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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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いざ、いま、ゆく……………………52mg

 朝から目覚ましの音が鳴り響く部屋で半分起きる。

 目を閉じているのに光が瞼を越えて飛び込んでくるので、布団の中に潜る。


 布団の中は暖かい。

 冬の寒さが幅を利かせる外とは隔絶されて居心地がいい。

「まだ寝ていたい」

 そんな気持ちが強まって、中々起きることができずにいる。


「紡希ー!遅刻するよー!早く降りておいでー!」


 もはや風物詩となっている母の呼ぶ声で、なんとか布団をめくり寒い外界に出る決意をする。そうろっと出ようとしても、また布団の魔力に吸い寄せられてしまうので、ここは一気に勝負に出る。

 がばっと起き上がって、服越しに肌が外気温に触れた時、鳥肌が立つ。それでも、なんとかリビングに駆け込んで食卓に座った。


 食卓には白ご飯と味噌汁が準備されている。朝はこれくらいじゃないと食べられない。椅子から立って、ふりかけを取りに行く。


「じゃあ、もう行ってくるからね~」

「うん。気を付けてー」


 玄関から聞こえる母の声に返事をしつつ、ふりかけをとって椅子に戻る。その道中で、リモコンを手に取り、テレビをつける。

 一息ついて、茶碗を持って朝食を食べ始めた。先程、つけたテレビでニュースを流し見しつつ、考える。


 今夜。ゾンビを倒しに行く。

 四魔の最後の一体。魔王復活を止める最後の一体。倒せたら、私たちは山場を越えたことになる。これ以降は魔獣の生き残りを倒すだけ。だから、今夜が最後の難関。

 玲奈れなは最後だからって気を抜かないで言ってた。海桜みおも言ってた気がするけど。

 私達なら負けない気がする。

 だって、これまでも……、桃香とうかの犠牲はあったけど、なんだかんだで乗り越えてきた。

 最後だっていつも通りうまくいくはず……。いや、うまくやって見せる。

 メデューサとの戦いで私は精神的に強くなれたし、魔法少女としても強くなれた。

 強くなった私と皆でなら、四魔だって、魔王だって倒せる…!


 メデューサとの戦いの前にあった不安や劣等感も何もない。今あるのは、勝てる自信。

 今夜の決戦に意気込む勢いで、箸を持つ手を握り締める。



 ……ふと、テレビの時計が目に入った。


 時間は8時5分。朝礼開始まで15分を切っている。

 それを認識した途端、今の状況に気が付かされる。


「やばっ!遅刻!」


 紡希は急いで朝食を胃に流し込んで、食器は流し台へ。ハンガーにかけてある制服に着替え、鞄をひっつかんで玄関を飛び出した。



 誰もいなくなった室内に残ったのは、脱いでそのままにした寝巻と、ニュース番組が流れているテレビの音声だけだった。


『昨日、平田市砥々気(ととぎ)町の公園内で女性の遺体が見つかった事件で、昼下がりの住宅街は騒然としました。遺体は野ざらしの状態で公園の砂場にうつぶせになったところ発見され、発見時遺体には外傷がありませんでしたが、警察は他殺の可能性があるとして捜査を進めているとのことです。

 また、SNSに投稿された遺体の画像はネット上に拡散されており、警察は被害者のプライバシーを守るためにも遺体の画像の拡散をしないよう呼びかけています………。』


 学校から帰宅した紡希が気が付くまで、テレビは無人の室内に音と光を発していた──。



 …



 時刻は午後10時。

 学校は大分前に終わって、夕食ももう済んだ。今は自室に籠って、寝る準備をしている……ように見せかけて、ゾンビ戦の準備をしている。準備とはいっても持っていくものなんてほとんどなく、自分の携帯くらいだけど、戦いに臨む心の準備が大半を占める。

