傾国の災姫 13話
セレスが剣を掲げた瞬間、彼女の身体が前のめりになった。
「突撃――」
蒼黒の竜が主の意を汲み、翼を畳んで急降下の姿勢に入ろうとする。
「待て!」
俺は咄嗟に彼女の腰を掴み、引き戻した。
「ぃった…!? 何をするの!? 今が好機なのよ!」
「落ち着け。お前が真っ先に突っ込んでどうする。万一、将が最前線で討ち死にしたら、すぐに瓦解して終わりだぞ」
「でも、わたくしには……!」
「『でも』じゃない。数で負けてるんだ。正面からぶつかってどうする。いくらドラゴンナイトとは言ってもこの数差じゃ相当削られるだろ。お前の部下の命は捨て駒じゃない……違うか?」
彼女の肩がわずかに震えた。
分かっているのだ。分かっていて、それでも突撃しようとしていた。
(焦っているな。相手が相手だし…無理もないか…)
「……なら、どうしろと言うの」
「最初の一手で、できるだけ数を減らす。空という最強のポジションを取れてるんだ。グレイドが何かをする前に、そのアドバンテージを活かさない手はない」
俺はインベントリを開き、目当てのアイテムをそっと呼び出した。
手のひらに収まるキノコ。見た目はただのキノコだが、俺のカルマ値をマイナスに振り切った悪魔のアイテムである。
「これは……?」
「バクレツタケ。踏んだり、投げつけたり、少しの衝撃で爆発する。しかも、かなりの威力だ」
(バウンドレスで余っていたのが、インベントリに大量に入っていたんだよな。 このゲームでも使えないかと思っていたんだが、まさかアイテムの所持情報まで引き継いでいるとは…)
試しに、眼下の地面めがけて一つ放り投げてみる。
「あらよっと」
敵兵は、落ちてくるキノコ相手に、ガードひとつしない。
キノコが弧を描いて落下し、地面に触れた瞬間――
ドォオオン!!
凄まじい轟音と共に、直径十メートルほどの爆炎が吹き上がった。
土煙が舞い、周囲の兵士たちが悲鳴を上げて吹き飛ばされ、敵兵を倒した旨のログが激しく動いていくのがわかる。
10人くらいは派手に吹っ飛ばした。
「ひゅ~、これだよこれ! はっはっは!」
俺以外の全員が目を白黒させている。
(デモンストレーションとしてはバッチリじゃないか?)
「これを……全員で、上から落とすの?」
「そういうことだ。爆撃で敵の数を削ってから突入する。最初の一手としては悪くないだろ?」
彼女は数秒だけ沈黙し、それから口元に笑みを浮かべた。
「……あなた、本当に鬼畜じみた戦い方をするのね」
(勝つためにやってやったのに、なんて言いぐさ)
肩をすくめて返事をしておく。
「ごほん…セレス以外の全員には離陸前に渡してあるから安心しろ」
俺はインベントリからキノコを可能な限り取り出し、彼女に手渡した。
それでもまだ数は百を超えるほどある。我ながら、なぜこんなに溜め込んでいたのか分からないが、俺は案外、最初の冒険では、やくそうを99個買ってから進めるタイプなのかもしれない。
「敵が混乱しているうちに一斉投下するぞ。その後ならば、突入は好きにしたらいい。――あと、ハゲは一度召喚を解いてある。突入のタイミングで呼び出すつもりだ」
「分かったわ」
セレスが竜を旋回させ、キノコをその手にして、後続の部隊に指示を飛ばす。
キノコを掲げる姿は、なんだか様にならない。
そして全員、すぐに換装して、騎士の手にあるのは槍…ではなく、キノコになった。
これではドラゴンナイトではなく、キノコナイトだ。
突入前の素晴らしい雰囲気が台無しである。
眼下では、敵陣が慌ただしく動いていた。先ほどの爆発で、こちらの意図を察したのだろう。
グレイドとやらがすごい形相でこちらを目線で射抜きつつも盾を構えるように指示を出した。
だが、もう遅い。
「全騎、投下用意!」
セレスの声が響く。八十騎の竜騎士たちが、一斉にバクレツタケを構えた。
「――投下ァッ!!」
セレスの号令と同時に、空からキノコの雨が降り注いだ!!




