01 視界が灰色でも
この物語は復讐鬼をラブコメにしたら、良いんじゃね?と言う実験で創った作品です。ので、黎鴉の過去がとても暗くてドスグロイです。
ぶっちゃけ彼が幸せになる事は賛否が別れると思いますが、ハッピーエンドを目指したいと思います。あと、恋愛書くの初めてなので意見を貰うとありがたいです。
チャイムと同時にホームルームが終わり、騒ぎながら帰るクラスメイトと共に俺も教室を後にする。
皆が自宅やグラウンドに向かうも、俺はゆっくりと鞄から取り出したガムを口に含み、図書室へと向かう。
────何で、俺が部活何かに行かなきゃならないんだ......。
黄金色に染まる廊下をトボトボと歩き、何度も自問自答を繰り返し、家に帰る理由を考えて言い訳を思考するも、浮かぶ担任の顔で諦める。
ガラガラと建付けの悪い扉を開き、ため息混じりに小さく挨拶する。と、後ろから柔らかい物が二つ後頭部にぶつかり俺の態勢を崩す。
『御簾納先輩......走って来ないで下さい。貴女の巨体で押されると倒れます』
彼女は図書委員長である──御簾納夕満麗。譽啼獅黎鴉が彼女と出会ったのは、去年の蒸し暑い蝉時雨中だった。
まるで不良漫画の主人公が飛び出して来たかの様な、圧倒的強さを誇る少年。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすを体現し、戦意を失い悲鳴を上げる男の顔面に向かい、何度も金属バットを振るう。
返り血を浴び、冷たい瞳で痙攣する金髪の青年の睾丸を潰す。魚のようにピクピクと跳ねて痙攣するのを見て、左目を抑えて冷えきった声で告げる。
『噂は本当だっただろう?』
『何してるの?』
『売られた喧嘩を買っただけだよ。アンタも俺と喧嘩したいの?やる気のないならアッチ行けよ』
『喧嘩は良くないよ』
『あ?見たこといい所の娘だろ?アンタ。ん?薄鵶か。んだよ?嗚呼、警察呼んだの?分かった。離れる』
あの頃と比べ、比較的明るくなっと御簾納は感じる。血の匂いをだだよわせていた彼の匂いも、譲った香水の匂いがする。
『だって遅刻するかもじゃん?あと私167cmしかないもん!本音は?』
『普通に当てられるとムカつく』
『え〜〜!でも、最近黎鴉君が落ち着いてくれてよかったよ。四月なら今頃腹パンされてたよ』
『は?そんな事しませんよ。ん事よりも速く仕事しますよ。溜まってるんですから。あと、下の名前で呼ばないで下さい。嫌いなんですよ。黎朝の鳥とか......キラキラネームみたいで』
『オイオイ!ジバ〇ャンとかオワコンの名前寄りはマシだろ!』
『アハハ!だね!先生』
『はぁ。ここ、図書室なので静かにして下さい』
起業家の父を持ち、高校とは思えないスタイルをしているのに加え、アイドル顔負けの顔を持つので男子生徒からも当然人気が高く、女生徒達からも好かれている。
この人のとの付き合いも、もうすぐで一年が経とうとしている。
話しに入って来た男は、俺の元家庭教師であり現在の担任兼顧問の燐燈束冴。
此方も起業家の父を持ち、世界で燐燈グループの名前を知らない者がいないレベルの御曹司。公務員なのにギャンブルをしていて、負けた所を一度も見たことがない。
本人が『金何て吐いて捨てる位手にい入る。我社がここまでの成績を残しはじめたのはオレが産まれてきたから』と言うレベルの運に関して無茶苦茶自信家の癖してジャンケンはクソ雑魚。
四月に担任に無理矢理入れられて、それからこの関係になるまで、数ヶ月はかかったが、悪くなかった。
今日は俺と御簾納先輩準備室から入荷した本全てにブックカバーを掛け、カウンターは燐燈がやってくれてるらしい。
『うへ。今日は荷物多いねー』
『さっさと持ってきいましょう』
『お、重い』
『俺よりも体格良いのに何言ってるんですか』
『いや、何で私と腕の細さが変わらないのに君はそんなに力持なの?』
『筋肉の密度ですよ。男と女では筋肉量がそもそも違います』
テーブルにダンボールを置き、右眼に着けてあった眼帯を外す。大量の本に嫌気が差しながらもカバーを掛ける。
『いや〜〜黎鴉は作業速いね』
『先輩が遅いんですけどね。何か考え事ですか?』
『アハハ。私も受験生だよ?悩みは幾らでもあるよ〜?』
成績も良く、人当たりのいいこの人にも悩みはあるのか。当然か。次期社長なのだから、責任ってものは大きく伸し掛るもんだろう。俺には想像もつかんが。
──違和感。
ポコンと鳴るスマホを確認し、ポチポチと触る御簾納先輩を冷たい視線を送ると視線を逸らす姿を見てゲラゲラと燐燈が笑う。
『こ、怖いよ〜?』
『はぁぁ。先輩、通知は気っと居て下さいよ』
『ぅーグヌヌ。うへへ』
『笑ってもダメですよ?』
『うへ〜〜。駄目?』
