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傾国の災姫 11話



「あの場所が、我々が今から攻め落とす駐屯地……つまり、敵陣よ」


 蒼黒の飛竜の背に跨がり、俺はセレスの後ろから眼下の景色を見下ろしていた。


 冷たい高空の風が頬を叩き、雲を突き抜けた先に広がるのは、点在する天幕と、蟻のように小さく見えて動き回る兵士たちの姿だ。


 敵陣は俺たちの…いや、彼女の騎士団の位置を割り出すように、広く陣を張っている。


 まるで何かを探しているかのように。


 探し物は――


(まぁ、どう考えても彼女と、その配下たちだろうな)


 こうして見ると、やはり空を飛べるというのは、それだけで戦略的に強いと思える。


 普通なら命をかけて地上から敵の情報を探るというのに、空からなら、地形を無視できるし、配置や敵の情報が丸見えなのだから。


 ちなみに竜は彼女以外を乗せることを死ぬほど嫌っており、今も隙あらば俺に不満げな視線をぶつけてくる。彼女と密着している状態も、竜的には気に食わないらしい。


(……不可抗力だというのに)


 竜からの視線を避けるように、話題を繰り出す。


「敵の数、意外と多いな。お前の騎士団が百そこらであることを考えると……」


(百戦錬磨の精鋭でも揃えない限り、分が悪い。ただでさえ攻め側は不利なのに)


「目算で五百程度かしら。斥候が持ち帰った情報とほぼ一致しているわね。……嘘だったら、どれだけ良かったことか」


 セレスは両手で枠を作り、敵陣に当てがうようにして見ている。その横顔は険しい。


(その方法で、敵の数が分かるのか?)


 同じように両手で枠を作ってみるが、俺を馬鹿にしたように横目でみる竜の顔が映り込むだけだった。


「予定では、もう少し敵が少なかったのか?」


「えぇ。そして我々は、ここで無残に死に果てる予定だったの」


「死ぬ予定だった、って……おいおい、物騒だな。自国の姫様を自国の兵が殺すわけがないだろう」


「……」


 彼女は答えず、天幕から出てきた男を指さし、俺に望遠鏡を手渡した。


「あれが今回のターゲット。炎将のグレイドという男よ」


 レンズ越しに覗くと、赤い髪をオールバックに撫でつけ、同じく赤い髭を蓄えた老練な男が映った。


 周囲の兵より一回り大きな体躯が、嫌でも目を引く。


 背には巨大な大剣、身には重厚な鎧。典型的な前衛、言い換えれば歴戦の猛者といった風格だ。


 天幕から出て兵たちに指示を飛ばす姿には、場数を踏んだ者だけが持つ余裕が滲んでいた。


「なるほど……接近戦を得意とするタイプだろうな」


「それだけじゃないわ。彼は『真なる炎帝のシジル』という、炎系最強のシジルを宿す正真正銘の化け物よ。戦いになれば炎を自在に操り、遠距離であろうが近距離であろうが、敵を軍単位で焼き殺すの」


(ずいぶんおっかないおっさんだな……あと、それなら剣いらなくないか? 雨宮さん……)


「実力者のようだな」


「あいつは……実力主義で、それこそ、ずっと我が国の精鋭部隊を率いてきた男よ。副官たちも、相当な手練れなの」


「ふうん……つまりそいつらが邪魔なんだな?」


「そう。王に忠誠を誓うシジル至上主義者。ここで討たなければ、いずれこちらが討たれる」


 ツッコミどころは満載だが、まずは受け止めるべきだろう。


「……で、作戦目標は?」


「炎将グレイドと、奴が従える全ての駐屯兵を殲滅すること。一人たりとも逃さないこと。この二つだけ。理由は……生きていれば、あとで分かるから、今は聞かないで」


(戦力差五倍で、将軍付きの相手と正面からやり合う……なるほどなるほど……無理じゃね?)


「セレス、お前の部隊は自殺志願者の集まりか何かか?」


「失礼な人ね」


 セレスはふふっと笑みを浮かべ、こちらに横顔を見せた。


「でも、少し前ならその考えを否定しなかったわ。今なら勝機がある。だって――」


 彼女の視線が、自軍陣地へ向けられる。


 そこには八十騎あまりのドラゴンナイトが控えていた。


 鱗に覆われた巨躯が整然と並び、竜たちは今にも飛び出さんばかりの気迫を漲らせている。


 出撃の時を、今か今かと待ち構えて!


「あなたが器となってくれたおかげで、質では負けていない戦力を整えられたから」


 そう――俺がクラスチェンジさせた。


 80回も!!疲れたよ


 でも、おかげで五倍の戦力差を覆せそうな精鋭を揃えられたのも確かだ。


 ただでさえ強いドラゴンナイトが80。空を埋め尽くす竜の軍勢は、圧巻の一言に尽きるだろう。


 ちなみに、他の騎士たちの兵科選択では、セレスのような劇的な変化は起きなかった。


 彼女だけが特別な条件を満たしていたのかもしれない。


 さすがはネームドキャラ、といったところか。



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