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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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バックヤードの腐臭…………………58mg

(海桜視点)


「……しくじった」


 海桜は自分の役割を果たせなかった自分にため息をつく。


 ゾンビに囲まれたとき、自分と蒼で突破口を無理やりにでもこじ開けなければいけなかった。

 それがもしできていたら、全員で安全にその場を切り抜けられた。もっとも、前線に立つ私たちは安全ではいられなかっただろうけど。

 死を覚悟して、戦っていれば、絶対今の状況は良かったはずだった。


 皆の安否はわからない。それほどの混戦具合だった。


 言い訳をする自分に嫌気がさす。

 もう取り返せない状況になっているのかもしれないのに、心の奥底で責任を取ろうとしていない。

 もしもそんな最悪な状況になっても、状況のせい、環境のせい、それか他人のせい。全部自分以外の何かのせいにしてしまうだろう。

 そんな私が嫌いだ。


 いらだちで手に持つハサミで壁を殴る。

 すると、大きな音を立てて、ショッピングセンターのフロア内にこだました。


「なにやってんだ……私。こんなことしたって、ゾンビが集まってくるだけなのに」


 また、ため息をついた。


「……これからどうしよう」


 柱に背を預けて座り込んで、ため息交じりでつぶやく。

 実のところ、やることはすでに決まっている。が、自分への嫌気とかいろいろなことに気を割かれて動こうにも動けない。

 やる気は出ずにため息だけが出る。


 やることとは、他の全員の安否を確かめに行くことで、生きて会えたらいいのだが、問題は全員死んでいた時のことだ。その可能性を考えると、憂鬱でもっと動く気になれない。


「はぁ……」


 天井を仰ぎ見て、じっとする。


 しばらく時間が経ったとき、音の響きに気が付いた。

 それは気を付けないと気が付かない程、わずかな音でじっとしていなければ気が付かなかった。

 耳を澄ませて、それをよく感じ取ろうとする。


 やはり微細。だが、先ほどよりも少し大きく感じる。

 耳を澄ませたからもあるだろうが、どうやらそれだけではない様子。実際に、徐々に大きくなってきている。

 もしかして誰か……来てる?

 そう思って、もう一度耳を澄ませば遠くから靴と床が触れる音が伝わってくる。


 ……やっぱり誰か来ている。

 さっき、ハサミで壁を叩いた。

 その音が響いて、誰かのところへ届いたんだ。

 まだだれかわからないけれど、確実に一人は生きている。

 よかった。とりあえず一人とは出会えた。

 

 大きくなる振動を感じながら、到着するのを待つ。

 やがて、接近する人影が見えたところで、手を振った。


 しかし、そこにいたのは一体のゾンビだった。

 それを確認してすぐ、期待が完全に粉々にされた。そして、怒りがふつふつと湧いてくる。

 怒りの向かうところはそう、ゾンビだ。


 ゾンビ目掛け駆けて、ハサミを振りかぶる。

 ゾンビも元魔法少女。自身の危機には敏感で、得物の大きい三角定規を取り出して迎え撃つ。だが、怒りの籠った一撃の前では無力に等しい。攻撃を受けた定規を圧し折り、ゾンビを抉り取るように一刀両断する。

