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6 冒険者崩れ


「テメェら、来るんじゃねぇ!」


 男が剣を両手持ちして怒鳴った。


「やっかいな相手だな」


 ラウレスが舌打ちをした。


「あいつを知っているんですか」


 僕は訊いた。


「ああ、評判の良くない奴だ」


「盗賊ですか」


「いや。冒険者だ」


「冒険者?」


「あいつはドゥデンという冒険者崩れよ。自堕落な生活をしていて酒を飲んでは暴れるのよ。今までは酒を飲んで暴れても素手の喧嘩だったけど、今回は剣を抜いているからマズいわ」


 横からマチルダが言った。


 僕はドゥデンを見た。


 剣の持ち方くらいは心得ているようだが、別に普通だった。構えや歩き方を見れば、普段鍛えていないから足腰が弱いのは明らかだった。なんの脅威も感じなかった。


 だが、ラウレスは剣を構えながら脂汗をかいていた。マチルダもその横で真剣な表情をしている。


「誰か、冒険者ギルドに行って応援を要請してこい」


「応援ですか?」


「見てわからないのか。ドゥデンは、あれでもCランクの冒険者で、剣の使い手だ。冒険者パーティでは前衛の剣士を務めていた手強い相手だ。うかつには手をだせない」


 僕は意味がよく分からなかった。


(あんな弱い相手に手を出せないだと?)


 ドゥデンはそれを聞いて笑った。


「治安部隊員など武術を習うことすらできない底辺の貧民の寄せ集めだろう。命が惜しければ、俺の邪魔をするな」


「何をする気だ」


「決まっているだろう。俺を裏切った尻軽女にお仕置きをするのさ」


「ひいいいいいいいい」


 ドゥデンの後ろには若い女性が地面に尻もちをつくようにして後ずさりをしていた。


「よくもこの俺を裏切って他の男と寝たな」


「あなたとなんか、そもそも付き合ってもいない。私は裏切っていない」


「俺と付き合っていないだと! ならあの気のあるような素振りはなんだったんだ」


「私はホステスで、あなたはお客さんとして来たから、仕事をしただけよ」


「嘘だ。そんなはずはない。お前は俺のことが好きなんだろう。そう言っただろう。だから俺はお前に大金をつぎ込んだ」


「お店で指名をしてくれて、高い注文をしてくれるお客様は好きと言っただけよ」


「もういい、この売女め。殺してやる」


「助けて」


 ドゥデンが剣を振りかぶった。


「やめなさい!」


 2人の間にマチルダが入った。


「何だテメェ」


「第7分署遊撃隊 ラウレス班のマチルダよ」


「このクソが」


 ドゥデンの剣が振り下ろされた。


 マチルダが剣を打ち払った。


 しかし、その防御は隙きだらけで、次の第2撃が来れば斬られるのは間違いなかった。


 僕は邪魔なさすまたを地面に置くと、暗殺者の歩法でドゥデンの背後を取った。


「あのう」


 ドゥデンに声をかけながら、後ろから両肩に手を置き、軽く下に向けて引いた。


 肩を後から下に引かれると簡単に人は仰向けにひっくり返る。まして、毎日酔っ払っていて自堕落な生活をしていて足腰が弱いドゥデンにとっては持ちこたえることは不可能だ。


 ドゥデンが亀の子のようにひっくり返り、手足をバタバタさせた。


 マチルダが驚いた顔で僕を見る。


(あれ、今のはまずかったかな。本当なら後ろから首筋に手刀一発で首の骨を折るか、頸動脈を潰して脳に血が行かないようにして、殺すのだけど、それをやると暗殺者とバレてしまうから、肩を少し引っ張っただけなのに……)


「この野郎」


 ドゥデンが立ち上がった。


(素手で簡単に殺せるけど、ここは弱いふりをしないとマズいな)


 僕は無詠唱で、鈍化の魔法をドゥデンにかけた。


 ドゥデンの動きは目に見えて遅くなった。


 僕はわざと怯えた様子を見せて囮になり、ドゥデンの振り下ろされる剣をギリギリで避けた。


 班長のラウレスが助けに入った。


 今のドゥデンの鈍化した速度の剣ならなんとか対応できるみたいだ。


 僕は交代した。


 しかし、鈍化魔法で遅くなった動きですら、ラウレスたちは苦戦していた。


 僕はあまりのレベルの低さに驚いて固まってしまった。王都に来る前は父さんや母さんのレベルの人が王都にはたくさんいると思っていたが、どうやら全く違うようだった。


「さすまただ! ケイス、あいつをさすまたで取り押さえろ」


 形勢が不利になってきたラウレスが指示をだした。


 僕は道端に放り投げたさすまたを手にした。


(槍や棒術みたいなものかな)


 二股になっている部分で突けばいいようだった。


 僕はさすまたを構えて前進した。


 そして、さすまたを引いて、踏み込み、突き出した。


「うがああああああああああああああああああああああ」


 ドゥデンの胴体にさすまたのUの字の部分が吸い込まれるように入った。


(あれ?)


 うっかり肋骨を砕き、内蔵にまでダメージを与えてしまったようだった。捕獲の道具ということで手加減をしないで、いつもの棒術の鍛錬の時のように踏み込んで体重をかけて前に突き出してしまったからだ。


 とりあえず僕は、ドゥデンをさすまたで押さえつけたままにした。


「今だ、剣を奪え」


 ラウレスの指示でマチルダが剣で倒れているドゥデンが握っている剣を払い飛ばした。


「よし、取り押さえろ」


 ラウレスやマチルダが剣で戦っているのを、後ろで見ていた治安部隊員たちが駆け寄り、ドゥデンを取り押さえた。


 ほどなくして冒険者ギルドから応援の冒険者も来た。


 だが、ドゥデンは肋骨が折れて、内蔵も損傷していて動けない状態だった。


「新人。初めてにしてはよくやった。その度胸だけはほめてやる」


 ラウレスが額の汗を拭いながら言った。


「あなた、なにかやっていたの」


 マチルダが厳しい目で僕を見て言った。


「いえいえ、何もしていません」


「でもあの突きは?」


「あれは火事場の馬鹿力ってやつです」


「ふーん」


 とりあえずなんとかごまかした。


 ドゥデンを引き連れて分署に戻ることになった。


「なにしているの。いくわよ」


(普通に生きようと思って王都に来たけど、普通っていうのはこんなに弱いのか。これはもう少し普通を研究しないとな)


 戻る道すがら僕はそんなことを考えた。




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