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40話 巨大魚現る!


 老師が崩れ落ちる姿を見て、僕の頭は真っ白になった。質の悪い冗談であってほしいと、どれほど願ったことか。何度瞬きしても、目に映る光景は変わらない。


 老師を支えていた邪魔な兵を突き飛ばし、老師の首に腕を回し、倒れないようしっかりと抱えた。


「老師…!?ど、どうして…何がどうなっているんだ!誰か説明しろよ!?」


「あ、アスタ……やめ、なさい。」


「老師…!」


 顔色はとても悪いように見える。先ほどまでの健康的な肌は、まるで何年も放置した干物のように変化しているうえ、目には光がなく、生気がないし口からは出血が続いている。


「すぐに手当てをしないと……回復だ!回復できる奴を呼んで来い!今すぐに!!ポーションがある場合は全部持ってこい!早く!」


「ひ、ひぃ!?わかりましたぁ!」


 近くの兵に怒鳴りつけると、そいつは何度も頷く。そして躓きながらも背を向けてどこかに走っていった。


 老師のしわだらけの手が僕の腕を掴む。


「アスタ…よく、聞きなさい。」


「…老師?」


「『クロノシフト』を発動させた時から、この時、そしてこの場が自らの死地であると知った。使命と死をこの、瞬間に、悟ったのだ。…ゴホ……すべては、神の御言葉通りであった………アスタ。お前は、最期の希望だ。今からでも遅くはない……お前も、神の声に従うべき――うぅ、ゴホっ」


 諭すように語る老師の言葉と表情には、信念のような強い意志を感じる。


「老師……ここから撤退せよと言うのですか。…貴方をこんな卑劣な罠に陥れた相手を、野放しにしておけと言うのですか!!それだけは絶対にできません!!」


 老師の目から光が消えていく。


「あぁ…定め…か。こうしてお前と話すのも、随分と久しく感じる。……いや、お前たちにしてみれば、一瞬の出来事であったか……ゴホっゴホ」


「クロノシフトが発動し、罠が解除されたと思ったら老師の容態が変わりました。一体何が起きたのですか。老師!!貴方の魔力は無尽蔵だったはずです。どんな相手でもその力と魔力で困難を打ち砕いてきたはずです。貴方が負けるはずがない!」


「アスタ……万事が見えぬから、畏怖は生まれる。それは、防ぎようが無いやもしれないが。…だが、人は何度でも、選択することができる。過ちの後であってもだ……ゴホ……このダンジョンの主に、勝てるものなど……今の…お前たちでは…だから……っ」


 僕の腕を掴んでいた老師は、その手を放し、瞳からは完全に光が消えた。


 洞窟から風の抜ける音だけが響き渡る。


「老師…?嘘ですよね……?」


「……」


 松明を持った兵が生存確認を行い、首を横に振った。


「メルキオ様が………お亡くなりになりました。」


「嘘だ…!嘘だ嘘だ嘘だウソだ!!」


 怒りに身を任せ、近くに配置されたばかりのポーションを飲ませる。


 だが、老師の口から零れ落ちるだけで何も起きない。


「こんなふざけた罠で老師が死ぬわけがないだろう!!お前たちがポーションを持ってくるのが遅かったせいだ!!どうしてくれる!!」


 ポーションを運んできた兵を殴らないと気が済まない。


 だが、ゼクトが僕の肩を掴んで妨害した。


「いい加減にしろ。アスタ殿。メルキオ様が犠牲になったのはお前に後を託すためだ。ここで取り乱しても、何も解決しないだろう。ここは最後の助言に従っておくべきなんじゃないのか。メルキオ様がお亡くなりになったのは残念だが……」


 どいつもこいつも、鉄頭共はなんにもわかっちゃいない。


「そうか………ははは。本当に鉄頭共は中身まで筋肉の塊だ。僕がこんなダンジョンに屈すると…まさか、負けると思っているのか?」


「そうは言っていないだろう!」


 ゼクトの顔が険しくなるが、我慢できない。ここは言わせてもらう。


「老師はダンジョンの主の謀略を受けた…そうだ。そうに違いない…ははは!!実力では叶わないから、そうやってこちらの戦力を削る算段だったんだ!最初のゴブリンの奇襲だってそうだ!」


