、彼は最後の力を振り絞って微笑んだ。


「ご無事、で……よかっ……た……」


 その瞳から、光が消えた。



「ルドガー……! ルドガァァァァァッ!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