傾国の災姫 9話
(でも、実際にクラスチェンジってどうやればいいんだ?)
今さらながら、行き当たりばったりで、知らないことが多すぎると痛感する。
セレスは「早くしないの?」と言いたげに、まっすぐこちらを見据えて首をかしげた。
ここで「クラスチェンジのやり方なんて分からないんだが」なんて正直に言えば、また余計な混乱を招くだろう。
限定的な情報だけ足して、自然な流れでやり方を聞き出すしかない。
「あー、ゴホン。セレス、申し訳ないのだが、『王族の』クラスチェンジのやり方を教えてくれないか?」
彼女は少しだけ眉をひそめ、それから「あぁ」と納得したように頷いた。
「それもそうよね。王族のクラスチェンジなんて、生きていても普通は関わることなんてないもの。わたくしとしたことが、配慮が至らなかったわ」
そう言うと、片手を胸に当て、もう片方の手を俺に差し伸べる。
「王族も庶民も変わらないわ。わたくしと手をつないで、選定者たる者が“成るべき姿”を宣言すればいいの」
セレスは片膝をつき、差し出した手を取るようにと、その瞳で訴えかけてくる。
(選定者、ね……)
察するに、「選定者」というのはクラスを決める役目の人間で、「成るべき姿」というのはクラスチェンジ先のことだろうか、と頭の中で整理していく。
「……」
「モヒカン様、どうなさったの?」
あまり深く考えている時間はなさそうだ。もう、やってしまおう。
「いや、重要なことのようだし、本当に俺でいいのかと思ってな」
当たり障りのない言葉でごまかす。
「これが、わたくしの意志よ」
セレスは、ただそれだけをシンプルに告げた。
俺は、彼女の手を取る。
小さくて、か細い手だ。それなのに、とても冷たい。まるで氷に触れているようだった。
「なんでこんなに手が冷たいんだ?」
「……そのうち、話す機会があれば伝えるわ」
瞳の温度も、手と同じくらい冷たくなった気がした。
そして、俺をまっすぐ見据えて、宣言する。
「わたくし、セレスティア・フォン・アズラーレの名に誓って、選定者へ己が道を示すことを誓います。……この命が散る、その時まで」
つないだ手から光がこぼれ落ち、足元から波紋のように広がって、眩しい輝きへと増幅していく。
「これは……?」
彼女のステータスと思しきものが、空中に浮かび上がった。
___
名称:セレスティア・フォン・アズラーレ
旧クラス:ノーブル
カルマ:中立 → 悪
新クラス:
ステータス補正率:
HP:C
力:C
魔力:C
技:C
速さ:C
幸運:S
守備:C
魔防:C
魅力:S
スキル①:シジル(開示に失敗)
スキル②:シジル(開示に失敗)
スキル③:シジル(開示に失敗)
___
魅力と運を除けば、すべてが平均的だ。
魅力が高いのは、単純に見た目がいいからだろう。
「ノーブル」というのは、皇族を意味する単語だったように思う。セレス自身が高貴な生まれだから、もともとのクラスもそれなのだろう。
(カルマが悪って書かれているのは……うん、俺はナニモ シラナイ!)
俺の称号がまた影響を及ぼしている可能性がある。でも別ゲームなのにそんなことってあるのか
『新クラス』の枠に意識を向けると、いくつかのクラスチェンジ候補がポップアップした。
- 重装騎士 → 推奨!
- 重剣士
- アーチャー
- メイジ
- ウォーロック
……などなど。
察するに、重装騎士というのが、この国の皇族が就くことを前提にした“伝統的なクラス”なのだろう。
(能力はどんな感じなんだ?)
__
・重装騎士
ステータス補正率:
HP:A
力:B
魔力:F
技:F
速さ:F
幸運:S
守備:A
魔防:F
魅力:S
斧を使い、前衛で戦う上位クラス。
__
(うん……微妙な気がする。それに名前があんまり好みじゃない。ハゲにこっぴどくやられた現職ルドガーさんを見ているから、強いイメージがまるでない。ゆっくり動くのも、なんかかっこよくない。それに、セレスの雰囲気に絶対合ってない)
※個人の感想です。
どうせなら、かっこいいクラスがいい。そう思いながらリストを眺めていると――目を引く項目が目に飛び込んできた。
(ん……これは!?)
__
・ドラゴンナイト
ステータス補正率:
HP:B
力:B
魔力:B
技:B
速さ:A
幸運:S
守備:C
魔防:C
魅力:S
飛竜にまたがり、前衛・後衛どちらでも戦える上位クラス。
武器は剣・弓・槍などから選べる。さらに上位のクラスでは、それらすべてを扱う。
ステータスの伸びは全兵科でもトップクラスだが、弓と魔法に弱い。
__
(か、かっこいいー!!!!)
いや、分かってる。能力に明確な弱点があるって言いたいんだろう。
でも、俺の話も聞いてほしい。
まずドラゴン。これだけで加点100万点。もう足し算じゃない。掛け算だ。
「ドラゴンがいる」という事実の時点で、ロマンの勝ち確定なのである。
そのドラゴンはどこから来たんだい?とか、設定的なツッコミは無粋だ。
鎧を着て、剣とか槍とか持ってさ、「お前絶対強いだろ」って雰囲気を全身から出しているわけよ。
まずさ、竜と信頼関係があるじゃん?
