表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

第七話 確信

「本当にありがとう、助かった」

「いいわよ、別に」


 月城が傘を貸してくれなければおそらく次の日は風邪を引いて学校を休んでいたことだろう。

 柚野の普段からの生活習慣はだらしないというのにそれに加えて体を冷やしてしまったらほぼ確だ。


 (それにしても寒いな、雨降ってるからか)


 柚野と月城はお互いのペースに合わせながら歩いた。

 しかし雨の音しか聞こえず、話す話題がないので何だか気まずい。

 

 (......もしかして俺意識してるのか? まあ当然か、美少女と相合傘してるわけだし)


「あの、傘持とうか? 流石に入れてもらっているわけですし」

「そこまで気にしなくて大丈夫だわ。それにこれがお礼だし」

「お礼......? 俺何か月城にしたっけ」


 お礼と言われるようなものはしてないはずだ。

 むしろ今日は柚野の方がやっている。


 おそらく頬を赤らめていた原因はそれなのだろう。

 月城は気にしていなさそうだったが、柚野のしたことは本当なら引かれるレベルのことである。

 あとこのことを知った男子全員から引っ叩かれるだろう。


「ええ......今年の夏のこと覚えてないの?」

「今年の夏......?」


 柚野は夏あたりの記憶を辿ってみる。しかしそこに月城はいない。

 そもそも月城とそもそも接点がなかったはずだ。


「まあ、流石に覚えてないわね。ほら、傘貸してくれたじゃない。私に」

「月城に傘を貸した......?」


 柚野はそのまま記憶を辿った。

 すると、ある記憶が掘り起こされた。


 (あ......あれ、月城だったのか。全然気づかなかった......)


 今日の柚野のように月城は傘を忘れて、困り果てた顔でその雨を屋根の下見ていた。

 それを見かねた柚野は月城に持ってきていた傘を「これあげるわ」と言ってあげ、柚野自身は折り畳み傘で帰ったのだ。


「ああ、え、月城だったのか」

「ええ、まだ家に傘あるけれど返しましょうか?」

「いやいい、俺があげるって言ったんだ」

「......だからこれはお礼よ。あの時のね」


 そう言って月城は微笑んだ。

 流石に直視できなかった柚野は視線を逸らしながらも口元を緩ませた。


 (なんか月城とただ単に友達になりたかっただけなのに月城のことを知りたくなっている自分がいる)


 月城と話すのは正直言って楽しい。

 なぜなのかは柚野にも分からない。同じゲームをやっていたりと気が合うからなのだろうか。


 柚野と月城は雨の中ペースを合わせながら帰路についた。

 他愛もない会話をしながら笑い合いながら。


 もう少し月城と話したい。


 そう思う頃には柚野の家は目の前にあった。


「今日はありがとう、だいぶ助かった」

「ええ......あ、そうだ、どんな感じのお弁当かはメールで送っておくわね」

「おう、頼んだ、じゃあまた明日」

「ええ、また明日」


 ***


『今日は何か進展がありましたか?』

『はい! 雨が降っていて相手の人が傘を持っていなかったので傘に入れて相合傘をしたり、私が明日相手の方の分のお弁当を作ることになりました』


 (おっと、大きく進展したな......ん?)


 柚野も薄々気づいていた。マドンナ様が依頼主でそしてその相手というのが柚野ではないのかと。

 なにしろ柚野の状況と依頼主の状況が一致しすぎていたからだ。

 しかしそれを柚野は否定していた。


 そもそも月城が平凡な人の1人である柚野を好きになるわけがない。

 裏の顔は超がつくほどの恋愛オタクな訳だが、表ではごく普通の生徒なのだ。


 しかしこのメッセージではっきりとした。

 多分この依頼主は月城である。


「まさかとは思ってたけど、やっぱりこれ月城だよな」


 こう何度も偶然が続いてしまえば認めざるを得ない。

 

 申し訳なさと同時に謎の羞恥心が柚野を襲った。

 

 (月城が俺のこと好き......? ええ、いやいやいや......)


 柚野の鼓動はいつのまにか速くなっていた。

 告白はされていないがもう告白されたようなものである。


 柚野は自分の頭を一度冷やすためにベッドに大の字になって倒れ込んだ。


「いや、にしてもどうしよう......側から見たら性格悪いやつだけど、うん、とりあえず月城に今の気持ちを聞いてみよう」


 月城はひとまずは好きだけど相手(柚野)と仲良くなりたいという風な目的でおそらく恋愛代行を依頼した。

 だから今の気持ちを聞いてみようという魂胆である。


『それは良いですね。今の気持ちはどうですか?』

『会って話すたびに恋心が大きくなっていきます! 相手と付き合えたらな、なんて考えてしまいます! けどまだ早いですよね』


 (あー......うん、めちゃめちゃ月城のことドキドキさせちゃってるじゃん、俺)


 どうやらどういう訳か月城のことを柚野は恋に落としていたらしい。


 そうなってくると柚野側としても問題が生じる。

 どう接すれば良いか分からなくなってしまうということだ。


 仕事モードの柚野としては依頼主(月城)の恋を実らせたい。

 しかしいつもの柚野としてはなんともいえない。

 月城に好意を抱いていない以上、告白されても付き合わない。

 中途半端な気持ちで相手の告白を受けるわけにはいかない。


「あああ、どうしよう!」


 柚野はゴロゴロとベッドの上を転がりまわった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