 これだけではすぐに再生されてしまう。そう考え、何度もハサミを叩きつける。刃の方ではないから切れはしないが、何度も叩くうちにゾンビの身体が滅茶苦茶に裂かれた。


「ふぅ……、八つ当たりはこれくらいにするか……」


 曇っていた気分を晴らした。スーッと深く息を吸って、ようやくやる気が出始めた。


 他のみんなだってもう探し始めているはずだし、私もやらないと。


「行こう」


 動き始めたその時、物音がした。


「!」


 素早く武器を構えつつも、音がした方を向く。

 今見ている範囲内には何もいない。が、自然に発生するような音ではなかった。人為的に引き起こされた音だ。

 人為的とは言ったが、おそらくはゾンビ。なにもいないように見えているのはきっと柱の陰含め死角にいるからだ。

 こちらからは近づかない。1体くらいどうってことはないけど、さっきみたいに冷静さを欠いてはいけない。

 相手が来るのを待つ。

 姿を現した瞬間、一気に攻め込む。反撃の隙など与えない。来るなら来い。


 警戒する視界の一端、柱の陰から現れたのは蒼だった。


「ご、ごめん。なんか海桜がこわい顔してたから……」


 なんだ、蒼か。


 相対していた相手が蒼だと気が付くと、手に持っていたハサミを消す。


「ゾンビかと思った」

「蒼はゾンビじゃないぞ。それで、海桜はなんで怒っていたんだ?」


 少し痛い所を付かれる。


「えーっと……。恥ずかしいから内緒」

「そんなこと言われたらもっと知りたくなってくるぞ。教えてくれよ」


「嫌だよ」


「教えてったら、教えて!」

「いーや、教えない。この話はもうここでおしまい。さっさと皆を探しに行くよ」


 蒼の再三の要求は絶対通したくない。

 無理やり話を終わらせて、他のメンバーを探しに歩き始める。

 蒼はぶーたれた顔で「けちー」と言いつつも、後ろに付いて来た。


【海桜・蒼──生存、捜索開始】




 一階バックヤード。


 打ちっぱなしのコンクリート壁。配管むき出しの天井。そして、光沢のある硬い床。

 踏み出す度に床を叩いて鳴る低音が端の見えない通路の奥へと響く。

 従業員用ドアをくぐった先にあるその場所は表側とは様子が違った。ゾンビがすぐそこにいる、戦闘がすぐに始まる、”かもしれない”という緊張感に拍車をかける。


 この階ではないけれど、バックヤードには一度訪れた。が、ここは違う。一目で感じた雰囲気の悪さ。映画ならば、”まさに出る”といった空気感。いや、映画ならばという前置きもここでは役立たない。自分の目で見てきたあのゾンビは実在する。だから、本能的に感じ取ったその空気の悪さもホンモノかもしれない。そして、もう一つ違うと感じたところ。それは、バックヤードの通路が広いということ。紡希と入った二階のバックヤードの通路よりも明らかに広い。


「この通路広いな!蒼の部屋の幅くらいあるぞ」


 一人ではしゃぐ蒼。それに対して、私は冷静沈着のスタンスを取る。その方がバランスがいいし、普通に危ない。


 視界の先、通路の少し行った先には開けた広い空間がある。あてもないから、とりあえずその場所に移動している。だけど、進むたびに感じた雰囲気の悪さが一段と濃くなっている気がする。この先には何かがあるのだろう、という感覚も次第に強くなる。ゾンビを討伐するヒントか何か得られればいいのだけど。自分から沼の中へ突っ込んでいくようなことは避けたい。

 

 目指している方向の先で、動くものが見えた。


 唐突に見えたそれを、仲間ではないと認識する。次いで、隠れることを決める。一瞬の感覚的な判断だったが、それに従って蒼の手を引いた。


「うおっ」


 蒼は反射的に声を出した。

 その口を手で抑え、声はフェードアウト。

 何か言おうと口をモゴモゴさせるままに棚の後ろに自分ごと放り込こむ。

 周りから見れば、棚に荷物が積み上げられていて、死角となる場所。


 ──なにすんだ!


 蒼は口をふさがれたまま激高している。手に当たる口の動きで言いたいことは伝わってくる。


「しっ。気づかれる…」


 声を抑えて、端的に伝える。すると、蒼ははっとして、辺りを見回す。


「……ほんとだ。あっちの方うじゃうじゃいるぞ」


 開けた空間は正方形でずいぶんと広い。そのど真ん中を通路が貫入していて、通路の往来を邪魔しない形で商品棚が整列している。どうやら商品を保管して置く保管所だったみたいだが、その一画に集まり、ひしめき合っている。それらはまさしくエントランスで遭遇したヤツら、ゾンビだ。


「ありがとうだぞ」

「全然」


 蒼に返答しつつも、観察する。

 

 今わかることは、バックヤードの在庫保管所にある一室の入口にゾンビは集合していること。

 部屋から出ようとするゾンビ。部屋に入ろうとするゾンビ。その二種が入口付近で押し合って大混雑を起こす。そのせいで、そこからゾンビは全く減る様子が見えない。


 ここで一つ疑問が生まれる。


『そこにゾンビが集まるのはなぜなのか』


 些細な疑問ではあるが、現状を知るためには一応必要な疑問。安全を考えれば手早く離れる方が良いが、ゾンビの行動を把握することで少しでも安全が保障されるなら、時間を取って考えてみる価値はある。

 そう思って少し考えてみたが、理由に辿りつきそうなものは見つからない。例えば、部屋のプレートは位置的にゾンビの陰に隠れてしまって見えないから、部屋の名前すらもわからない。近くまで寄れば簡単に確認できるが、そんなことをすればその後の安全を取りに行った意味がなくなる。


 何も情報がない中、かろうじて考えたことは、『その部屋がゾンビたちにとって重要な意味を持つ場所』だからではないかということだけ。ただそれも確証が一切ない空想的な仮説で、しかも具体的でもない。


 ──この疑問から得られるものは今はない。もう動こう。


 そう思って思考を打ち切る。

 疑問は晴れずとも、次の行動は明らかになった。


「蒼、一旦ここから離れよう。皆を探すよ」

「わかったぞ。でも、あそこ気になる」


 蒼はゾンビの集まる所を指さす。やはり蒼もそこには何かがあると感じているのだろう。だけど、今はまだだ。


「皆でまた来る」


 端的に返した。



 長く続く通路。たびたび端に残された段ボール等が積まれている。ほこりを被って、放棄されて長い時間が経っていることが分かる。が、それらは進むたびに過ぎ行き、視界の外へ。ここまで在庫保管所から離れるために歩き続けた。ある程度は離れただろうといったところで振り返った。