「アスタ殿……」


「老師が…時空間魔術師が罠の解除ごときで死ぬわけがないだろう。卑劣な特殊能力に違いない。ちっぽけな罠を魔法で解除したら、無条件で一人殺してしまうようなカラクリだったんだ。そうじゃなきゃなんにも説明がつかない。老師は…完全完璧なる奥義、クロノシフトは破られてなんかいない!!」


「アスタ殿!!」


「うるさい!!……僕は一人でも前に進むぞ。鉄頭共は好きにしろ。居ても居なくても同じだ。敵は今討つべきだし、罠はもうないはずだ。攻略を終わらせ、老師が…老師の魔法が最強であったと示さなくてはならない。意味のある死であったと、手向けにしなくては。…ここは、できたばかりのダンジョンだ。もう切り札は無いはずだ!」


 後ろから『アスタ殿!』と何度も僕を呼び止める声が響くが、構うものか。


 前に進むための扉は空いている。それなら進む以外に選択肢は無いだろう。


 きっとダンジョンの主がこの先で震えて僕に殺されるのを待っているだろう。お望み通りにしてやらねば気が済まないのだ。



 ⚜⚜



 扉の先は、水中だった。


 第一階層が水没していたので、水にまつわるダンジョンだとは思っていたが、陸に存在するダンジョンで、ここまで大規模な水エリアを持つものは今まで聞いたことがない。


 水中エリアは魔力を持たぬものであっても、何故か呼吸自体は不自由なくできるのが不思議だ。問題は、装備が水の影響を受けて体が沈んでしまうことと、うまく身動きが取れないことか。


 深海にも似た環境のせいか、あまり先が見通せないことも不利だ。


「ごぼごぼ……」


(喋ることも難しいか……)


 魔術を唱えようとすると、水が邪魔をする。これでは難しい詠唱もできない。


 少し歩くと、大きな影が僕の前を通り過ぎた。


「ごぼぼ……!!」


(敵か…!!)


 杖を構える。と徐々に大きな魚影が姿を現した。


「ごぼ…!?」


 あまりの巨体に少し驚いてしまった。


 何せ目の前に、自分の身長の半分ほどある大きな魚の目が現れたから。


 その姿は異形にも近いものだった。全長は大人が10人分ほどあるだろうか。顔…というより口の大きさは全体の4分の1にもなり、鋭く尖った歯が所狭しと雑に生え揃っていた。こいつに噛まれたらひとたまりもないだろう。


 全体的に色は黒っぽく目がギョロギョロと絶えず動いていて、見ていると気分が悪くなる。顔以外は細長く、ヒレは透明で小さい。


 顔と目と口だけ肥大化したヘビが海を泳いでいるように見えなくもない。間違いなくモンスターだ。


「ごぼぼぼ……!!」


 魚の目は僕の存在を認めると一度、その瞳をギョロっと一周させる。体をうねらせると僕と距離を取って、その大きな口を開いて突進してきた!


(くそ……!大きな体を吹き飛ばすには威力が……かといってここからでは詠唱が間に合わない…!!)


 身を守る障壁を張って、まぶたを強く閉じる。


(障壁で守り切れるかどうか…衝撃に備えなくては…!)


 衝撃が伝わる代わり、耳元で金属音がぶつかる音が響いた。


 キィン……!


(なんだ…?)


 まぶたを開くと、目の前で僕を守るゼクトの姿があった。


 ゼクトは槍を開口した魚の口に立て、攻撃を防いでいるではないか。


 余裕を見せたいのか、僕にサムズアップまでしてみせた。彼が今喋れる環境にあれば『大丈夫か、アスタ殿!』と言っていたに違いない。


 周囲をよく見てみれば、鉄頭共たちが僕のあとをついてきている。


(お前たち…なぜ…)


 

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