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7 剣の支給と魔法の講義


「くぅーっ。ウマイ!」


 僕は隊員食堂の定食のおかずに舌つづみを打っていた。


「あんた、よく飽きずに、そうやって美味い、美味い言っていられるわね」


 マチルダが呆れ顔で言った。


「マチルダ、ちょうどいいところに来た。このおかずは何ていうんだい」


「肉じゃがよ」


「そうか……。『肉じゃが』か。こんな美味いものを食べたのは初めてだ」


「はあ〜。あなたといると調子が狂うわ」


「それは前にも言われたことがある」


「そんなこと真顔で言わないで。よけい調子が狂うから」


 僕は黙って皿を持って立ち上がった。


「食事が済んだのね」


「いや。おかわり」


「いいかげんにしなさい! 私がここに来たのはあなたを呼ぶためよ」


「なんの用?」


「剣よ。あなたに支給する剣が届いたの。だから呼びに来たのよ」


 僕は空になった肉じゃがの皿をテーブルに置いた。


「本当!?」


「ええ、ついて来なさい」




「うーん」


 僕は木箱から取り出された剣を見て唸った。


 てっきり新品が来たのかと思ったら、中古の使い古しだった。


 だが、それはまだいい。


 問題はその剣に血がべっとりと付着していたことだ。しかも鞘や柄についていた。おそらくはこの剣の持ち主のものだろう。


 それに血はまだ乾ききっていなかった。


「これは……?」


「昨日、殉職した王都治安部隊第5分署の隊員のものよ」


「……」


 殉職した隊員の備品を使い回すことはまだ許容できるが、血も拭わずそのまま次の隊員に渡すのはどういうものだろうか。世間の常識に欠けている僕でもおかしいと思った。


 マチルダが目をそらした。


「あんたの言いたいことはわかる。でもこれが現実よ。治安部隊員は消耗品でしかないのよ。期待もされていないし、大事にもされていない。使い捨ての駒にすぎないの」


「でも……」


「だから、剣術や魔法を身につけたら条件のいい他国の傭兵や冒険者に転職することね」


 治安部隊は、行き場の無い者の吹き溜まりと言われているが、血に濡れた剣を見てやっとその言葉に実感を持った。


「この剣の持ち主の名前は?」


「そんなことを訊いてどうするの」


「ふと気になっただけだ」


「ごめん。知らないわ」


 僕は黙って剣を受け取った。


「じゃあ、行くわよ」


「どこに」


「授業よ」


「授業?」


「魔法の研修よ」


 魔法の研修はブリーフィングルームで行われた。


 非番の隊員も出てきており、狭いブリーフィングルームは隊員たちでいっぱいだった。


 月に1回、冒険者ギルドからCランク以上の魔道士をジョブとする冒険者が派遣されて来て魔法の使い方を講義してくれるのだという。


 期待して授業に出たが、すぐに失望した。基本中の基本の魔力のため方や魔法の基礎理論、そして初級の攻撃魔法の詠唱の仕方だけだった。


 すでに僕が知っていていることばかりで何一つ新しいことは学べなかった。


 最後に講師の冒険者が何か質問は無いかと訊いた。


 僕は手を挙げた。


「はい、そこの君」


 僕は立ち上がった。


「講義では間接魔法について一切触れていませんでしたが、間接魔法はいつ教えてくれるのでしょうか」


 講師の冒険者は片方の眉を上げた。


「間接魔法だと? そんなものは教えることはできない」


 それを聞いて僕は驚いた。山の隠れ里でブラウンから魔法を学んだ時に、ブラウンは攻撃魔法よりも間接魔法の方を重視した。学ぶ時間は1対2くらいで、間接魔法の修行の方が多かった。間接魔法とは補助魔法ともいい、攻撃魔法と回復魔法以外の一切と言ってもいい。


 敵の位置を遠くから索敵したり、身体強化をして攻撃に対する耐性を強化したり、速度を早めたりと本当に便利な魔法だ。


 暗殺者はド派手に城壁を破壊して、建物ごと対象者を爆破したりはしない。派手な立ち回りもNGだ。


 隠密理に単独または少数で対象者に接近し、殺す時の理想は毒針で背後からひと刺しするイメージだ。だから間接魔法を駆使する。だが、暗殺者でなくても間接魔法は有用だと僕は思っていた。


「どうしてですか? 間接魔法は治安部隊においても有用だと思います」


「君たちが間接魔法を使うだと!?」


 冒険者は笑い出した。


「いや失礼。まず、間接魔法は高度な魔法だ。初級の火炎弾も満足に撃てない君たちでは取得するまでに10年はかかる。次に、間接魔法の使い手は少ない。難しいだけでなく、そもそも人気が無いんだ。間接魔法を学ぼうする者はほとんどいない」


「どうしてですか」


「間接魔法の使い手はその努力に見合った評価を受けることが難しいからだ。例えば、パーティのメンバーにバフをかけて敏捷性を上げて魔物の討伐に成功しても、バフをかけられた前衛のアタッカーは、後衛の間接魔法を使う魔道士のおかげで自分たちが勝てたとは思わないし、感謝もしない。それどころか、何もしないで後ろに隠れていた奴が報酬をもらうことに反発することがあるくらいだ。だから間接魔法を極めようとする者はとても少ないんだ」


「そうですか……」


「いずれにせよ、君たちのレベルでは間接魔法なんてまだ10年早い。それよりファイヤーボールをしっかり形成して飛ばすことができるように研鑽を積むんだ。私のみるところ、一番初級の魔法ですら発動するまでに至らないのがこの部屋にいる受講生の大半だ」


 そう言うと講師の冒険者は「時間だ」と言ってブリーフィングルームを出ていった。


「ねぇ」


 講義が終わるとマチルダが僕の元に来た。


「なんだい」


「あなたは、間接魔法を使える人を知っているの?」


「いや。聞いたことがあるだけだよ」


「そう。私も間接魔法を使える人には、まだ一度も会ったことが無いの」


 カンカンカンカン


 ブリーフィングルームに警鐘の音が響き渡った。


「出動よ!」


 マチルダが駆け出した。


 僕もあとについて駆け出した。




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