竜のほうも「こいつの言うことなら聞いてやるか」って顔で、隣に立っているのを想像してほしい。
戦いになると、崖の上とかから風がバサァーーって吹いて、鎧をまとった少女のマントがバサァーーってなっているところへ、
竜がドーン!!って翼を広げて現れるわけよ。眩しい陽光を背景に颯爽と現れた強キャラ
もう、その一枚絵だけでストーリーが完結している。
戦い方だって、地上戦だけでは終わらない。
上からの急降下よ。
竜が「ギャアアアア!」って吠えながら降下してきて、その背中から竜騎士がドンッ!って飛び降りて、槍をブッ刺す。その一撃で偉そうな敵の指揮官は即死だ!
竜の羽ばたきで風が巻き起こって、地上にいる他の奴らが「うわああぁ!」って、突風に負けないように踏ん張るんだよ。ここ、重要、テストに出ます。
重力+速度+竜のパワー、全部盛り。物理の暴力。存在感がやばい。(語彙力)
空中戦で負けても、死した竜から降り、その力を引き継いで地上戦へ――そして「実は本体のほうがもっと強かったです」ムーブもできる。ラスボス二段構えみたいなやつだ。
対峙した相手は、ゆっくり歩いて近寄ってくるドラゴンナイトに怯えるしかない。
結論。
竜騎士は最高にかっこいい。
ヤナギンがここにいたら、「いやいやドラゴンナイトはステータスは高いけど弱点が~~」とかご高説を垂れてくるに決まっている。
だが俺はロマンを取る。すまんなヤナギン。ドラゴンがいたらまず乗るだろう。そういうことだ。
「はい、主人公。はい、君はパッケージイラスト。優勝。」
心の声が、うっかり口に出てしまった。
セレスは姿勢を崩さないまま、「はぁ?」と言いたげな顔をしている。
「ゴホン……すまない。えーっと……モヒカンの名の下に、セレスティア・フォン・アズラーレを『ドラゴンナイト』へクラスチェンジさせる」
(こんな感じでいいのか……?)
セレスはこくりと頷き、静かに目を閉じた。
眩い光が、二人を祝福するように包み込む――。
(よし、これでうまくいったらしい。セレスも特に文句はなさそうだ)
――と、思いきや。
*モヒカンの称号【脱走の蛇】が発動します*
「ん……?」
*対象者のカルマが【悪】であることを確認。元クラスが【ノーブル】であることを確認。ロードクラスへの条件を達成*
*さらに、悪カルマの限定条件を達成。対象者のクラスチェンジを改変します*
(おいおいおい、どうなってんだポンコツAIさん。やめてくれよ。こんなところでも俺の邪魔をするのか、このやろう。今いいところなんだよ。俺のドラゴンナイトを取るんじゃないぞ!!)
*error……対象者を error*
祝福のように柔らかく輝いていた光は一転し、どす黒い闇色のオーラへと変質して、俺たちの周囲を漂い始める。
怪しく光る鮮血のような魔力が彼女を包み込み
セレスのまとっていた神々しさは薄れ、代わりに、地獄の業火から這い上がってきた魔族のような気配が立ち昇る。
彼女の背後には、竜の姿が形をなし、やがてそれは完全な輪郭を持つ。
蒼と黒が織り交ざったような装甲をまとい、人の丈の五~六倍はある飛竜が、丸まっていた身体を伸ばし、翼を広げて激しく嘶いた。
「グァアアアアアアァアアア!!!!!」
その強烈な咆哮と、翼を広げた威圧だけで突風が巻き起こり、拠点の壁を含むあらゆる障害物を吹き飛ばしていく。
(よし、これだ! これを求めていた!!)
俺も当然のように、ルドガーと一緒に吹っ飛ばされる。
ここはお約束だ。おとなしく叫びと共に吹き飛ばされるべきなのだ。
「うわああぁああ!!」「うぉおおおお!?!?」
ついさっきまで気絶していたルドガーも、起きた直後だというのに容赦なく風吹きの刑に処され、二度目の惨事を華麗に演じた。
ハゲは平然と立ち尽くし、色々と心配そうに俺を見ていた。
「…おとなしくなさい」
セレスが竜へ手を差し伸べると、竜はおとなしくなり、その首を彼女の手元へ寄せた。
*対象者:セレスティア・フォン・アズラーレは『ダークアイス・ドラゴンナイトロード』へクラスチェンジしました*
__
名称:セレスティア・フォン・アズラーレ
旧クラス:ノーブル
カルマ:中立 → 悪
新クラス:ダークアイス・ドラゴンナイトロード
ステータス補正率:
HP:S
力:SS
魔力:SS
技:SS
速さ:SS
幸運:S
守備:A
魔防:A
魅力:SS
スキル①:シジル(開示に失敗)
スキル②:シジル(開示に失敗)
スキル③:シジル(開示に失敗)
__




