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傾国の災姫 3話


「んん……」


 意識が覚醒すると、そこは無機質な白い部屋だった。


 *おやおや、一人目のお客さんかな? 誰も来るはずがなかったのだけれど、どういうことだろう? ……何か話すのを待ってみよう*


 機械音声が脳内に直接響く。現実味のないこの場所は、つまり――


「ここは……もうログインできたのか?」


 *この人間、「ログイン」と言ったぞ。外部の人間だ。それなら、この妙ちくりんなモヒカン野郎が“例の人物”で間違いないな。だが、チュートリアル前からキャラクターが完成しているとは。これでは我々の仕事がないじゃないか*


「機械音声、何もない部屋……ここはチュートリアルの場所か?」


 察するに、前のゲームでいうキャラクタークリエイトステージのような場所だろう。


 *そうだ……ようこそ、モヒカン。ここはチュートリアルステージだ。キャラクタークリエイトもできる。だが君はもう姿が出来上がっているし、データに介入する余地もない。そして“例の人物”に該当する。あと最高にダサイ、その魚のヒレみたいな髪型*


「今、さらっと失礼なことを言わなかったか?」


 どうも、先ほどからこのAIはよく分からないことばかり言っている。


 なんだか、あのゲームのキャラクタークリエイトで出会ったAIにすごく似ていて、懐かしさすら覚える。


 だが、俺は二度も同じ轍は踏まないのだ。


 みていろ 大人の対応だ。失礼な発言にはスルースキルを発動する。


「ここは本来、キャラクターを作って、ゲームの説明を受ける場所……でいいのか?」


 *質問に答えよう。その通り。だが君は“例の人物”だからね。我々の仕事は君を送り出すことだけだ。魚のヒレ頭にしては、良くできた質問だ。素晴らしい!*


「送り出す? どこへ?」


 *どこへでも。どこがいい?*


 パンフレットを見る前にログインしてしまったので、どこがいいかなんて選べるはずもない。


「どこって言われても、よく分からないな。アドバイスはある?」


 *この人、本当に大丈夫なのか? 世界のことすら知らないのに、世界を救えるのだろうか?やはり魚みたいな髪型の人には、最初の設定すら難しかったのかもしれないな*


「……」


 言葉遣いは違うが、あの失礼なAIの親戚で間違いなさそうだ。さっきから失礼極まりないので、少し言い返してやろう!!


「はぁ……あのな、この見た目は、君たちの父にあたる人が作ったんだ。つまり、ポンコツの子である君たちが生み出したも同然ってことだ! ははは!面白いだろ?」


俺は失礼なAIに、大人げなく反撃してやった。どうだ、参ったか!


 *なんだと! もう許さないぞ! 一番トラブルが多そうな場所に無理やり転送してやろう。そうだ、そうしよう! いっぱい困ってしまえ!*


「あ、こら! またそんなことをしたら、雨宮さんに言いつけるぞ! ポンコツAI!」


 *エデンの村から強制座標変更を実行。アドミニストレーター権限で座標を変更。シード値を変更……完了*


「聞いているのか!?」


 *はっはー! ランダムに転移するように仕向けたぞ! これでよし! おさらばだ!*


「こ、こらあああ! 絶対言いつけるからなああ! ぽんこつうううう!」


 俺は強制的に転移させられた。俺の学習能力は皆無だった。



 ⚜⚜⚜⚜



 重厚な長テーブルを囲む、国の重鎮たち。誰もが眉間にしわを寄せ、国の行く末を案じている。次の一手でどれほどの民が死に、やがては自分たちの命運をも左右するとなれば、その決断に至るまでの空気が重々しくなるのも当然だ。


「であるからして、次の進軍は数日後に――」


 宮廷魔術師のような姿の男が、盤面の駒を動かそうと腰を浮かせた、その時だった。


「――のわああああ!! くそぽんこつうううう!」


 突如、虚空から現れた大男が、皆が囲む長テーブルの真上に落下してきたのだ。


 ドガァン!! ガッシャーン!!


 激しく落下した大男の体重を支えきれなかったテーブルは、無残な音を立てて真っ二つに折れた。


 盤上の駒はスローモーションのように激しく飛び散り、目を丸くした重鎮たちの顔にバチバチと当たる。


 上等な羊皮紙は、まるでカーテンコールを祝う紙吹雪のように舞い散り、モヒカンの登場を祝福した。


「……いててて! まったく、何がランダム転移だ。あのポンコツ、絶対に雨宮さんに言いつけて――って、あれ? ここはどこだ?」


 俺は腰をさすりながら、冷静に周囲を見回す。


 上座には、豪華な冠をつけた王様らしき老人。その隣には、腰まで届く美しい蒼銀の長髪に、灰色と青のオッドアイを持つ、高貴な雰囲気の少女。


 その他にも、「いかにも重鎮です」と言わんばかりの風貌の者や騎士たちが、突然現れた珍妙な化け物でも見るかのような驚きの表情で、俺を見つめている。


(あぁ、これは詰んだな)


 そう思いつつ、ひとまず挨拶をした。ほら、挨拶は大事だからな。


「あ、どうも。へへへ……」


 何度も説明するが、俺のキャラクターの見た目は、どこに出しても、恥ずかしくないほどの恥ずかしいチンピラそのものである。


 その凶悪な笑みは、彼らに「こいつは、やべぇやつだ」と判断させるには十分すぎた。その後の展開は火を見るより明らかだ。


「て、敵襲うううう!! 暗殺者がどこからともなく現れたぞおお!」

「捕えろおおおお!!」

「転移系のシジルか!?」


(あぁ、この流れ……またですか)


 予想通り、俺は槍やら剣やら弓矢やらを向けられ、瞬く間に包囲された。

 開始数十秒でここまで修羅場にできるのは、もはや才能と言わずしてなんと言うか。


「この卑怯者を、この場で殺せ!」


 どこからともなく、そんな怒号が響く。だが、その殺伐とした雰囲気を断ち切ったのは、王の隣にいた蒼い髪の少女だった。


(俺はここで終了だな…)


「待って、殺さないで。……まずは捕らえて、情報を聞き出すべきよ。転移系のシジル使いなら、使い道もあるでしょう? まずは地下牢に送るべきではないかしら?」


 ログインして数秒で死亡し、雨宮さんに泣きついて再テスト、という流れを覚悟していたが、どういうわけか、その少女がチャンスをくれたように感じた。



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