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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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56/65

四分五裂………………………………54mg

 数えきれないほど多く、ゾンビが唐突に現れた。

 ガラス戸から入るほの明るい光でその姿が確認できる。


 ところどころ破れた服。赤黒く痛めた肌。うつろな目。口端から溢れる液体。


 全てが映画で見るような恐ろしいゾンビそのもの。

 そこに、さらなる恐ろしい要素が加わる。

 その要素に気が付いた時、絶句した。


 見た瞬間分かった。

 けど、わかりたくなくなかった。


 目に見えたものは、普通じゃ着ないような鮮やかな衣装、手に持っている道具。


 おそらくだとか、多分とか、そんな曖昧な言葉ではなく、確かに言える。

 ゾンビの正体は、魔法少女だった。


「ねぇ……。あいつらが魔獣ゾンビなんだよね……?」


「ええ……おそらく……」


「あれのこと……、知ってた…?」


「いいえ、知らないですよ……。あんなこと……」


「生きてるの……?」


「……わかりません。が、そうだとしても…、」


 玲奈は言葉を詰まらせる。


「救いがありません……」


 予想だにできない現実に固まっていた絆が、はっと動き出し、言葉を発する。


「梨乃ちゃんが。まだ、奥に……!」


 その言葉に紡希も硬直が解けた。動揺もふっと消えた。


 ゾンビは私たちを取り囲んで、じりじりと距離を詰めてきている。

 背後には開かない自動ドア。逃げ場はない。


 じっとしてちゃいけない。

 このままだと、皆ゾンビにやられる……!