『はぁ。ウヘウヘ言っても駄目なものはダメです』
作業を終える頃には時計の針が4時42分を指していた。空は黄金色から黒色へと代わり、蛾が照明へと平衡感覚を失って周囲を飛び回る。
────さっさと帰って寝よう。週末だし、タオルの中でゆっくりと過ごそう。
帰る準備を終え、図書室の鍵を閉めて燐燈に鍵を投げ渡す。
『ほい』
『サンキュ』
『......』
『な〜に〜ぼーとしてるの?珍しいねぇ黎鴉がボートするの』
『譽啼獅? どうした?』
『ん?』
突如襲う背筋が凍る様な感覚。熱が出そうな時の、あの時とは違う感覚。
頭を傾げ、違和感の原因を探そうとするも視界に映る物全てが日常と変わらない物。
────風邪でも引いたのだろうか?今日は何故だかぼーとする。
『疲れてんのか〜?』
『黙れ。疲れてなんかねぇよ。元気ピンピンだよ』
『風邪か?』
『熱でもあるの?』
『ないです』
『えーこの前見たいにお姉ちゃんって呼んでよ〜〜。アレは熱出立てる時限定なの?』
『ッ!!?......死ね!死ね!!』』
『おいその話し詳しく』
『早く職員室に戻れ!』
『アガッ────......おっ、おまえ、、、、』
『死ね』
腹に木造バットを砕く威力を誇る一撃を入れる。鳩尾に叩き込んだので、蹲る燐燈を見て逃げる様に学校を後にする。
何時も通り二人で駅まで帰る。俺はバス停まで、先輩は電車で帰るので帰り道が一緒と言う事もあるが、俺の過去の所業が有名なのでナンパや半グレ等の抑止力として燐燈に上手く使われている。
過去に犯した犯罪の出来事が関係しているのか、それとも母が所属していた組織が関係しているのか分からないが、中学時代に暴れ回ったことも影響しているのか治安が大分良くなった。
『はいコーンスープ』
『ありがとうございます』
120円の飲み物を手渡され、暖炉として持ち歩く。
トボトボと歩き、脳に異常でもきたしているのか、寒気で体を強ばらせながら御簾納先輩の言葉に相槌を打つ。
──────違和感。
こんな事、何で今言うんですか?先輩。
『この世界にはね。愛されなくても良いって、強がって何処までも進める人がいる。でもね?傷付けられないのも、縛られないのも良いけど、独りは寂しいよ』
『ん?何です?急に。必要ないですよ。一人で十分ですから、貴女がいなくなっても俺の生活に変化はありません』
『そう何だ。少し安心したよ。私が居なくても独りボッチにならないなら』
『余計な心配です。中学一年生から俺は独りなんですから、高校生にもなって独りが寂しい何て泣き言は言いませんし、一欠片として思いません。俺は独りでも、この世界が狡い奴が笑う世界でも、何処までも進み続けます』
『そうだ。今日は冷えるからさ。このマフラーを貸してあげる』
『要らないです。っ!だから!』
『はいはい。さようなら!』
改札口に向かって行くのを、滲んで行く先輩の背を見て言葉を投げ掛けようとするも、口が開かずにいた。
────_______?
声に成らない言葉が、喉元から全身に響いていた。この日の翌日、燐燈から御簾納先輩が自殺した事を聞かされた。
「先輩。起きて下さい。全く、この人は......」
「起きて下さいよ譽啼獅先輩」
「ウーン。むにゃむにゃ......」
「譽啼獅先輩!」
「うっうへ?!なっ。何なに?!」
アルビノ特有の色素が抜けた白髪が揺れ、手入れが入っていないのに直毛特有のくせっ毛がなく、長く伸びた長髪が窓から入って来た風によって靡いた。
左眼は月の様に蒼く、右目は海と陸を表している様な複数の色を持つ虹色の瞳と呼ばれる世にも珍しい瞳を持つ譽啼獅黎鴉は、容姿端麗文武両道の言葉が似合う男。
中性的な顔立ちや体格が小さい事で子供として見られるが、三年生になった現在ではアスリート同様の身体スペックにより、運動部の助っ人として活躍している事もあり、御簾納の後を後を継いで図書委員長となった。
彼の身体能力が高いのは、力を制御するリミッターがないからである。
「満景ちゃんがそんな大声が出せるとは思わなかったよ......。ちょっとびっくり」
「もう、ダンボールの中で寝るなんて、猫ですか?」
「黎鴉先輩が疲れてるのは分かりますけど、何時まで寝てるんですか?もう四時半ですよ?」
「うへ!?もうそんな時間!本屋閉まっちゃう」
「あそこ今日定休日です」
「え?本当?......マジか〜〜新刊欲しかったんだけどな〜」
「行きますよ。クレープ、奢ってくれる約束を忘れてませんから」
「────今日だっけ?柳も来るでしょ?奢るよ〜?」
この時は二人はまだ知らない。輝いて見える瞳は何も脳へと情報を伝える事はなく、少年の消えない罪と憎しみの過去を。
そして、青春は長く続く物だと思っていた。その時は。
一週間に一話投稿、したいなぁ(希望的観測)