第36話 軍隊で来やがった!
ダンジョンの改修が終わってから程なくして、ウェーブ2開始のお知らせが入った。
その後、すぐに人間の斥候らしき人物が入り口付近を調査しに来たが、最初のエリアをチラっと見ただけで帰っていった。
こちらとしては出迎える気でいたため、斥候の即撤退は予想外だった。結果、対応が遅れてしまい、こちらの1階層の情報を持ち帰られてしまう結果に。
最初の階層は知っていても対策が難しいギミックであるため、よっぽどのメタ構成じゃない限り影響はなさそうだが、今までとは明らかに違うNPCの行動に、なんだか嫌な予感がしてしまう。
(あの斥候は一体何がしたかったのだろうか…。まぁ一人逃したくらい問題ないかな?)
なんて呑気ことを考えていたのだが…
⚜⚜⚜⚜
「マスターはん!敵さんのおでましや!」
「む…?」
ログアウト時間が迫っていたので、残り時間はカードゲームでもやろうかと思っていたら、ぞろぞろと隊列を組んだ軍らしき影がこちらに迫ってきているではないか!
(うげげ…あの斥候が場所を教えたのか)
やはり一人でも逃がしたのは失敗だったかもしれない。
だが悔やんでいても仕方がない。迫りくる脅威に対処しなくては……
「ぎょーさんおりますな…マスターはん…」
マグロのおっちゃんの表情?も心なしか不安そうに見えなくもない。
「うむ…今回は、一筋縄ではいかないかもしれないな。敵陣の構成は…」
水晶体の機能を使い、敵軍の様子をズームアップ
ダンジョンの水晶は外の様子が分かる優れものだ。
「騎士が率いているのか?」
部隊のほとんどは重装備を身に着けた騎馬隊だ。
「先頭にえらいごっつい男がおりますな」
「ふむ…?」
水晶体が映し出す位置を先頭にフォーカスする。
部隊の先頭を務めるは、一際目立った装飾付きの白い鎧を身に纏っていた。水晶体から様子を見ていると、こちらのダンジョンへ接近しつつも馬に跨って部下へ指示をあれこれと出しているように見える。如何にも強そうな騎士って感じだし、まずこいつがリーダー格なのは間違いなさそうだ。
「それだけじゃなさそうだな」
彼の傍らには、二人のローブ姿がある。一人は初老の男、もう一人は若い男だ。二人とも軽装で、武器らしい武器は背にある大きな杖の他は無さそうだ。
「隊長格の騎士様と、魔術師二名率いる軍隊か……」
(どんな魔法を使用してくるか、それ次第ではこちらの動き方も変えなければ…)
あの雨宮哲人が『手ごわい』と念押ししてくるくらいだ。数を揃えてくるのには、それなりの戦略と勝算があってのことだろう。
「ダンジョンの外では不利だから、いつも通り籠城作戦で迎え撃つ。念のためメディにも戦闘準備をさせておこう。おっちゃんも危ないから、ここのエリアから出たらダメだ」
「わーっとります。まぁ、何事もなくマスターはんが勝ちますやろ!お手並み拝見ということで、ほな飯でも食ってきますわ」
「おい、フラグを立てるんじゃない」
⚜⚜⚜⚜
ダンジョンの入り口付近に到着した騎士たちは、図々しくも外に野営を敷き始めた。
白い天幕と狼煙が次々とあがり、物々しい雰囲気が出来上がっていく。
少しして、見覚えのある斥候が、騎士隊長へ紙らしきものを手渡した。
「あ、あいつ…!俺が逃がした斥候じゃないか!」
騎士隊長は斥候から受け取った紙を広げ、入り口と交互に目をやっては斥候と何かを話している。斥候は入り口を指さし、何かを漕ぐような仕草を繰り返していた。
「やっぱりアイツが手引きしたんだな。逃がしたのは本当に迂闊だった…」
水晶体から声を聞き取ることができないが、恐らく内部構造を瞬時に把握できるような技能を持っているかもしれない。彼の仕草は歯車を回しているようにも見えるからだ。ダンジョンをチラッと覗いたくらいで奥の構造まで判断できてしまったのか。
恐るべし来襲者の技能
騎士隊長はすぐさま魔術師二名を入り口付近に招き、同様の仕草をしてみせた。魔術師たちは頷くと、杖を握り直して笑みを見せている。
「ははーん…読めてきたぞ。と、なると…あの魔術を使う奴は、俺のギミック対策で連れてきた輩って所か?」
このままクリアさせてくれるつもりは無さそうだ。
だが、受けて立つ!




