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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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2人なんだ……………………………66mg

【玲奈視点】


「玲奈、落ち着いたか?」


 蒼は頭をなでていた手を止める。

 少々寂しさを感じる。だが、いつまでもこうしているわけには行かない。

 コクンと首を縦に振って答える。


「ごめんだけど、ゾンビのコアがあるとこまで案内してほしいんだ。

 いま、海桜が武闘派の魔法少女とたたかってる。

 必死にくい止めててくれてるんだ」


「武闘派というとベヒモスに敗れた……彼女らですよね?」


「そうだぞ。さっきまで蒼もチェンソーのやつと丸太のやつ、二体を相手にしていたんだ」


「波多野さんと香山さんですね。確かに彼女たちは相当強かったと聞きます。

 ここまでこの緑のものを追ってきたのですよね? 

 でしたら、進む道中、定期的に管を切っていきましょう。そうしたら、間接的に支援ができます」


「分かったぞ。でも、もう魔力がなくて武器が出せないぞ。玲奈によゆうがあるなら、少し分けてくれないか」


「分かりました。あまり渡せませんが、それで何とかお願いします」


 蒼が頷くのを待たずに、注射器を生成し始める。

 手のひらから生成され始めて、最後に針を形作られていく。中にはぼんやりと光る液体が溜まっている。色は混ざりかけた虹色をしている。


「じっとしててくださいね。」


 その一言とともに蒼の腕に針を差し込めば、「痛っ」と蒼が漏らす。


 この液体は魔力。

 ピストンを押して蒼の体の中へ流し込む。

 蒼の体内に入っていく液体はしばらくは皮膚の下からぼんやりとした光を放ったままだが、光を失い蒼の奥へと吸収される。

 容器の中身がなくなり、針を抜く。


「これで大丈夫ですか」

「うん! バッチシだぞ!」


 蒼は手をグー、パー、グー、パーしながら疑問を口にする。


「これだけもらっちゃっても、玲奈の方は大丈夫なのか?」

「なんとか大丈夫です。」


 自分の魔力を半分以上渡してしまいましたが──。


 魔力の受け渡しを終えて、階段の上を見据える。


 なんとか──。




 …



 登り始めてしばらく、経った頃。


「もうすグッ──。」


 蒼の声が背後から聞こえてくる。

 しかし、言い終わらんうちに蒼の口を手で蓋をする。


 ここまでその「もうすぐか?」という言葉を何度も発していた。

 毎回最後まで聞いた後「まだです」と答え続けていた。が、ここまでくるとそうはいかない。

 四角柱の4面を巡り上がっていく階段。その終着点ともいえる足場が目に見える位置まで来ていた。


 そして、そこには部屋の中に入れずに階段にまではみ出しているゾンビの集団が見えた。


「そうです。近くまで来ています。」


 ゾンビに気が付かれてしまわないように小さい声で伝える。


 表面では、冷静さを取り繕っているつもりだが、さきほどのことを意識せざるをえなかった。

 これまでの蒼の問いで次第に近づいているという認識が無理やり引き出され、一歩一歩進むたびに怖さが増していた。しかし、その恐怖の対象がもうすでに視認できる位置まで来てしまっていた。

 心の芯では震えていたが、それを表に出すわけにはいかない。


「ここから気を引き締めてください」


 蒼に放ったはずの言葉が深く自分に突き刺さる。

 あの恐怖ともう一度直面する覚悟をしなければいけない。


「分かったぞ。で、作戦はどうするんだ?」


「はい。一つ思いついています。単純ですが、挑戦できるのは一度きりの作戦が。」


 階段を上がってくる途中で考えていた。

 一人ではできなかった作戦。

 それを蒼に告げる。


「視認できるように、コアがある部屋にはゾンビが多数いるはずです。

 まずコアを破壊するためには近づかなければいけませんが、ゾンビが邪魔で近づけませんね。

 だから、ここで私の力を使います。麻痺の効果を付けた魔力を打ち込むんです。そして、麻痺の効果で動かなくなった隙に蒼がコアを破壊します。

 ざっくり言いますと、このような作戦ですね。」


「あれ?、玲奈ってそんなにいっきに相手をしびれさせれるのか?」


「いいえ、無理ですね」


「えっ。じゃあ、その作戦むりだぞ」


 おどろく蒼をしり目に話を続ける。


「確かに一体ずつ直接は不可能ですが、全体に間接的になら可能です。

 麻痺薬を管に流し込めばいいんですよ」


「それはそれで、無理じゃないのか。

 ゾンビのコアから管を辿ってすべてのゾンビに魔力をながしているんだよな?

