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53話 鈴の音


 ヤナギンが何か不満を口にするより先に、五十鈴さんが俺に質問してきた。


「ユウトくん、他にもVRゲームはしているの?」


「……えっと、今はベータテスト中ですが、『バウンドレス・レルム』っていう軍事AIを転用した最新のゲームをプレイ予定なんです。実は今回ヤナギンが誘ってくれたのも、正式サービス開始後に俺と合流する予定で、その予行練習というか……」


(まあ、この動物サバイバルゲー自体は、どっちかというとヤナギンが純粋にやりたかっただけな気もするが……)


「……ふふ、そうだったのね。年は私が少し上だけれど、そんなに畏まらなくてもいいわ。敬語は必要ないから」


「あ、はい!」


 そうは言いつつも、つい出てしまう敬語に、俺は内心で一人焦っていた。五十鈴さんはその様子に一瞬だけむすっとしたような、拗ねたような顔を見せたが、すぐに表情を和らげ、会話を再開する。その小さな表情の変化に、少しだけ親近感を覚えた。


「…………今すごく注目されているゲームね。抽選倍率がとんでもなくて、参加資格を得られるのはごく一部の人だけだって聞いているわ。選考、かなり厳しかったんじゃない?」


(え、そうだったの…?)


「…ベータテストの選考、どうやって合格したの?何か特別なアピールでも?」


 彼女は興味深そうに首を傾げる。


「え?どうやってって…特別なことは何も。普通に面接を受けて…。担当は雨宮さんって方だったんですけど、いくつか質問に答えただけで…」


 俺がさらっと答えると、五十鈴さんの瞳がわずかに驚いたように見開かれた。それを見てヤナギンが小声で耳打ちする。


「こいつ、天然だから普通に受かる倍率じゃないって知らないんだよ。それに、伝説のプログラマーの名前とか絶対知らねえだろうし」


「……そうなの」


 五十鈴さんは俺の顔をじっと見つめてから、どこか楽しそうに微笑んだ。


「ユウトくん、私はゲームには結構自信があるのよ」


「は、はぁ……確かにすごく強かったですよね。引き分けちゃいましたけど……」


「そうね。今日みたいに引き分けることってあまりないから……ちょっと新鮮だったわ」


 俺は慌てて答えるが、どうやら彼女が望んでいた返事ではなかったようだ。五十鈴さんは少しだけ頬に指をあてて、何か考える素振りを見せる。


(……ん? なんか俺、変なこと言ったかな?)


 初心者の俺が彼女と互角に渡り合えたのは、強キャラのゴリラを引いたおかげでしかなく、純粋な技量では明らかに負けていただろう。


 特に変なことは言っていないはずだ。


「あ~言い忘れてたけど、姉貴はこう見えてもプロゲぐぅぇっ!?」


 ヤナギンが何かを言いかけた瞬間、五十鈴さんが鮮やかなひじ打ちで発言を封じ込めた。


「プロぐえ?」


「……なんでもないわ。この子、たまに訳の分からないことを口走る癖があるの」


(あ、それはなんとなく否定できない……)


「そう……ですね」


 俺が曖昧に相槌を打つと、ヤナギンはショックを受けたように大げさに顔を歪めた。


「『そうですね』ってどういうこと!?しかもなんでちょっと深刻そうに言うんだよ!?」


「話を戻すわね」


「無視しないで!?」


 痛がりつつ騒ぐ弟を華麗にスルーし、再び俺に視線を向ける。その瞳はさっきより少し真剣で、どこか決意を秘めているように見えた。


「そのゲームだけど…実は私も前から気になってたのよね。でも一人だと少し入りにくいというか……だから、ユウトくんがプレイするなら私もやってみようかなって思ったの」


「えっ、俺とですか?」


「ええ。今日ユウトくんと遊んでみて、あなたとならきっと、他のゲームでも楽しく遊べるんじゃないかなって。良かったら、一緒に遊んでくれる?」


「もちろんです! 一緒にできるなら俺も嬉しいですよ」


「良かった」


 彼女は両手を合わせて微笑んだ。その無邪気な仕草に、思わずドキリとしてしまう。


「あーっ!待てよ姉貴!悪いけど、ユウトは俺と遊ぶ予定なんだからな!姉貴は他に女友達がいくらでもいるだぐぇっ!?」


 復活したヤナギンの抗議は、さらに威力を増した二撃目の肘打ちによって再び沈黙させられた。


「じゃあさ、連絡先交換しない?スマホのほうが楽でしょ?」


 彼女は屈託なく言って、ピンク色のスマホを取りだす。


「お、お願いします……」


 おずおずとスマホを差し出すと、彼女は手慣れた様子で操作し、すぐに通知が来た。


 彼女の名前が登録される。SNS上では『ベル』という名前らしい。アイコンはシンプルなベルのイラストだった。


 プライベート用だろうか?彼女ほどの容姿なら顔写真を使えば相当な人気が出そうだが……ここは余計な詮索をしないほうがよさそうだ。


「お、俺のユウトが、姉貴に取られる…!」


 ヤナギンが哀れに震える手を伸ばしてくる。


「いつからお前の所有物になったんだよ…」


「…連絡先を交換するくらい、普通のことでしょう?」


 五十鈴さんも淡々と追い打ちをかける。ヤナギンはむすっとして立ち上がった。


(復活が早い!?)


「ああそうだとも!でもな、姉貴が男の子と連絡先交換したいなんて、ましてや自分からなんて今まで一度も見たことぐぇぇぇっ!?」


 三撃目はもはや芸術的なクリーンヒットだった。これは明らかにヤナギンの失言だ。南無。


(正式サービスは、俺と東条さん、ヤナギン、そして五十鈴さんの四人で行動することが多くなるだろうな……)


 問題があるとすれば、俺があのキャラを使っていることと、カルマがマイナスに振り切った状態になっていること。そして、あの騎士団が壊滅した町が今どうなっているのか、全く分からないこと。


 あとはメディの存在「くらい」か…? あとは……


 ……いや、「くらい」で済ませていいのか、これ。



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