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集まる力 

掲載日:2023/03/14

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うわ、これまたアリがいっぱいたかってるねえ。誰だかわからないけど、けっこう盛大にアイスをぼとりと落としたみたい。

 こう、みんなで寄ってたかって、という景色が苦手な人もいるよね。集合体恐怖症の派生系というか。


 あるものが、ひとつところに集まる。それは異常事態のきざしであると、本能が理解しているがゆえに怖さや気持ち悪さを覚えるんじゃないかと、僕は思っている。

 種を長らえるのに、トラブルは起きないに越したことはない。それが崩されるかもしれない気配を、そこからびんびん感じてしまうんじゃないかと。

 ゆえに何かが集まる場所には、それなりに警戒を払うべきかもしれない。

 僕の昔の話なのだけど、聞いてみないか?



 アリは身近にいる生き物。特に行動半径の狭い子供たちにとって、早くに出会うペットではない動物の一種ではないだろうか。

 先ほどアイスに集まるアリたちがいたけれど、ほとんどの人が幼いころから見た光景のひとつのはずだ。だからその夏の日も、神社の境内で倒れたセミに、子供たちが集まるのもそこまで不思議じゃなかっただろう。


 祭りも終わって静けさが戻るころ、広々とした境内は子供たちにとっての遊び場としてひんぱんに利用されていた。

 車もガンガン入ることができ、出店が並ぶと迷路のような広大さを誇っていて、片隅には公園のものと同じ遊具が並んでいるほど。

 だいたい、これが神社の平均値と刷り込まれてしまった僕にとっては、よそを知るたび「これくらい手狭でも、境内は成立するのか」と軽くカルチャーショックを覚えることもあった。

 

 その遊び場にしているスペースの一角で、ボール遊びをしようと集まった僕たちは、そのセミに視線を注いでしまう。

 セミはこのあたりで、見たことがないほど大きかった。ここに集った、いずれの子供の手のひらからも、ゆうにはみ出してしまうサイズ。

 それを覆いつくさんばかりにアリたちが身を寄せ合っているのだから、その数は100も200も数えられるんじゃないかと思ったね。

 

 大きさ以外に僕たちが関心を集めたのは、このセミが実はまだ生きているんじゃないかという疑惑もある。

 ひっくり返って、アリたちの海から天に向けて突き立つ脚は4本あった。それらの2つが、ときおり思い出したように揺れるんだ。

 アリたちの体重のかかり具合により、セミの身がかしいだ可能性もある。しかし、そのような体の傾きによらず、脚の先っぽが電池の入った人形のごとき緩やかな動きを見せることがあった。

 

 踊り食い状態なんじゃないか?

 そう思うと、不思議と残酷さよりも興味のほうがまさってしまってね。集まった一同、遊ぶことをそっちのけで、セミたちのまわりを囲ってかがみこんじゃったのさ。

 アリたちは自分が囲まれているのを知ってか知らずか、セミまわりにくっつくのをやめずにいる。そのままじっくり観察を続けて3分か、5分か。あるいは10分以上が過ぎただろうか。


 山のてっぺんを構成するアリたちが、中腹のアリたちを押しのけたり、踏んづけたりしながら「下山」し始める。

 それにつられて、彼らの下にいるアリたちもまた、順繰りに下り始めたのだけど、少し妙なんだ。

 あらわになっていくのは、先から立っている姿を見せる脚ばかり。山が崩れていくのなら、その下敷きになっているセミの身のどこかしらがのぞいてもいいのに、それがない。


 山は当初の半分ほどの高さを切った。いまだ身体は見えてこない。

 いっぽうの足はというと、そろって「く」の字に折れ曲がる姿勢を見せ、すでに5センチ以上はその長さをあらわにしていた。そいつらがくっついているべき根元も、まだ確かめられずにいる。

 囲っている僕たちも、この異状に顔を見合わせ始めた。

 アリたちが集まっている下にいるのは、本当にセミなのだろうか? 自分たちの知らない、もっと別の存在なのではないだろうか? とね。

 かといって中途に投げ出すのも、気味が悪い。僕たちは引き続き、ゆるやかに崩れていく山の観察を続けていった。

 

