表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

第六話 間接キスという重罪

「うん、こうして黄昏るのも悪くないな」


 柚野は何となく弁当の気分だったので自分で作ったものをテラスのベンチで食べていた。

 

 (ここからの眺めいいな。これからは外寒くなるから無理だけど、今日ぐらいの涼しさだったら心地よい~)


 景色は絶景とは言えないが眺めは良い。

 弁当の味の方はまあまあの出来と言ったところだ。

 とても美味しいというわけではないが不味くはなく美味いは美味いので良いだろう。


 こうしてたまに作るのもありかもしれない。

 柚野は朝は早起きできないタイプなのだが(依頼が残っている場合は別)今回は早起きして自分で作っていた。


『せっかくだから私の分も作っておいてくれ』と柚野は姉こと明音から言われたが仕事量はさほど変わらなかった。

 しかし今度は明音に作ってもらおうと柚野は弁当を食べながら思った。


 弁当は焼肉弁当にした。手軽で難しくなく、その上してご飯に合うからである。

 

 そうしてご飯を口に運んでいるとある生徒から声をかけられた。


「隣、いいかしら?」

「あ、どうぞ」


 月城である。月城は柚野の左隣に座った。


「今日は弁当なのね」

「ああ、たまにはな」

「母に作ってもらったの?」

「早起きして普通に自分で作った。たまにはこういうのもいいかなって......」

「ふーん、良いわね、美味しそうだわ」

「月城はもう食べたのか」

「ええ、食堂で食べてきたわ」


 柚野は月城とそんな会話をしながらご飯を口の運んでいく。

 すると、月城が柚野の弁当をじっと見ていることに気がついた。


「......」

「あー......いる?」

「え、ええ!? さ、流石に悪いわよ。たしかに少し食べてみたいなとは思ったけれど......」

「別に肉の1枚くらい気にしない」


 柚野は弁当の蓋に肉を乗せて、柚野の箸と共に月城に差し出した。

 (正直なところ弁当久しぶりに作ったし他の人に感想が聞きたいっていうのはあるんだよな)


「本当にいいの?」

「おう」

「で、では......い、いただきます」


 月城はゆっくりと肉を口に運んだ。

 それを食べ終わる頃には月城の口元は少し緩んでいた。


「感想お願いします。一応焼肉のタレも自分で作ったんだ」

「うん......いいんじゃないかしら。普通に美味しいわ」

「なら良かった。正直不安だったんだ」


 月城は柚野に箸と共に蓋を返した。

 そして柚野は再び残り4分の1ほどとなった弁当の中身を食べ始めた。

 

「......」


 月城が無言で少し頬を赤らめながら柚野を見ていたのだが柚野がその意味に気づくことはなかった。

 

 しばらくして柚野が食べ終わると、月城はこんな提案をした。


「そうだ、明日は弁当を私が作ってきてあげましょうか? 私実は料理は得意な方なのよ」

「え、いいの?」

「ええ、料理をするのは好きだし、感想さえもらえたら私は嬉しいわ」

「まじか......ではお言葉に甘えさせてもらおう。ありがとう」

「どんな弁当がいいかは帰って聞くわね」


 月城はそう言ってベンチから立ち上がった。

 

 (マドンナ様の弁当......果たして俺が食べてしまって良いのだろうか)


 しかしマドンナ様の弁当を食べることになったという先駆けしたことに対する罪悪感よりマドンナ様の弁当を食べたいという欲求の方が強かったので柚野は月城の弁当を心の底から楽しみにして待つことにした。


「じゃあ、私は図書館に用事があるからお暇させてもらうわ」

「おう」


 (これは明日が楽しみだな~......ってあれ、ん?)


 柚野は先ほどの行いをふと思い返した。

 そして重大なことをしてしまっていることに気づいた。


 (俺が使った箸で月城が食べて、月城が使った箸を俺が使った......あれこれ間接キスじゃね......)


 柚野はこれ以上思い返すことをやめ、一部の記憶に蓋をした。

 

 柚野は姉がいたためそういうのをあまり気にしてこなかった。

 しかしよくよく考えて客観的にみれば柚野のしたことは結構なやらかしである。


 (まあ、いいか......って良くないわ)


 ***


 その日の放課後。


 雨が降りしきっており、柚野は昇降口付近でその様子を眺めることしかできなかった。

 傘を持ってきていなかったのだ。


 (あー、どうしよ。このまま濡れて帰ったら寒いし絶対風邪ひくんだよな)


 風邪を引くことは今のまま関係を上げて友達にまで持っていきたいので避けたい。

 好感度を上げるためにはまず相手の視界に入ることが重要だ。


 そのためにも休むわけにはいかない。


 (姉ちゃんに迎えにきてもらおうかな、今日バイトないみたいだし)


 明音に迎えにきてもらうことはできる。おそらく今は大学から帰っている途中だろう。

 しかし20分ぐらいは待つ必要がある。


「どうしようか......もういっそのこと濡れて帰ろうか」


 そうして柚野が雨の中バッグを傘代わりにして走り出そうとした時だ。

 後ろから声をかけられた。


「新庄くん、この雨の中突っ走るつもり?」

「......ご名答」

「私の傘貸してあげるわよ」


 月城はそう言って自分の傘を広げ、柚野を中に入れた。


 (これは相合傘というやつ......?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 月城の普段の喋り方が丁寧な印象あるし、「美味いわ」って言うのは違和感があるかなぁ 「美味しいわ」って言いそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