70話 二度目の勝利
序盤、戦いの主導権を握ったのはイゾベルだった。
彼女の聖なる力はアンデッドであるハゲに対して絶大な効果を発揮し、圧倒的な相性の良さを見せつける。しかし、その優位は長くは続かなかった。
どれだけ浄化の光で消し去ろうとも、ハゲはまるで尽きることのない泉のように次々と召喚されるのだ。
本体であるモヒカンを直接狙おうとすれば、必然的にハゲに背後を晒すことになる。
レベル差を考慮しても戦力は拮抗しており、虎視眈々と隙を窺うハゲ、そして万一の時の援護に控えるメディの存在が、イゾベルの行動を縛り付けていた。
イゾベルの聖なる力が尽きるのが先か。こちらの召喚が途絶えるのが先か。
火を見るより明らかな消耗戦。しかし、召喚の魔力コストは初期魔法レベルで済むため、実質的に無尽蔵と言っていい。
対するハゲも、ただ無為に倒されるだけではない。
イゾベルが決死の覚悟で肉薄すれば、その身を盾にしてでも彼女に深い一太刀を浴びせ、その命が尽きるまで執拗に食らいつく。
ハゲがやられるまでのインターバルも相応に長く、いやらしく戦い続けるため、その間に俺の魔力は着実に回復していく。
時間は、完全に俺たちの味方だった。
イゾベルが再び墓石へと還る、その結末は、もはや変えられない。
「く……そ……!また……また私は、負けるというのか……!」
数十分にも及んだ死闘の末、ついにイゾベルの膝が折れた。善戦も虚しく、地に突き立てた剣が、かろうじて彼女の体を支えている。
かつて神々しい光を放っていた純白の翼は見る影もなく汚れ、聖騎士の威厳に満ちた姿は、泥にまみれた敗残兵そのものだった。
その無様な姿を、ハゲが下卑た笑みを浮かべて見下ろす。
「へへ……どうした騎士サマよぉ。ちったあマシな面構えになったじゃねぇか」
「っく……!」
聖騎士が地に伏し、アンデッドが勝ち誇る。
(あれ?俺って正義側のはずだよね?)
「卑怯者……!私は正々堂々、この身一つで戦ったというのに! お前は主の力を借りては何度も蘇り、挙句の果てには姑息な手段で私を貶めた! 貴様に騎士の誉はないのか!」
「誉だぁ? んなもんはガキの頃にそこら辺に捨ててきたぜ。それに、蘇ったのはお前さんも同じだろうが」
ハゲの言葉に、イゾベルは唇を噛みしめる。彼女の体から光の粒子が立ち上り、その輪郭が徐々に薄れていく。
敗北を認めざるを得ない状況に、彼女は最後の力を振り絞るように叫んだ。
「私は……必ず秩序を取り戻してみせる……! 私の町を……! 絶対に……絶対に諦めたりはしないぞ!この、無法者どもめぇええっ!」
呪詛にも似た叫びを残し、イゾベルの姿は完全に掻き消え、後には冷たい墓石だけが残された。
彼女の消失と共に、外野共は野蛮な勝どきをあげた!




