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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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VS武闘派ゾンビ……………………60mg

【海桜視点──海桜・蒼】 


「ホントに? 間違いなく?」


 ”武闘派”という言葉に引っかかって問い直す。

 二体のゾンビは蒼によれば、武闘派だという。


 確かベヒモスと戦って壊滅した魔法少女コミュニティだったはず。それがなぜここに──?


 疑問を抱く。

 彼女らはゾンビと戦って死んでいったわけではない。それなのに、ここでゾンビとして出てきた。

 ゾンビ映画では定番の「ゾンビに殺されれば自身もゾンビになる」という認識。それがここでは成り立っていない。


「間違いないぞ。玲奈に着いていった時に会ったからな。でも、あいつらはたしかベヒモスと戦って死んだはずだ」


 蒼の認識上でも、やはり”武闘派”は”ベヒモス”と戦って死んでいる。

 だから、死に場所は関係なく、魔法少女は死ねばゾンビになるのだろう。

 ゾンビに殺されればゾンビになる、なんて思い込みが間違っていた。ただそれだけのことなんだ。

 

 それだけで終わればいい。いや、それだけで終わってほしい。


 ”まずいこと”が現実味を帯びてくるから。

 

 私たちには魔獣との戦いの中で亡くした仲間がいる。

 それは、永春桃香(ながはるとうか)。リモコンの魔法少女で、魔獣との戦闘でのブレーンだった。


 もしも魔法少女が死ねばゾンビになるという仮定が間違っていないのであれば、死んだ桃香とも戦わなくてはいけないかもしれない……。

 ゾンビになったとはいえ魔法少女を相手に戦うのは気が引けることなのに、死んだ仲間とは戦いたくない。いくら桃香が敵になっていたとしても、斬ることなんてやりたくないし、できない。

 私でさえそう思ってしまうのだから、長く一緒に居ただろう”絆”なんてそれどころじゃ済まないだろう。取り乱して、隙を突かれ死ぬ、なんてことも起こりかねない。


 兎に角、”桃香”との遭遇は最悪の結果を招きかねないシナリオ。

 それを念頭において考えても、遭遇を回避するというベストな状況を取れるかどうかはわからない。ならば、ベター。せめてベターな状況。

 つまり、事前にその可能性があることを知って覚悟ができている状況ならば、突然”桃香”と戦っても可能性を認知していない状況よりは幾分かマシだ。


 だから、伝えなければ。全員に。

 ゾンビになった桃香と戦う覚悟をしろと。


 ただそれより先に、目の前の相手を片付けなければいけない。

 ここでうまく対処できるか……。


 ……一応、戦うべきかどうかで言えば戦闘は避けるべきだ。武闘派ということは、ベヒモスに敗北したと言えど実力は相当なもの。こっちが負ける可能性は十分にある。しかも、相手がゾンビだということを考えると、完全に打ち倒すことはできないなんていうオマケ付き。

 だけど、放っておけば紡希達と遭遇する可能性がある。その場合紡希達が敗北するビジョンは目に見えている。こいつらは野放しにできない程強力、だからひとまず桃香に関する懸念事項は捨て置いて、この場は私と蒼でなんとかやるしかない。


「蒼、あの人らと会ったことがあるなら戦い方とか知ってたりする?」

「知らない!」

「……。まあ蒼にしては上出来か」


 攻撃方法でも知れれば戦況は有利に進むと考えたが、あっさりと告げる蒼。

 それに軽く嘲笑して皮肉めかして、ハサミを構えた。


「え!ほんとか!」

「ちが……あーもーバカ。皮肉ね、皮肉」

「そのまま言ってくれないと、わからないぞ」


 蒼は皮肉を言葉通り捉えて、齟齬が生じる。それを直接的な言葉で返す。

 その間もゾンビから目線を外さず話しているのに、蒼は思いっきり目を離して表情をコロコロ変える。


 チェンソーのゾンビがスターターロープを引き、回転刃を駆動させる。

 

