傾国の災姫 7話
ルドガーは、大剣をわずかに傾けて言った。
「セレスティアお嬢様の要望にも困ったものだ。……だが、確かに手っ取り早い方法でもある。モヒカン、お前が不要だと今ここで証明する。俺とエリーゼがいれば十分だ、とな。どこの誰とも知れぬ者を側に置くわけにはいかない。だから、悪く思うな」
どうやら、ルドガーは必要以上に俺を敵視している。
「戦うのは構わない。ただし、俺は召喚の術を使う。仲間を呼び出して戦うが、それでいいか?」
俺の言葉に、セレスたちは目を見開き、互いの顔を見合わせた。
「転移系のシジルではないの……? 嘘よね。まさか貴方“も”……いえ、あり得ない」
ルドガーがセレスの耳元で短く囁く。
俺へ向けられた視線に一瞬だけ同情の色が差したが、すぐに鋼のような表情に戻る。
(なんだ、その反応。まぁいい。ここで俺の力を見せておくべきだ。いい加減、転移系の能力だと誤解され続けるのは面倒だ)
「じゃ、模擬戦だ。命のやり取りは無しでいこう…挑まれた以上、応戦はするが、それでも怪我をさせたら大変だからな」
鼻で笑ったルドガーが応じる。
「ふん、その心配をするのはお前ではない。重装騎士と、この大剣の力がどれほどか、教えてやる」
(ヘビーナイト…それがこのゲームにおける近衛のクラスのひとつだろうか? 強そうだな…ならば)
「出てこい――ハゲ、出番だ」
片手から禍々しい闇色の魔力が溢れ、床一面に巨大な魔法陣が展開される。
「なっ…なんだ!? このおぞましい気配は!」
「セレスティア様をお守りするわよ!」
場の空気を見守っていたエリーゼもセレスを守るように立った
やがて、地獄の底から這い出るかのように、魔法陣から黒い靄の腕が伸び、全身が姿を現す。
靄が収束した先に立っていたのは、歴戦の傷に彩られた、冷ややかな眼差しを湛える男
装備は軽装だが、着こなしからも戦闘に場慣れしていることが分かる
進化を経てダンピールとなった今、その存在感はさらに重く、頼もしさを帯びている
出会う度に強そうになっていっている だが、ハゲはハゲだった。
状況を一瞥したハゲは、すぐに膝をつき、恭しく頭を垂れたのだ。
「お呼びですか、旦那」
(よし。ここでも召喚は問題なく機能する)
雨宮さんから「使えるはず」と言われても、実際に発動するまでは不安だった。
「あぁ。戦いを挑まれた」
「へい、朝飯前でさ。……で、どいつを締めりゃいいんで?」
ハゲの鋭い眼光がルドガーたちをギロリと射抜き、場の警戒が一段と高まる。
異様な召喚、禍々しく尋常ではない魔力、現れた男の只者ではない気迫…
ルドガーとエリーゼの二人は思わずセレスを庇うように武器を構えたが、セレスは手を上げて制した。それでもまずは見極める、という意志だ。
「貴方……それがモヒカンの、本来の能力で間違いないのね?」
「あぁ。俺の力は転移じゃない。契約した相手を呼び出す――召喚の類だ。俺の地方ではアビスサモナーとかネクロマンサーとか、まぁ…呼び名はいくつかある」
「とんでもないわね…転移系のシジルの副産物かしら、まさか人の移送すら可能にするなんて。でも、あなた自身がそうやって現れたのだから、納得と言えば納得したわ」
よく分からないが、転移系の能力の延長線上にあるものだと思われた。
(もう面倒なので適当に頷いておこう)
「あぁ…そうだな」
セレスが満足そうに何度か頷き、ハゲに目をやる
「それで、その方が、召喚で呼び出した貴方の部下なのね?」
「そうだ。ハゲは対人戦に長け、手段も選ばない。だからこそ頼りになる。俺の腹心だよ」
「旦那……」
ハゲは感無量といった表情を表に出さないように、震えていた。
ルドガーが俺に剣先を向けたまま、セレスに進言した
「セレスティア様、やはり奴は危険です。いまの術は禁忌とされる闇のシジルで間違いないです!我らの仲間に加えるべきではありません!」
「ルドガー、黙りなさい」
「しかし――」
セレスが静かに言い切る。
「いいこと? 扱う武器に善も悪もないわ。 結局のところ、最後に剣の柄を握るのは人間…根源が闇であろうと光であろうと、力の良し悪しは使い手で決まる。――違うかしら?」
ルドガーの喉がひくつく
「っ……く!」と短く息を吐くと、顎を上げ、声を張った。
「ならば、奴が役に立たないことを証明するまでです!――守護の小シジル、解放!」
宣言と同時に、透明なヴェールが彼の全身を包み込む。
硬質な輝きが肌を撫で、空気が微かに唸った。
「待ちなさい、ルドガー!」セレスが手を伸ばす。
「もう、モヒカンと、その腹心の力は十分に分かったわ。わたくしの読み違いでした。あれはおふざけでも相手にしてはいけない。だから、引きなさい」
その一言が、ルドガーの誇りに火を点けてしまう。
「チンピラ共……俺の能力は守護に特化しているが、攻撃にも使える。こうやってな!」
戦いの合図のように、強化された大剣が振り下ろされた!
狙いは俺の頭上――
(おいおい、殺す気か。直撃したら死ぬぞ)
ガキィン!
火花が弾ける。大剣が届く寸前、ハゲの"短剣" が “片手で”その軌道を受け止め、鉄塊を押し返したのだ。
「旦那、あの礼儀知らず、やっちまっていいですかい?」
「待て。攻略に重要な人っぽい。殺さないでくれ」
ハゲは肩をすくめ、短剣を器用に逆手へ持ち直し、重心を沈めて構えた。
「こうりゃくとは、よくわかんねぇのですが……では、お灸を据えておきやす」
ハゲの周囲に血のようなオーラが漂った
――空気が変わった。
守護のヴェールは揺らがない。だが、押し返されたルドガーの足は、さらに半歩、自ら後ろへ滑る。




