弓月の君………………………………7mg
─紡希視点─
大蛇は海桜を喰らおうとした。
私は助けようとした。
どうやって助ければいいのかわからないけど、助けようとした。
けど、海桜は私の手の届かないところにいた。
海桜の眼前に迫る大蛇を見ることしかできなかった。
私では海桜を救えない。
そう悟った時、一本の細い光が大蛇へ走った。
視覚で捉えられたのはそれだけで、気がつけば、大蛇の目に穴が空いて倒れていた。それだけではない。その直線上の木々にも穴が空いていた。そして、その穴から見える最後の木には矢が刺さっていた。
最初に見た細い光とは、高速で飛ぶ矢が月の光を反射していたものだったのだ。
矢が大蛇の目を貫いても、なお木々をも貫いていた。
私は呆気に取られていた。
海桜が死んでしまうと思っていたのに、逆に最も死にそうにない大蛇の方が死んでいたからだ。
人が倒れる音を聞いて、ハッと気がついた。
海桜は、どうなった?と思い、海桜がいた方を見る。
「海桜!」
海桜は地面に伏していた。
「海桜! 大丈夫!? 海桜! しっかりして!」
まさか、海桜もあの矢に巻き込まれたのか?
あぁ、どうしよう、。
肩をポンと叩かれる。
「安心して。きっと緊張の糸が切れただけよ」
振り返った後ろにいたのは弓を持った和装の少女だった。
…
少女の名前は「りの」、瀬戸梨乃。
梨乃は魔獣「オロチ」を討伐しにこの神社へやってきた。拝殿の近くまで来た梨乃が見たのは窮地に陥る海桜。大蛇を矢で射て、海桜を救助。
そして今に至る。
と梨乃は語った。
海桜が目を覚ますまでの間、梨乃と話をした。
梨乃は魔法少女歴1ヶ月。
いつもこの辺り──平田市の北の方で活動している。
そして、彼女含め5人の魔法少女でコミュニティを作って活動している。
今回はたまたま一人だけだったらしい。
と、梨乃が話していたところで、海桜が目を覚ました。
「あれ? 私生きてる」
と海桜が呟いた。
「生きてるよ! 本当に良かった……」
「あ、紡希…… 紡希も怪我無さそうだね」
お互いの無事を確認できた所で、海桜に梨乃が助けてくれたことを説明した。
「助けてくれてありがとう」
「困ったときはお互い様。それに死にそうな人を放っておけないもの」
海桜の感謝の言葉に梨乃はほのかな微笑を見せた。
その梨乃の顔は大和撫子という言葉がぴったりだ。
「夜も深いし、そろそろお暇しようかしら。
あ、そうそう、私達のコミュニティに参加しません?
返事は今じゃなくていいの。
また、今度会ったときにでも」
そう言って、梨乃は去って行ってしまった。
今度はいつになることだろうと思うけれど、案外すぐに会えそうな気がする。
もしかしたら、明日かも。
そりゃないか。
…
帰宅中、行きと同じように会話がなく、気まずい。
でも、行きと帰りでは少し状況が違う気がする。
行きはなんとなくまだ仲良くなりきれていなかったから、
出会ったばかりだから、
会話しようとしても話すことが見つからなくて会話が無く気まずい、
という感じ。
今はそうじゃない。
海桜が私に話し掛けようとはしてこない。
私達二人の会話は基本的に海桜から。
私から話し掛けたことは今まで一度もない。
今、海桜から話を振ろうとしていないから、会話が発生しないのは当然だろう。
隣いる海桜が偶にこっちをちらっと見たかと、思えば目線を下げ、何か思い悩んでいる。
それにその顔からは、申し訳ない、と思っているような表情をしている。
「ごめん」
突然、海桜が謝った。
何に対してかわからないけど、思い悩んでいたのは私のことについてだったのだろう。
「ごめん、
紡希を守ろうとしてたのに、守りきれなくて。」
海桜は俯いて泣き出しそうになっている。
「それどころか紡希は自分で考えて、自分を守って……
でも、自分は死にそうになって助けられて守られて……
守られるべきなのは紡希じゃなくて、自分で……
自分が強いって勘違いしてて……
それで……」
「海桜、ありがとう。」
「え?」
「海桜言ってたよね、感謝はあとにしてって。
海桜は守ってくれたよ。
あの大きい白蛇を見たとき、私急で怖くて動けなかったんだ。
でも、海桜は引っ張ってくれた。
私に鼓舞もしてくれた。
それにね、海桜が横にいると思うとなんだか勇気が湧いてきたんだ。
だから、ありがとう。
良ければ、これからも守ってくれないかな?」
そっと手を差し出す。
これからもこの関係が続いていくように。
海桜は袖で目頭を拭って、その手を取る。
もう泣いていない。
涙が通った跡が残るけど、笑顔で。
「喜んで」
この時、2日間の友情が永遠の友情に変わった気がした。
…
昨日と今日、いろんな出来事があった。
魔法少女になって、海桜と出会って、魔獣を倒して……
そして、人と初めて親友と呼べるような関係を持った。
親友がどんなものなのかはっきりとはわからないけれど、少なくとも、私にとって海桜は親友だと思う。
昨日今日の出会いが一生物になる。
そう確信している。
とやかく考えながら家の前まで帰ってきた。
家には電気が付いていない。
時間はもう深夜だから当然だ。
そして、玄関や窓はしっかりと戸締まりされている。
でも大丈夫。
家を出るとき、自分の部屋の窓の鍵を開けておいたから。
部屋は二階だけど、簡単に上がれる。
落ちたことはない。
「よいしょっと」
窓枠に手を掛け、部屋に入る。
その前に靴を脱いでおく。
そっと玄関まで靴を置きに行って帰ってきた時、両親の寝室の電気が付いていた気がしたが深夜に外出したのはバレていないはず、たぶん。
自室へ帰り、ベットに横になったあと、大きく息を吐く。
ため息ではない、何かを成し遂げたと思ったときいつもする。
ちょっと息をつくと、少し疲れたのと、少し頭も痛い気もする。
──薬、飲んでおくか
疲労回復の薬と頭痛薬を飲んでおいた。