 対し、こちらは未だ様子見。すぐに仕掛けてこない、と思っての油断。

 その隙を突かれて、丸太にチェンソーの回転刃を掛けて大砲のように吹っ飛ぶ勢いで突っ込んでくる。


「蒼! 来てるよ!」


 自分(こっち)は見ている。しかし、蒼からすると予想外の攻撃。


「え?」


 攻撃が来ること認識できても、武器で受ける、もしくは避けることまでに頭が回らない様子。


「大丈夫。カバーする」


 言葉通り、チェンソーを開いたハサミの内側で受け止める。

 回転するチェーンに取り付けられた無数の刃はハサミに引っかかるも、そのまま回転は続く。そうなれば、チェンソーは前に進む。まるで、顔を一突きするように。

 回避を試みる。

 回転する刃は頬をかする。が、顔のど真ん中を抉られるような事態は避けられた。


 すぐさまハサミを動かせて対応しようとする。


 しかし、動かない。チェンソーの回転刃の根本、スパイクにハサミが引っかかって動かない。

 武器が封じられた状況に陥る。でも、それは相手も同じ、チェンソーを動かせることはできない。

 両方、一度退かなければ攻撃に転じることはできない。そして、退けば相手の攻撃を受けてしまう。さきに退いたものが負ける。

 だけど、大丈夫。こっちは待つだけでいい。

 蒼が相手の背後に周っているから……。


 カッターナイフの刃はチェンソーを動かせないゾンビの首を狙って、その背後に浮かび上がる。


「どおりゃぁぁああ!!」


 威勢のいい雄叫びと共に振り下ろされる。

 狙う所に向けられた蒼の目をみて確信した。確実に首を取れる、と。


 しかし、直前になるまで気が付かなかった。蒼の後ろに丸太のゾンビが迫っていたことに。

 それは蒼のカッターナイフが首の肉へ食い込んだ瞬間に、蒼の腹部をゆがませた。内臓を潰すような重い一撃。丸太の重みに遠心力が加わったその衝撃は蒼の体を軽々とふっ飛ばす。

 蒼は途端に床に叩きつけられ、それだけでは飛ばされる勢いは止まらず数メートルは転がる。

 

「蒼!!」


 チェンソーのせいで丸太の方まで気を向けることはできていなかった。


 プランが瓦解すると同時に、意識が逸れた。

 そこにチェンソーが押し込まれて、均衡が一瞬崩れる。

 すぐに押し返したものの回転刃が肩をかすめて、血がにじみ赤くなっている。


「クソ…!」


 えぐれた所が痛い。痛いけど、筋肉までは抉り取られていない。腕はまだ動く。

 こっちはまだ大丈夫だけど、蒼がヤバい。蒼は壁に打ち付けられてから、未だ動けていない。離れて見る分には、だけど。それでも下手をしていれば、命すら危うい状況だ。

 事態は最悪。一刻も早く蒼の安否を確認したい。もう仲間を亡くすなんてことは嫌だから。

 だけど、その前にチェンソーのゾンビを何とかしなくてはいけない。丸太のゾンビがどう動くのかも不明だから、そっちも見ていなくてはいけない。蒼の方に行くなら守りに。こっちに来るなら迎撃を。


 三つの中でこの状況を打破することが先決だ。鍔迫り合いで決着がつかない今を。


 もう安全策は採ってられない。

 危険に身を置いてでも、ここは無理を通す時だ……。


 両手で何とか耐えている状況で、ハサミから右手を手放した。

 そうすれば、また均衡が崩れ、チェンソーの刃は額に迫る。危険が増幅する。

 片手では受けきれず、そのまま押し切られる。唸りながら

 しかし、間一髪のところで身を避けた。

 放した右手でハサミの留め具を掴む。そして、一気に引き抜く。


 ハサミは二つに分かれる。


 一方を左手が握りしめている。もう一方は落下している。

 チェンソーの刃を受けていたのは左。それは刃の回転で左手から離れてしまった。


 しかし、支えが突然無くなったせいで、ゾンビは前のめりになる。そして、自身の武器の重さで前に引っ張られ体勢を崩す。


 好機を見逃さない。何も持っていない右手を振りかぶる。

 それは今から起こることの布石となる。


 右手は何もない空間に空気をつかみに行くよう動かされる。


 今は何もなくとも、数秒後には来る。


 もう半分のハサミを左足で蹴り上げた。


 重力に逆らって遡上する。

 そして、放物線の頂点に着く。


 しかし、そこから再落下はしない。

 ハサミのグリップを右手がつかみ取る。

 まだ右手の勢いは止まない。むしろ、加速する。


 切っ先がゾンビの首を捉える。


 数秒後、ゾンビの首は宙を跳んだ。

 繋がった胴体からはじき出されたように遠くへ。


 胴と首を切り離したのはハサミ。

 危機を脱して、たどり着かせた切っ先がチェンソーのゾンビの向こう側に。


 しかし、それだけでは魔獣は死なない。


 頭部がなくなっても尚、ゾンビは動き続けている。未だ手放していなかったチェンソーで一撃を寄越す。


 対してギョッとして固まる…わけではない。驚きもしない。それは予想通り。


 現在までの状況を鑑みるに、ゾンビは通常の生物が受けると死に達する程度の傷ごときでは死なないことはわかっていた。というより、今までの魔獣はすべてそうであった。だから、今更驚かない。


 冷静に観察しチェンソーを振る軌道を読む。

 右手で持つハサミの片割れで軌道をずらしつつ、屈んで避ける。


 蒼は──?


 避けつつも、視界の端で蒼を確認する。

 なんとか立ち上がっている……。そのことに一旦は安堵する。が、本当に何とか立っている状態。

 脚をガクガクさせながら、カッターナイフを支えにして立っている。

 その前には、鐘を突く如く丸太を振り上げるもう一体のゾンビの姿。

 木材は軽いイメージがある。しかし、丸太一本分となるとその重量で骨折させられるレベル。そこに腕力で加速された落下速度が加われば、人を圧し殺せる威力となることは必至。そんなものを食らってしまえば、蒼は死ぬどころか原形すらも残らない。


 ここからは全て完璧な行動を取らないと、蒼は確実に死ぬ。後悔しても取り返しのつかない状況下では心臓を握りつぶす程の特大の圧迫感を胸に感じながらも、一瞬の判断と選択に全てをゆだねなければいけない。

 そういう瞬間に身を置いている。


 現在、右手にハサミの片割れを持っている。これを丸太のゾンビに投げて、行動を妨害するのも選択肢の一つである。

 しかし、チェンソーのゾンビと戦うには欠かせない武器。自分の身を守っているのもこの武器。故に手放してしまえば、次の攻撃を避けることは難しくなる。ただし、チェンソーのゾンビは頭を失い視界を無くしたがため、的確に攻撃を命中させてくることはない。そうはいえど、むしろその大雑把な太刀筋は見切りにくい。攻撃を避けるにはやはり武器が必須である。

 限りが少ない猶予時間が尽きることにあせり、思考が狭窄している。


 いや、違う。攻撃が来ることを前提に考えたらダメだ──。


 視点を転回させて、頭を回して、思考をフル回転させ、辿り着いた一つの道筋。


 攻撃を封じてしまえばいい──。


 ”攻撃が来るのを対処する”、のではなく、”そもそも攻撃を封じる”ことを選択。

 行動の決定と共に、チェンソーのゾンビの脚を斬った。ゾンビは倒れ込む。倒れたままではチェンソーを振り回すことはできない。

 脚を切断した勢いそのままに腰を右方向に捻って、ハサミの片割れを下から握るように持ち直し構える。やり投げの要領で、捻った腰を今度は反対方向に即座に捻る。もっとも勢いづいた所で右腕を伸ばしきって手を放した。


 疾風迅雷。

 矢の如く。

 風を切り裂いて飛んだハサミの片割れは丸太のゾンビの右肩に着弾した……かと思えば、肉を抉り通って貫通する。

 右肩は形残らず、体から分断された右腕は地に落ちた。


 ゾンビの向こうに見える蒼の目はチャンスを逃さず捉えていた。

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