第九話 告白・恋愛代行
放課後。
木々は静まり、虫の声さえ聞こえない校舎裏で柚野は月城を待っていた。
理由は簡単。朝にラブレターをもらったからだ。
差出人は書いていなかったのだが、月城だとすぐにわかった。
月城が依頼相手だと判明してニヶ月が経った。
あれからというもの一度意識した経験が恋へと変わるのにそう時間は要らなかった。
自分の恋愛には興味がなかったのでそれが恋だと自覚するのには時間がかかったが、今の柚野は即答できた。
月城のことが好きなのだと。
恋愛代行の契約を打ち切ってしまおうと柚野は思ったのだが、一度請け負った仕事は取り消すことはできない。
罪悪感は感じたが仕方のないことだ。
(朝、下駄箱見てラブレター入ってたの見た時は驚きも何もなかったんだよな。だって昨日相談受けてたし)
『明日手紙で校舎裏に呼び出して告白しようと思うんですけど、どんな手紙を書けばいいですか?』
と、柚野は月城から相談されていた。
だからラブレターの文を見ても何とも思いはしなかった。
しかし、朝から柚野は落ち着くことができなかった。
今だって柚野の心臓はいつもより早く鼓動している。
柚野の返事はもうすでに決まっている。
しばらく待つと、月城がやってきた。
「お待たせ、呼び出した本人が遅れるなんて申し訳ないわ」
「別にいいよ、さっき来たばっかだし......それで何の用?」
柚野はわかりきっていた。それでも悪戯っぽくそう言った。
「大体予想はついているのでしょう?」
「うん、まあ」
月城の頬は赤くなっていた。
月城は一呼吸して言い放った。
「私はあなたが好き。優しくて、頼れて、あなたのそばにいると楽しくて、温かくて......だから、私の彼氏になってください!」
真っ直ぐとした瞳に柚野は吸い込まれそうになった。
柚野の胸はもうすでに限界突破していた。
「いいよ、喜んで。俺も月城のことが好きだ。だからこれからよろしくお願いします!」
月城の目は赤くなっていて潤んでいた。
柚野はそんな月城の頭を撫で、そして二人は抱き合った。
***
「ごめんなさい、つい嬉しくって」
柚野と月城は隣り合って二人で校舎裏のベンチに座っていた。
近くで見る『彼女』はいつも可愛いのにも関わらず、さらに数段可愛く見えた。
「お互い名前で呼び合う?」
「そ、そうね、もうカップルだものね......ゆ、柚野くん?」
不慣れな感じで恥ずかしげにいう月城の姿に柚野は心打たれた。
「お、おう......は、遥香?」
「っ......」
月城は顔を赤くして目を逸らした。
何とも初々しい。
「遥香はさ、なんで俺を好きになってくれたの?」
柚野は遥香にそう聞いた。
恋愛代行である程度きっかけは知っていた。しかし理由と言えるほどのものではなかった。
傘を貸したくらいで柚野に好意を持たれるとは思っていなかったからだ。
特別イケメンであれば話は別だが、そんな部類ではないだろう。
「そうね、なんでかしら......表現するのが難しいのだけれど、私は自分で言うのも何だけれどこの容姿だから男子から色っぽい目でよく見られるの。だからよく誘われたり、この容姿だからという理由で優しくされたりするの。でも柚野くんにはそれがなかった。誰にでも平等に接していた。だからかもしれないわね。それにあなたといると楽しいわ」
月城はニコッと笑った。
これからも月城は容姿の面で苦労する時があるだろう。
そういう時に一緒にいて安心できるような存在に彼氏として柚野はならなくてはならない。
「正直、私は柚野くんと両想いだったとは思いもしなかったわ。なんで私のことを好きになってくれたの?」
「......二ヶ月前くらいかな、遥香の好意に気づいたんだ。確証はなかったけど段々と。だから意識しちゃってそれで遥香のことをもっと知りたいって思うようになった。それでいつしか好きになってた。俺も同じように遥香といると楽しい」
「私、そんなにわかりやすかったかしら......少し恥ずかしいわね」
「わかりやすいって言うか......」
柚野は遥香にこのことを言うか悩んでいた。
しかし、少し遥香の反応が気になったので言うことにした。
「遥香、俺に依頼してきただろ?」
「......え?」
「恋愛代行の依頼」
遥香は唖然としていて口がポカーンとなっていた。
「まさか......あれ? 柚野......くん?」
「そうだよ。めっちゃ俺のこと好きなんだな〜って思ってた」
「......ばか」
遥香の顔は真っ赤になっていた。
そして柚野は遥香が満足いくまでひたすらにほっぺを引っ張られた。
「はの、ひひゃいんでひゅけど」
「お仕置きよ......なんで今まで......あーもう!」
そうして高校で後に有名となるバカップルが出来上がったのだった。
完結です。ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました。