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58話 悪の親玉ムーブをかます


 イレーネとハゲを連れて広場に出ると、目的の仲間たちはすぐに見つかった。


 …というよりも、その特徴的な三人組は、嫌でも目に飛び込んできた。


 いびつなドクロのオブジェが鎮座する広場の一角。その物騒な背景とは不釣り合いな三人のアバターが、誰かを探すようにキョロキョロと見回している。


 一人目の名前は【ベル】。すらりとした細身の体躯にショートカットの女性アバターで、そのスタイルは現実の五十鈴さんと同じだ。だが、髪と瞳は澄んだライトブルーに染まり、切れ長の瞳から放たれる視線は鋭く、クールで理知的な印象だ。


 そのベルと仲良さそうに話しているのは、アバター名【ウィロー】の男。ウィローは英語でヤナギだから、十中八九ヤナギンだ。現実とは打って変わって、燃えるようなクリムゾンレッドの髪が目を引くが、大型犬のように人懐っこく笑う表情は、まさしく彼そのものだった。


 そして、そんな二人のやり取りを、お淑やかな佇まいで一歩後ろから見守っている彼女が、東条さんだろう。理由はアバター名がなぜか現実と同じ【東条】な上、その顔立ちは現実の彼女の面影を寸分違わず写し取ったかのように、驚くほどリアルで整っているからだ。艶やかな長い黒髪は、動きやすいように一本に束ねられていた。


 三人が無事にログインしてくれたことが嬉しくて、俺は満面の笑みで手を振って近づこうとした。


 だが、その前にちょっとしたアクシデントが起きる。ちょうど声をかけようとしたタイミングで、その辺にたむろしていたチンピラ数人が、カモを見つけたとばかりに彼女たちに絡み始めたのだ…!!


「おーい、嬢ちゃんたちぃ……へへっ、へへへ…おいしいキャンデー、いらない? ひひぃ!」


 ナイフをペロリながらもアヤシイ目つきで彼女たちに詰めよる姿は到底、健全なお誘いとは思えない。


「このナイフ…実はキャンデー!! キャンデー型のナイフ! 道具屋で発売中! ひひぃ!」


 訳の分からない宣伝文句を叫びながら迫るチンピラたちに、すぐにベルが二人の前に出て、鋭い目つきで制した。


「近寄らないで。今、私たちは大切な友人を待っている最中よ。あなたたちに構っている暇はないわ」


 その言葉を聞いた先頭のチンピラは、何が面白かったのかヘラヘラと笑い出す。誘い笑いを受けたほかの取り巻きも合わせて笑い始めた。


「何がおかしいの」


「友人を待ってるだぁ? なら、その土産にこのナイフ型キャンデーを買ってかねえか? …買ってくれねえなら………ひひ、てめえらの道具袋に無理やり詰め込んで、代金はきっちりいただいてやるぅ!!」


 チンピラは両手と片膝を上げ、猿のような奇妙な構えでベルに飛びかかった。


「…仕方ないわね」


 ベルはゲーム開始直後とは思えない、しなやかな体捌きで攻撃をいなすと、軸足を全くぶらさずに、芸術的な回し蹴りをチンピラの脇腹に叩き込んだ。


 VRゲーム慣れしているにしても、凄まじい戦闘センスである。


「ぶべらっ!?」


 派手に吹っ飛んだチンピラは、タルやら木箱やらを巻き込んで盛大な音を立て、壁に張り付くようにして倒れた。


「ヒュ~…やるじゃねえか。だが、ここが誰の縄張りか忘れてんじゃねえぞ! お前らぁ! やっちまえ!」


 チンピラたちは引くどころか仲間を呼び、あっという間に三人を取り囲むほどの人数に膨れ上がった。


「おい、姉貴……じゃなかった、ベル! これ、ちょっとマズイんじゃないか!? 一回ログアウトするか!?」


「……彼が来るまではダメよ。約束したじゃない」


 東条さんが困ったように眉をひそめる。


「かと言って、このままでは……」


(よし、今だ! 俺の出番だな!)


 なんせ俺はこの町のボス。やつらは俺の言うことを聞くはずだ。颯爽と現れてチンピラを黙らせ、三人には「待たせたな」とクールに決める。我ながら完璧な作戦だ。


 俺は脳内で完璧なシナリオを描きながら、彼らに向かって歩き出した。


 だがこの作戦には、致命的な欠陥があった。


 そう、俺は三人に、自分のアバター名が【モヒカン】で、見た目が非常に凶悪な大男であることを、伝え忘れていたのだ。


 ⚜⚜


「お前らぁ! 何やってんだ、ゴラァ!」


 チンピラ共をかき分け、俺はハゲとイレーネを従えて現れた。凶悪な顔の大男が、怪しげな神官と強面の用心棒を引き連れて登場する。客観的に見れば、どう考えても悪の組織の幹部登場シーンである。


「ぼ、ボス!? なぜここに!」「道を開けろ、ボスのお通りだ!」


 俺の計算通り、チンピラどもは親に悪戯が見つかった子供のように縮こまり、道を開けた。


 俺は満面の笑みを浮かべ、三人に片手を上げる。


「やあ、待たせたな。悪かった。色々と事情を説明したいんだが――」


「……あなたが、こいつらのボスね?」


「え? ま、まあ、そうなる、のか?」


 予想に反し、三人の表情は硬い。


 ベルはいつでも戦えるよう腰を落として俺を睨みつけ、ウィローは完全に怯えて彼女の後ろに隠れている。東条さんに至っては、眉をハの字にして、明らかに怖がっていた。


「今すぐその物騒な部下を連れて、立ち去りなさい。私たちは、あなたたちに構っている暇はないの」


「いや、待て待て、何か勘違いしてないか!? 俺だよ、俺!」


 俺は自分を指さし、なるべく人好きのする笑顔を心がける。


 その必死の笑顔が、話をさらにややこしくした。


「ベル、こいつ『オレオレ詐欺』ってやつじゃねえか!? しかも笑い顔がすげえ悪そうだぜ!」


(ちげーよ、ヤナギン! お前は後でお仕置きコース決定だ!)


 お調子者のチンピラたちが、ヤナギンの勘違いに乗っかって、はやしたてる。


「ははぁ! さすがはボスだ! 相手を油断させる作戦ってわけですねぇ!」


「その鬼のような笑顔! やはり只者じゃねえ!」


 俺は無言で、俺の株を暴落させたお調子者のチンピラたちに、一人ずつ順番に、それはもう丁寧なげんこつを落としてやった。


「これ以上、話をややこしくするんじゃない!」


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