 その待っていた結果に、僕たちは目を疑ったよ。

 アリたちがすっかり散ったとき、想像していたようなセミの体は、かけらも出てこなかったんだ。

 あったのは、その長大な4本の脚のみ。どれも10センチ近くはあり「く」の字に曲がったそれらが、アリたちの支えを失って、こてん、こてんと思い思いの方向へ転がっていったんだ。

 元からセミの身など、ここにはなかった。この数百匹のアリたちは、ただひたすらこの4本の長い脚にしがみつき態勢を保っていったんだ。

 それだけでなく、足たちは倒れた衝撃。および、いまもかすかに吹く風によって、ゆるゆると先端が揺れてしまうくらい、やわいつくりをしていた

 ときおり見せた、あたかも生きているセミが行っていたかのような、有機的な動き。あれもまたここに集うアリたちの成せる技だったのだろう。

 ごまかしのすべに関して、ときおり虫たちは人間の上をいく。それが多く集まったのなら、あたかも人間の達人に通ずるような技術を披露することができたって……。

 

 ――ん? 集まったのなら?

 

 さっと僕は顔をあげる。

 ここに集い、ぐるりとこの場を囲う子供たちは総勢11名。すき間ないその並びは、先ほどまでアリたちが足を囲うのと同じ構えのように思える。

 もしや、と僕は天をあおいでみる。


 見えた。

 僕たちの頭上、ほんの数十センチより上空へ伸びる、柱のごときかげろうの姿があった。

 ほぼ透けているために、確認は困難。しかし、僕たちの囲う箇所の上空から外れることなく伸びるそれは、少なくとも数メートルはあるだろう。

 ちょうどあれを、僕らが支えている。そう判断した僕が呼びかけるより早く、囲いの一角を成す子が、「僕、トイレ行く!」と立ち上がり、ぱっと境内の一角にあるトイレへ駆けて行ってしまったんだ。



 ぐらりと、かげろうの柱は傾く。トイレへ去り、欠けてしまった支えの部分へものの見事に。

 倒れこむ勢いは早く、僕が注意を促すよりも先に地上へ達してしまう。

 その瞬間のこと、あそこに集まった一同はいまも忘れずにいるに違いない。

 倒れた柱はまず、僕たちの手近にあるブランコを直撃した。遊具のてっぺんを横に走る支柱。そのど真ん中へ振り落ちた柱は、大きい金属音とともにそれを大いにへこませた。

 中央から、地面に接するところまで、一気につぶしおられたブランコは縦の市中の一本が外れ、もう一方も大きくかしぎ、乗るところもまた、谷間を成すように八の字で傾いてしまう。

 柱はまだ長い。

 背後にあったフェンスもまた、大いに潰されて、道路を挟んだところにある参詣者用の駐車場にまで及んだ。

 停まっていた大型車の屋根の部分は大いにへこむも、ブランコやフェンスたちの残りが、いくらか倒れこみをおさえてくれたらしい。被害は屋根だけで済み、ウインドウたちが割れるほどの損壊は起こらなかった。

 ほどなく、道路を通っていったトラックが何事もなく、つぶれた箇所に挟まれたポイントを通過したのを見ると、あの衝撃を与えた瞬間に、柱は消え失せてしまったのだろう。

 しかし、それは同時に僕たちが疑いをもたれる可能性を示す。真犯人がいなくなってしまった以上、罪をおっかぶされるのは最初に現場にいた者たちだろう。


 トイレに行きたがる彼も、この奇怪な瞬間に立ち会って尿意も引っ込んでしまったらしい。みんなして、バラバラにその場を逃げ出していったよ。

 少し経つと、この結果を目撃した人も増えていき、ひとしきり噂になったっけな。結局、誰のいたずらか分からずじまいになりそうで、問い詰められそうにない運びに、僕たちは胸をなでおろしたよ。

 個々の力もあなどれないことはあれど、たくさん一か所に集まると、思いもよらないことが起こるかもねえ。


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