 薄暗さでその奥が見えない。が、後ろからゾンビが追いかけてきていないことが確認できればいい。


 ──背後に異常はない。


 そのことを確認すると、進行方向に向き直す。

 いつの間にか蒼が先頭を歩いていることに気が付いた。「さっきまで後ろにいたのに」と思ったが、よく考えてみると振り向いた時にそこに蒼はいなかった。

 蒼は意気揚々と迷わず前に進む。まるでモール内の地図はすべて頭に入っているように。そして、目的地もすでに決まっているように。だが、おそらくは地図もわからなければ目的地も決まっていない。蒼は自分が思うように行動しているだけだろう。


 入ってきた扉も通り過ぎ、通路の逆方向を探索し始めてしばらく。

 前方にゾンビの気配がした。姿はまだ見えないが、確かにそこにいる。

 ここは一本道。別の道へ避けて通るなんてことはできない。

 この先に行くのならば、何か方法を考えなければいけないのだが、幸いこの先に用事があるわけではない。他の仲間と出会えればいいのだから、この通路にこだわる必要はない。


 そう思って、引き返し、入ってきた扉からバックヤードを出ようと考えた。

 蒼にその旨を伝え、変わり映えしない何の特徴もない通路を引き返す。この際、できるだけ存在感を消すため足音は極力なくす。

 ゾンビの気配は追ってきてはいない。そのことに対しては安堵する。だが、戻ればすぐにあったと認識していた扉が見えず、焦りが出始める。


 見逃した。けど、まだ次の扉があるはず。


 そう思い、ゾンビから離れるよう移動し続けるも扉は見つからない。

 焦りが募る。


「どうしたんだ。海桜? 急に行く方を変えたりして」


 焦りに気が付いたのか、蒼が問いかける。


「バックヤードから出る扉が見つからない」

「扉ならさっきそこにあったぞ」


 後ろを指さして平然と言う蒼。

 扉はもうすでに通り越してしまっていた。扉が見つからない焦りで見逃してしまった。


「それを先に言って欲しかった……」

「さっきの気配から逃げてるのか?」


 蒼は逃げている理由を理解していなかった。が、気配には気が付いていた。


「そう」


 頷く。


「それならもうこの辺で大丈夫じゃないのか」

「そうは思うけれど、反対からもう一体来たら挟まれる」

「蒼たちなら正面から戦えるぞ。大丈夫だぞ」

「確かに。一理あるかも」


 蒼の考えを聞いて、納得した。それにゾンビがいる場所の奥に仲間がいるかもしれないと考えると少々強引にでも奥に行くことは悪くない。

 考えを改めて、気配を感じた場所に向けて踵を返す。


 やはりというべきか、気配を感じた先にゾンビがいた。こちらにはまだ気が付いていない。目が悪いのか。

 蒼に目配せし、奇襲することを伝える。蒼は了解のジェスチャー、額に指をそろえた手を当てる。

 それを確認すると、飛び出す。ゾンビに向かって一直線に。

 近くまで接近してもゾンビは気が付かない。


 ──このゾンビ、鈍い。


 斬りかかる前、油断した。だが、それがいけなかった。

 油断大敵。その言葉が示す通り、油断は大敵を引き寄せることになった。

 ハサミの刃がゾンビに到達する直前、ゾンビがこちらに気が付くと同時に耳をつんざく程の騒音をまき散らす。近くにいたため対応できないまま、至近距離でその爆音を聞く。


 耳に痛みが走る。

 脳を揺さぶるような強い振動。あまりに強い刺激に息ができない。

 意識がもっていかれそうになる。だが、白目をむきながらも何とか耐える。

 痺れてろくに動かせやしない脳を無理やりにでも動かせて、少しでも周りの情報を集めて現状を理解しようと努める。ようやっと見えたかすれがすれの視界の中で、ゾンビと蒼の姿を捉える。ちょうど耳から血を流した蒼がゾンビを切り倒した瞬間だった。その時、ゾンビの武器も同時に見えた。それまで死角で見えなかったその武器は、防犯ブザーだった。


 これからまもなくゾンビの大群がやってくる──。

 想像したくもない最悪の事態。だが、直感はなぜだか結構な確率で的中してしまう。

 ここから逃げないと──。

 逃げるという選択肢を取らなければゾンビの大群に襲われて死ぬことは必至。

 だけど、意識はギリギリのところで、もはや意識すら保てない。息を吹きかければ、消えてしまうほどのか細い意識。思考力は意識を保つことに引っ張られて消える。だが、聴覚、次に視覚が失われていく。音を感じることができずに、ぼやけた視界で蒼が何かを話しかけているのか、口が動いているのが見える。

 視界が暗転して、廃墟特有のツンとしたカビ臭さも途絶える。

 頭が床に触れた感触を最後に、五感を失った。

 

 最後にそれを認識した意識も落ちた。

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