2話 希望に変わる?
ヘリから飛び降りて屋上に着地した女性は、ロケットランチャーで周囲のハーピィーたちを一掃した。爆音と煙が屋上に広がり、血と羽が飛び散る中、彼女は涼しい顔で立ち尽くしていた。
「やぁ君たち、大丈夫かい?」
長い赤い髪で、女性にしては長身の彼女は私たちにそう聞いてきた。軍服らしきものを着ているけど、どこか無造作で雑な雰囲気がある。しかし……何が起きたかわからず、私たちはただ呆然とするだけだった。さっきまで死を覚悟していたのに、今は目の前に救いが現れた。頭が追いつかない。
「えっと……誰ですか?」
菜月が警戒した声で尋ねた。私も同じ気持ちだ。いきなりヘリで現れてロケットランチャーをぶっ放す女性なんて、警戒しないわけがない。私の手はまだ菜月の手を握ったまま、少し汗ばんで震えていた。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。 私は鹿島巴。 見ての通り軍人さ」
そう言って彼女は私たちに手を差し出す。どこも軍人に見える要素なんてないけど、ロケットランチャーとヘリだけは間違いなく本物だ。彼女の手は大きくて、少し荒れているのが見えた。私は恐る恐る目を上げて彼女を見た。鋭い目つきと、どこか楽しそうな笑みが混ざった表情。
「君たちは?」
「えっと……私は……天羽さくらです」
「……二階堂菜月です」
私と菜月がそう答えると、恐る恐る彼女の手を取った。菜月の手が私の手を少し強く握り返してきたのがわかった。まだ不安だけど、彼女がそばにいるなら少しだけ安心できる。
「君たちにはこのまま私についてきてほしい」
「ついていってどうなるのよ!」
私が思わず聞き返すと、巴さんは少し笑ってこう答えた。
「簡単なことさ。私と一緒にハーピィーと戦うんだ」
「……戦う?」
不安が胸に広がった。さっき体育館でハーピィーと向き合った時、あの恐怖がよみがえる。でも、菜月は違った。
「戦う……さくらは安全な場所にいていいから。私は戦うよ」
菜月は覚悟を決めたような顔で言った。彼女の目は真っ直ぐで、少し震えていたけど強い光があった。私は怖い。でもそれ以上にハーピィーたちが……怖い。お父さんとお母さんのことが頭をよぎるけど、もう諦めるしかないのかもしれない。私は決心して、巴さんに手を差し出した。
「私も……戦うわ!」
「さくら!?」
「菜月は私がいないと危なっかしいもの」
菜月が驚いた顔で私を見たけど、私は強がって笑ってみせた。そして私たちは巴さんについていくことになったのだ。
ヘリに乗せられた私たちはそのままどこかに連れていかれる。ヘリのエンジン音が耳をつんざき、窓の外には壊れた街が遠ざかっていくのが見えた。ヘリの中には私たち以外にも数名の少女が乗り込んでいた。みんな怯えた顔で座っていて、私たちと同じくらいの歳に見える。この人たちは私たちを保護してくれたのだろうか。でも、どこか不安が消えない。
「君たち、今から向かう場所は対ハーピィー対策軍本部、通称は……ZETESだ。君たちにはそこで兵士として訓練をしてもらう」
「なんで私たちに? 戦う意思はあっても子供ですよ?」
私がそう尋ねると、菜月はこっちを向いて笑顔で答えた。
「そこは別にいいじゃん! きっと私たちのガッツに惹かれたのさ!」
「それだけのはずないでしょ! やっぱり菜月だけだと不安。ついてきて正解だったわ」
私が呆れていると、菜月はムキになって私に言い返してくる。
「な!? さくらだって本当は怖くて不安で仕方ないくせに!!」
そんな私たちのやり取りに、巴さんは大きな声で笑い出した。そしてこう答えたのだ。
「君たちには……素質があるからさ」
その言葉に、私と菜月は顔を見合わせた。素質って何? 戦うなんて考えたこともなかったのに。でも、巴さんの目は真剣で、私たちを見透かすような力があって、言い返す気になれなかった。