 それじゃあ、あのゾンビよりも遠いここから麻痺薬を流しても上のゾンビ達には効かないぞ!」


 確かに蒼も言うことは最もだが。


「麻痺薬を流すのはここからではありません。あの部屋の奥にある魔力供給源から流すのです。

 注射器を投げて、そこへ差し込むんです。そのために、蒼には最初に道を切り開いてもらいます。

 投げ入れられるポイントまでの道を、です。

 そして、実際に麻痺が効き始めるまでの間、なんとか耐えきれば私たちの勝利です」


「ただ、おそらく、蒼には相当に苦労を掛けることになります。

 前線で耐えなければいけないのですから……。

 だから、聞かせてください。蒼…、やれますか……?」


「蒼なら大丈夫だ。やれるも何も、蒼たちはやらなければいけないからな。」

「ですね。覚悟は甘かったようです。いい加減、私も腹をくくらなければいけないですね。」


「……それで、玲奈は大丈夫なのか?」

「え」

「玲奈、こわいんだよな?だって、手が震えているぞ」


「玲奈はいつもそうだからな。」


「大丈夫だぞ。ここで失敗しても別の方法でやればいいからな。心を締め付けすぎないようにな。」



「……は、はい……。」



 …



 上に行けば行くほど強くなる腐臭。螺旋階段。

 臭いの発生源のすぐそばまでやって来た。


「じゃあ、行くぞ!」


 蒼は自身の合図で突撃していく。


 果たしてあの作戦でうまくいくかどうか、──それは私にはわかりません。

 特に、注射器を投げてあの肉塊にうまく当てるような芸当。私にできるのでしょうか。

 あまりにも成功確率が低い。自身の発案だとしても、こんなに荒唐無稽な作戦うまくいくはずがありません。

 どうしてこんな作戦を思いついてしまったのでしょうか……。


「……」


 ──いえ、やはりそうではないですね。


 ここでは、荒唐無稽と思えるような作戦でも実行しなければいけない。

 仲間が限界を迎えようとも戦い続けているはずなんです。

 蒼から聞いた海桜の状況。長くはもたないでしょう。

 梨乃も。絆も。紡希も。みな同じ状況だと考えれば、ここにいる私が安定で安全な作戦を考えている猶予はありませんね。

 みなと同じリスクを共有しなければいけない。

 それなのに先ほどまでの私は自分のことを考えてばかりでした。

 一人がこわいからと皆の存在を求めて。


 視野が狭すぎたんです。


 みなは見えない所で戦っていました。離れてはいるけれど、そこにいました。

 けど、私はそれに気が付かずに、一人だけ孤独感を抱えていた。


 そして、私自身も見えていませんでした。。

 私は欠点だらけの自分を見ずに、いい所だけを見て。

 欠点を見たと思ったら、自分の強みを見なくなってしまった。


 ここからは視野を広く見ましょう。

 失敗に、弱点に、恐怖に、囚われてしまわないように。



 飛び出した蒼の背後に付いて行く。

 確かな成功のイメージを持って。


「一回目投げ込みます!」


 例の部屋の入口にたどり着くためには四角螺旋を半々周と半周、つまり3/4周してから螺旋の中央に掛かる鉄板を渡っていかないといけない。

 しかし、接近戦で戦えるのが蒼しかいない現状ではこの場所から投げ入れることが現実的──。


 注射器を生成させる。

 大きさはいつもの通り。片手では扱いにくい大きさ。

 残りの魔力はあと5回は再生成できるほど。

 あまり余裕はないが、まだ失敗できる。

 チャンスは数回ある。


 投げるため、片手に乗せる。

 注射器は普段より重く感じた。

 責任の重さだろうか。


 当たるかどうかはわからない。

 この作戦自体うまくいくのか確信が持てない。


 ──それでも、今は時間がないですから。


 他の手段を考える余地はない。


 狙うのは相手の本丸──コアを包むあの肉塊。

 目掛けて、注射器を投げた。


 一投は、足場の鉄板を越え、部屋のドアを抜けて肉塊の方へ。

 しかし、飛距離がまったく足りなかった。かなり手前で落ちて割れた。


 その一投が現況に影響を与えることはなかった。


 一発外すことは想定内。おかげで距離感が分かりましたし──。


 しかし、続く2投目もまた当たらなかった。


 大丈夫──、まだ大丈夫──。

  ここで失敗してもまだ次があります──!


 自分を鼓舞する。

 たった2度の失敗で、へこたれない。

 そんな心持ちで立ち直ろうとした。その時、


「あ、れ?」


 視界が歪んで、頭がくらっとした。


 魔力がもう、ない──!?


 貧血に似たその症状は残り魔力が少なくなってきていることを示している。

 魔力の底が尽きるのが想定よりもはるかに早い。そのことに動揺が隠せない。頬に汗が伝う。作戦失敗の4文字が脳裏によぎる。

 もともとは残り5回は挑戦できると想定していた。かなり余裕を持った目算だと思っていた。しかし、現実としてそれが見当違いで、今の状況ではあと一発が限度というところ。考えが甘すぎた。


 何で間違えた──?


