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第四話 物欲センサー

『席替え! 席替え! 席替え!』


 午後の教室。普段なら睡魔に襲われ眠っている生徒もいる時間なのだが今回ばかりは別だった。

 柚野はただ便乗しているだけなのだがクラスメイト全員が手を叩いて席替えコールをしていた。


 担任がそろそろ席替えしようかな、と独り言のように呟いたところ、それが1人の生徒に拾われて期待されてしまった訳である。

 担任は腕を組み、教壇の前で眉間にしわを寄せて悩んでいる。


 しばしのコールの後、担任はパチンと手を叩いてクラスを静かにさせた。


「よし、わかった、今から席替えしようか」


 そう言うと、クラスは歓喜の声に包まれた。一部の人は別れを惜しむようなことを言っているが顔には笑みが浮かんでいる。

『席替え』というだけでこんなにもワクワクしてしまうのだから不思議だ。


「うう......お前ともお別れだぜ」


 春下がこちらを向いて目元を押さえた。


「その割には口元が笑顔だな」

「ん、まあな、可愛い女子と隣がいいですっ!」

「うーん、欲望に忠実」


 (月城と隣の席になれたらラッキーだな。......ん、いや、依頼主が好きな人とビンゴで隣の席になることなんか少ないから逆に月城と隣の席とか近くの席じゃない方がいいのか。その方が難易度が上がるしな)


 そもそも主人公補正がないのだからマドンナ様などという高貴なる存在と隣の席になれるわけがない。

 柚野はそう思い、なぜか妙に納得した。


「それじゃあくじ用意したから窓側の列の人から引いてけ~」


 柚野は席を立ち、春下の後を追いかけるように前へと進んだ。


 ふと、柚野が月城の方を見てみれば強く祈っている様子だった。

 仲の良い友達と隣の席になりたいのだろうか。


 (にしてもいつもの表情からは考えられない表情、何というか......美しいっていうか可愛い一面もあるんだな)


 少し見てはいけないものを見てしまった気がしたので視線を元に戻した。

 すると次は柚野の番になっていた。


 適当にくじを選んで先生に番号を伝えた。

 そして書かれた番号の席を見てみれば窓側から数えて2列目の席だった。

 右に一個ずれただけである。


 (あんまり変わってないな。まあいいか)


 柚野はくじを置き、元の席へと戻った。


「柚野、席どこだった?」

「右に一個ずれただけ」

「うおっ、まじか、俺は廊下側の席だからめっちゃ離れたな」

 

 (男子が隣の席だったらできれば仲良くなりたいな)


 特別コミュニケーションが得意というわけでもないが、苦手でもないので上手くいけば友達になれるだろう。

 春下は高校に入学した当初、この席と位置は違うが柚野の一個前の席だったので春下が話しかけれくれて仲良くなれたのだ。


「あわよくば月城さんと隣がいいっ」

「話しかける勇気もないのに? 朝、余計気まずくなるだけじゃね」

「眼福度が違うんだよ! 近くにいれば目の癒しになるだろ!」


 物欲センサーが働いているので、きっと春下の隣に来ることはないだろう。

 柚野としては月城ではなく、男子と隣が良い所だった。

 

 話すきっかけがなく難しい分、きっかけを自ら作らないといけないので友達になるまでの過程をはっきりとさせることができる。

 しかし隣の席になってしまえば、いつのまにか話していて仲良くなっていたという風に友達になるまでの過程が曖昧になってしまう。


 それでは依頼主に的確なアドバイスができないだろう。


「はい、それじゃあ席を移動してくれ」


 担任の合図と共に、全員が一斉に机と椅子を動かし始める。

 柚野は一個右隣に移動するだけなので楽だ。


 (さてと、誰が来るのかな......ん、ん.......うん)


「......物欲センサーってこういうことか~」


 どうやら物欲センサーが柚野にも働いたらしい。

 (まあ......いっか)


 全員が移動を終えた後、男子の羨望の視線が柚野に降り注いだ。

 特に春下は少し睨んでいた。


「それじゃあ隣の席同士で適当に挨拶でもしてくれ」


 俺は左隣を向いた。


「よろしくね、新庄くん」

「......よろしく、月城」


 柚野はマドンナ様の隣の席を引いてしまった。

 

 月城はさっと髪を耳にかけた。

 その何気ない動作に野郎どもは美しいと感じてしまうのだ。


 (まあ......いいか)


 ***


『今日席替えがあったのですが、隣の席になりました!』

 

 幸か不幸か、どうやら向こうも席替えが今日あったらしく相手と隣の席同士になれたそうだ。

 

 (ふえ~、こんな偶然あるんだな~)


 柚野も月城と隣の席になり状況が一緒なのでこのまま友達になるために攻略して行っても良さそうだ。

 何はともあれ、ここまで状況が重なるとは柚野は思いもしなかった。


『運が良いですね! では次の段階にいきましょうか。登校時間はいつもの時間に戻してください。隣の席同士なのですからいつものように早めの登校時間で登校して後から来た相手の方に挨拶した方がよいですから』

『そうですね、わかりました』

『それで相手の方の誕生日とか趣味とかを自然な流れで聞き出してください。友達になるまであと数歩です。頑張りましょう』

『はい、ありがとうございます』


 とりあえずの目標は連絡先を聞き出すことだ。

 そこからメッセージのやり取りに持ち込めれば関与できる場面が増える。

 あくまで本人が希望したら関与するだけであって、基本的には何もしないのだが。


 結局恋が実るかどうかはその人次第だ。

 だからその過程が人を成長させるし、楽しいものにする。

 

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