ヘリから降りた私たちは、灰色のコンクリートでできた大きな施設の前に立った。そこでとある制服を渡された。ダークネイビーとブラックの制服で、ジャケットは軽くて丈夫な素材をしていて、ウェストが細く絞られている。インナースーツやスカートまである。見た目は学校の制服みたいだけど、どこか戦闘服っぽい雰囲気もあった。
「それは君たちがこれから着る軍服だ。 制服っぽくて可愛いだろ?」
「スカートである理由はあるんですか?」
私がそう聞くと、巴さんは笑いながら答えた。
「可愛いからだよ」
「はぁ……」
私は呆れながら渡された軍服に袖を通していく。サイズはピッタリで、動きやすい。生地が肌に馴染む感じがして、意外と着心地がいい。菜月も着替え終わったようで、私のところにやってくると……いきなりスカートをめくってきたのだ。
「ちょ!? 何するのよ!!」
私は慌てて菜月からスカートを押さえた。顔が熱くなって、恥ずかしさで声が裏返る。
「いやぁ〜さくらのパンツでも見ておこうかなと」
「馬鹿なこと言ってないで早く行くわよ!」
私はそう言って菜月を急かして歩き出した。彼女はニヤニヤしながら後ろをついてくる。こんな時でもふざけられるなんて、菜月らしいけど……少しだけホッとした。
そして、少し歩くと大きな施設にたどり着いたのだ。校舎のような建物で、広いグラウンドと、いくつかの棟が連なっている。窓には鉄格子がはまっていて、どこか厳重な雰囲気が漂う。
「ここは……学校ですか?」
私がそう聞くと、巴さんは笑いながら答えた。
「まぁそんなところだ。 これから君たちはここで訓練してもらう。 君たちは栄えあるカイラス部隊の一期生に選ばれたのだ」
そして私たちが連れられた先には、他にも五人の女の子たち。みんな背格好が私たちに似ていて、多少誤差はあるけどみんな低身長だった。こんな子供だけで戦うの? っていうか、巴さんは戦わないの? 疑問が頭をぐるぐる回るけど、口に出す前に巴さんが話を進めた。
「全員揃ったようだね。 まずは君たちに名前を聞いておこうか」
巴さんにそう言われ、私たちはお互いに自己紹介をすることになった。私は少し緊張しながら口を開いた。
「天羽さくらです」
「二階堂菜月です」
すると巴さんは手を叩いて嬉しそうに言ったのだ。
「うんうん! いいねぇ〜仲良くできそうだね!」
そう言って巴さんは嬉しそうに笑いながら続けた。
「私は君たちの教官を務めることになった鹿島巴だ。 よろしくな」
そして他の五人も挨拶を始めた。最初に挨拶をしたのは、少し赤みがかった茶髪のストレートヘアの女の子だ。
「えと……月影玲奈です。 よろしくお願いします」
彼女は丁寧な口調で、優しそうな笑顔を浮かべていた。次に挨拶したのは、黒髪ロングでメガネをかけた女の子だった。
「私は風間ひかり《かざま ひかり》よ! よろしくね!」
ひかりちゃんは無邪気な声で、目をキラキラさせていた。そして次は、金髪のツインテールの女の子だ。
「私は神山凛花。 気軽に呼んでいただいても構いませんわ」
凛花さんは少し強気な声で、自信満々に胸を張っていた。次に挨拶したのは、青髪のショートヘアで目つきの鋭い女の子だ。
「あたしは西園寺夢華、よろしく」
夢華さんはクールな声で、どこか落ち着いた雰囲気だった。そして最後に挨拶したのは、茶髪ポニーテールの活発そうな子だった。
「私は藍原琥珀! よろしくねみんな!!」
琥珀ちゃんは明るい声で、元気いっぱいに手を振った。私たちはそれぞれ挨拶を済ませると、巴さんが大きな声で言った。
「さてと、君たちにこれからやってもらうことは二つ! バトルアシストスーツ! カイラスの着用訓練と体形維持だ!!!」
彼女の声が施設に響き渡り、私たちの新たな道が始まった気がした。私は菜月の顔を見た。彼女は笑っていて、私も少しだけ笑顔になれた。怖いけど、菜月がいるなら頑張れる。希望に代わる何かが見つかるかもしれない。
名前: 二階堂菜月
年齢: 17歳
外見: 小柄、黒髪、セミロング
性格: 行動的、友達を気遣う優しさ
目的: さくらと共にハーピィーと戦い、生き延びる