 頭の中で失敗の原因ばかり探ってしまう。頭だけがぐるぐる回って、体は静止したまま。ここで間違えれば、失敗すれば、蒼どころか、海桜も、それだけではない、全員を窮地に追い込むことは明白だったはず。それなのになぜ──。


「玲奈! 大丈夫か!?」


 蒼の声が飛んでくる。

 蒼の言葉にうまく答えられない。


「一旦、退くか!?」


「玲奈!」


 眼の前に蒼が立っていた。

「ちょっとは蒼を頼れ! 玲奈はいつも一人で抱えすぎなんだ。蒼は玲奈の助けになりたいんだ」


 ゾンビが背後を追おうとする。


「そうか。魔力がないんだな。蒼は別に多くなくてもいい。ちょっとだけでいいんだ。

 だから、玲奈に返す。」


 そう言って腕を差し出される。


「ごめんなさい、蒼」


「別にいいんだぞ。でも、早くしてくれ。」


 蒼の背後にいるゾンビはカッターナイフの大きな刃に通路が阻まれている。しかし、それは今にも破られようとしている。


 玲奈は魔力を麻痺の効果が付いたものに変化させる。それを注射器の中に溜めていき、注射器を投げゾンビに繋がる管の大元に刺す。注射器の針は貫通したが、固い床に当たったことで、管の中で針とシリンジの先端が折れた。それによって中身が管の中に流れ出る。


「これが最後の一発です!」


 即効性の麻痺効果はそこにいる全てのゾンビを動けないようにした。


「蒼!今です!」


「まかせろ!ぶっこわしてやるぞ!」


 蒼はゾンビを蹴散らし、奥に進んで行く。

 カッターナイフの先は肉塊の奥にあるコアを捉えていた。




 …



【海桜視点】


 どれほどの時間が経っただろうか。


 依然として継戦状態。

 丸太のゾンビは再度復活して、また2対1の不利な状況に頭痛と枯渇寸前の魔力。体力もすり減らされている。


「はぁ……はぁ……はぁ……。」


 息も荒くて、落ち着かない。

 体全体が鉛のように重い。

 もうすでに蒼は遠くまで行っただろう。

 ここで二体のゾンビを防いでおかなくても、蒼に追い付けはしない。

 蒼に追い付く前に、コアを破壊されて死ぬはずだ。

 だから、蒼を守るために戦う必要はもうないんだ。


 じゃあ、もう逃げるか──、と思ったけど、この二人から逃げきれるような魔力はもはやない。

 逃げるよりも、むしろ戦い続けた方が生き延びられる時間は長いだろう。

 それでも、あと数度組み合ったら、確実に死ぬ。そんな予感がする。


 意外とここまで長かったな──。


 一年ほど前、この街に一人で来て、一人で暮らし始めた。

 全部どうでもいいからって投げやりになって、流行ってた怪しい噂に飛びついた結果、魔法少女になることになった。

 でも、案外悪くなかった。紡希に再会できたし、心から気を許せる仲間にも出会った。

 日々は戦いで、何度も死を間近に感じることもあったけど、全部合わせても悪くはないと思える。


 いつ死ぬか、なんて誰にもわからない。

 桃香だって、あっさり死んでしまった。死は近い所にあるんだと思う。でも、何がどうなっているのかわからないけど、死の危険は何度も越えてきた。死ぬかもしれない──なんて、何度も思ってきた。もしかすると、死は案外遠い所にあるのかもしれない。

 だからこそ、私がここで死ぬかどうか、いつ死ぬのかはわからない。


 一度小休止するかのような膠着状態になった後、またもチェンソーのゾンビと刃を交える。

 消耗のないゾンビと消耗の激しい魔法少女。長期戦と化した現在の力の差は歴然、一太刀すら与えられない。攻撃を受けるだけ、攻めに転じることはもうできない。

 ゾンビ同士のコンビネーションは健在で、チェンソーを受ければ、丸太が飛んでくる。逆に、丸太を避ければ、チェンソーが来る。受け、避け、共に一回でも失敗すればもうおしまい。失敗は死に同じ。


 丸太の一振りでコンクリートの壁に穴をあける。

 対し、半身で横に避けた。

 次は、チェンソーが来る──、というこれまでの戦闘の経験から導き出された確信でチェンソーに目を向ける。しかし、攻撃はやってこない。その代わりに、腕に痛みが走る。その瞬間、前に引っ張られる。

 何が起こったのか、わからなかった。が、バランスを崩し体が倒れるその過程で見えた。丸太のゾンビに手首をつかまれていた。丸太は地面に落ちている。


 丸太を捨てたのか──。


 反射で、手を地面に着くが、勢いを相殺できるような力はない。頭を強く打つ。

 これまで2体のゾンビのコンビネーションが一定だったのは、崩しを入れてこなかったのは、この状況にするためだった。そう、悟る。

 しかし、悟るのが遅かった……。


 すりガラス越しに見る景色のように視界がぼやけて、意識も薄れていく。

 光の粒子を最後の最後に見た気がした。

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