「絆! 鞭でゾンビを薙ぎ払って!」


「えっ? …うん!わかったよ!」


 戸惑いを振り払った絆は要請に応じ、彼女の武器──ロープを取り出す。

 そして、前方の集団に向かって、薙ぐ。


 ゾンビに直撃して、跳ね飛ばした。これによって、前方が少し開けた。


「絆! 紡希! ナイスです! あそこを突破しましょう!」


 いつの間にか調子を取り戻した玲奈が指示を出す。

 絆が薙いでできた空間へ全員で駆ける。


 しかし、目前にしてゾンビらはすぐに起き上がり、道を塞いだ。


「駄目だった」と思った瞬間、青いものが二つ、目の前に飛び出す。

 そして、それは道を塞ぐゾンビへ刃を向ける。


「ここは私達が」「ここは蒼たちが」


「「斬り開く!!」」


 事前に打ち合わせてもいないのに同タイミングで前方のゾンビへと斬りかかった。

 ぶった斬る刃はゾンビの首を飛ばし、胴を切り裂いて、再度前方に突破口が開けた。


「みんな! 行って!」


 何体ものゾンビを切り伏せる海桜の叫びが聞こえる。

 なんとかギリギリのところで作り出せたチャンス、ここを逃してはもう後がない。

 地面を踏む足、一歩一歩力を込めて全力で駆ける。

 今はただこの状況から抜け出すことに注力して。


 だが、簡単にはそうさせてくれなかった。

 真っ二つに斬られたはずのゾンビが起き上がり、その武器を手に取って紡希たちが行く方を阻んだ。

 目の前のゾンビの武器は、光に反射してキラリと光る金色のシャベルで、それが紡希の喉元を狙う。

 全力で走る進路上に唐突に現れた鋭利なシャベルに対応するには、考える時間すらない。

 紡希は自らの勘に頼って、反射的に態勢を低くする。

 その数コンマ後にシャベルは頭上を通過。それと共に、髪の数本、数センチを刈り取っていく。


 まさに間一髪。ギリギリのところで回避した。

 だが、疾走中急激に姿勢を低くしたことでバランスを崩してしまった。

 一度崩れた態勢を立て直すこともできずに、手を付く。しかし、それも走ってきた慣性で崩される。

 勢いを止めることができなかった紡希の体は地面に激突し、引きずられる。


 立ち上がらなくちゃ……


 地面にぶつけた衝撃で揺れる紡希の意識。頭からは血が流れている。何とか、保たせながら腕を立てて立ち上がろうとする。

 しかし、無情にもゾンビは下に横たわる紡希の心臓にシャベルを突き立てようと構える。


「紡希ぃー!!」


 海桜はその光景を見て叫ぶ。

 海桜にとって紡希は欠けることさえ許せない大切な友達。

 失ってしまってはもう二度と会うことはできない。

 自らに襲い掛かってくるゾンビをはねのけなければ、自分の命だって危うい。

 自分の身を犠牲にして「でも」、失いたくない。

 助けに行こうとする。

 しかし、ゾンビがそれを邪魔する。

 声は届いても、手は届かない。


「邪魔!」


 ゾンビを切り伏せる。だけど、すぐに再生してまた邪魔をする。


 紡希助けられるのは自分だけ。海桜の無意識下で思っていたその言葉は正しくない。

 誰も助けられない。それも違う。

 今、ここで助けられるのは……



 絆だけである。


 絆は自分の手にロープを生成し、その一端を紡希を襲うゾンビへと飛ばす。

 ロープは真っすぐ飛んで、スコップを振り下ろすゾンビの腕に絡みつく。

 だが、それだけではゾンビの動きは止められない。先端は着実に紡希へと迫る。

 絆は引いた。出せる全ての力を出して、ゾンビの腕を止めるため、死に物狂いの火事場の馬鹿力で引いた。

 すると、ゾンビの腕力と絆の引く力が拮抗した。

 ゾンビは力を強める。体重全てをかけて、引く絆にも限界はある。力の均衡は崩壊し、徐々にゾンビの腕が下へと下がっていく。


 しかし、時間は稼げた。

 紡希はゾンビの足元から脱出に成功し、危機的状況から逃れる。


 絆は紡希が無事であることに安堵した。

 が、それもつかの間、シャベルのゾンビはひるがえり、今度は絆の方にターゲットを変える。

 絆はロープを引いていた。その力を利用したシャベルのゾンビは急激に接近。同時に、力のつり合いが急に無くなった反動で絆は後方によろめく。


 この状況に、絆は死を悟る。

 そして、後悔する。だが、先ほどの自分の行いがなければ、紡希は死んでいた。


 これでよかった。死ぬのが自分でよかった。最後に、紡希ちゃんに恩を返せてよかった──。


 絆は自分の命を諦めた。

 来襲するシャベルのゾンビが見える。

 自分が最期に見た光景が、こんなにも恐ろしいものになるのだと、涙が出る。

 涙は視界をぼやかす。それが少しだけだが、死への恐怖を薄れさせる。

 だが、涙は一定量が溜まると、目からこぼれ落ちる。邪魔するものが無くなった視界はクリアになった。

 絆は、神様は意地悪だと思った。ぼやけた視界なら恐さが薄れると少し安堵したのに、鮮明に、細部まではっきりと死ぬ瞬間のことを見せつけてくる。


 ただ見えたものは恐いものだけではなく、そこに希望もあった。

 ゾンビのはるか後方で、紡希が何かしている。

 何をしているかは絆には理解できなかったが、「助けてくれる」そんな予感がある。


 紡希ちゃん、助けてくれるんだね。


 確信を持った絆は紡希を信頼し、ゾンビを正面に捉える。

 恐さはなくなった。

 立ち上がって、後は待つだけ。


 ゾンビはシャベルの先端を向けて突っ込んでくる。


 絆は逃げも隠れもしない。

 ゾンビからすると、全くの無防備。攻め入る隙でしかない。


 ゾンビは踏み込んだ足を少し貯めてから、地を蹴った。

 その接近スピードはもう逃げる間を与えない程に早い。


 それでも、絆は動じない。


 シャベルの先端が絆まであと1メートルもない所まで到達。


 ゾンビから目をそらすことさえしない。

 通常ならシャベルに貫かれてしまうことが確実な状況になっても、絆はただ真っすぐにゾンビを捉えている。

 そんな芸当ができるのは、紡希を信じているから。


 シャベルの先端が、数十センチにも満たない所まで来た時、ゾンビの全身がふっと浮かび上がった。

 そして、そのまま天井にまで引き寄せられるように上昇する。


 絆が真っすぐに見ていた先で紡希がふーっと息をついている。

 そして、一言だけ漏らした。


「よかった。間に合って」


 これで、シャベルのゾンビは無力化された。

 しかし、たかが一体を無力化しただけ。ピンチであることは変わらない。

 次なるゾンビが集団となって襲い掛かってくる。


 現在、前衛組と中衛組が分断されている状況下で、濁流のような勢いで襲いかかるゾンビの集団にはなすすべがない。が、あまりの数的な多さにゾンビらは互いに邪魔しあい、行動に制限がかけられている。そのためか、致命傷となるような攻撃はほぼない。その点では魔法少女達にとって幸運だが、やはり危機的状況であるのに変わりはない。

 前衛・中衛の役割分担は機能していない。中衛組の中でもさらに分断され、それぞれが一人でゾンビに囲まれる。

 それでも、あがく。自分のためにではなく、仲間のために。仲間を助けるために。だが、事態は深刻。もはや人のことなどかまってられない。


「全員!退避!!」


 玲奈が発したやけに通る声を聞いたそれぞれは逃げ出した。

 ゾンビ集団に取り囲まれた中から逃亡すること、それが可能なのか不可能なのか。どこへ逃げれば正解なのか。みんなは無事なのか。


 仲間の安否も、自分の安否でさえももはやわからない。

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