 しかし、それももう慣れてきたこと。何度か深呼吸をして、意志を固めた。


 そろそろ出発の時間だ。


 部屋の電気を消し、窓を静かに開ける。


 吸い込んだ外の空気は冷たくて、頭の中の詰まりが全部治っていくように思う。


 ベランダに出た紡希は手すりに手をかけて、体重をかける。足を上げて、手すりをまたぐと次は塀に足をかける。

 そして、そのまま庭に出た。

 庭に面するリビングからは明かりとテレビの音が漏れ出てくるのがわかる。父はいつも21時ぐらいには寝ているから、たぶん母が見ているドラマの音だ。


 ドラマに熱中しているから中々気が付かないだろうけど、念には念をということでこっそりと庭を渡る。その次は家の前の小さい門、ここも難なく突破。

 今日も気が付かれずに家から出てこれた。まずは集合場所、いつもの公園に向かう。



 いつもの公園こと、沖春児童公園にはすでに数人の人影があった。

 そのうちの一人は、すぐにこちらに気が付いて、手を振る。


「おっ!つむぎー!」


 突如発せられた元気溌剌な声は閑静な住宅街に響く。


「ちょっと…、蒼。静かに」

「なんでだー?」

「中学生がここにいること自体、駄目なんですよ。そんな大声出したら、近所の人が警察に通報するかもしれないじゃないですか」

「え。蒼たちいけないことしてたのか…!?」

「いけないことですけど、必要なことですよ」

「そうなのかー……?」


 蒼と玲奈、二人のやり取りをブランコの策に座る梨乃は微笑みながら眺めている。

 座っているだけでも息を吞んじゃうぐらい、育ちの良さが感じられる気品というものが梨乃からあふれ出している。

 その横の空いているスペースに不相応ながらも腰を下ろす。


「あの二人は相変わらずだね。戦いの前の緊張感が吹っ飛んじゃった」

「ですわね。味気ない日々の風景にスパイスが加えられるようで、飽きませんわ」


 梨乃は優雅な立ち振る舞いで長い髪をかき上げながら答えた。



 集合時間5分前くらいに絆が現れた。


「絆が来たぞー」


 前回のことを反省したのか、蒼は大声でなく、普通くらいの声量で話す。


「皆早いね。誰が最初に来たの?」

「蒼だぞ!」


 即座に蒼が胸を張って答える。

 それに対して、玲奈が皮肉を込めてつぶやく。


「家を出る時間に寝てたの誰でしたっけ」

「うっ……」


 蒼は言葉を詰まらせた。



 そして、集合時間ちょうどに海桜が現れた。

 自分以外の他の全員が集まっていることに不安を覚えたのか、


「あれ…? 時間、間違えた?」

「ううん。時間ぴったり」


 柵から立ち上がって答える。


「ならよかった」


 梨乃が立ち上がる。


「皆そろいましたので、そろそろ出発いたしましょう。あんまりゆったりしていては夜が明けてしまいますわ」


 梨乃の一言に全員が立ち上がった。

 先程のほんわかした様子と打って変わって、全員の意識が魔獣討伐へと向かう。


 いざ、廃ショッピングモールへ。


 六人の足音は公園の出口へと進んでいった。




 …




 六人の魔法少女たちは目的地にたどり着いた。


「ここが目的地……?」


 放棄された巨大な建造物を目の前に絆はつぶやく。

 ツタなどの植物が巻き付いているだとか、ヒビだらけでその内崩壊してしまいそうだとか、そんなことはなく、今でも現役だと言われてもおかしくないほど廃墟感がまるでない。

 絆同様に廃ショッピングモールに行くという事前情報が間違っていたのか、もしくはそもそも建物を間違えたのかと思わされる。


「アプリによるとそのようですね」


 手元にあるスマホの光で顔を照らされながら、玲奈が答えた。


「この辺って、なんもないんだな」


 脈絡もない蒼の唐突な発言が飛び出す。

 確かにこの付近は、平らな土地がずっと向こうまで広がっているだけで、家とかの建造物はなにもない。代わりに背の高い草がその場所を覆っているだけだ。

 そんな中、ポツンと、とは言えないかもしれないけれど、一つだけ巨大なコンクリート造りの建造物が建つ。周りの平原も相まって、奇妙な存在感を放っている。


「そのおかげで周りに人っこ一人いないし、姿を見られる心配もない……。好都合じゃん」

「一応、この区画の奥の方には住宅地があるので、気を引き締めておいてください」

「それはもちろん」


 玲奈の忠告は海桜には当然のことだったようで、さらっと返す。


「この辺りで、ゾンビ討伐前に確認しておきたいと思いますわ。よろしくって?」


 梨乃の呼びかけで廃ショッピングモール突入前の最終確認をする。


 まず。1.出現条件を探す。

「これはいつものことですわ。とはいうものの、現在あるエリアにはいることが条件であることが多いんですの。近い例ですと、ベヒモスなんてそうですわ。

 あと……、紡希から聞いた話を考慮すれば……、メデューサもそれに当てはまるといっていいのじゃないかしら」


 次に。2.ゾンビを倒す方法。

「事前会議での情報では、ゾンビは多数存在する、再生する、という話でしたわ。ですわね、玲奈?」

「はい。情報収集に長けた魔法少女から聞いた話なので、信ぴょう性もあります」

「とのことですので、事前会議で決めたように一体ずつ撃破していきますわ。その際、ゾンビの魔力を枯渇させる、という手段をとりますので、玲奈と紡希が作戦の要になりますわ。二人には魔力移動に従事していただくとして、他のメンバーはその時間稼ぎをしていただきます」


「確認することはこれくらいでしょうか」

「それで充分だよ。こんなところに長居したら通報されちゃうかもだし、早く中に入ろうよ」

「ですわね。……皆さん、時は来ました。最後の四魔を打ち滅ぼしに、魔王の復活を止めるため、今征きましょう──。お覚悟はよろしくて!?」


 通常、正義の味方が悪の敵に向けて放つ言葉を梨乃は誤用している。

 だが、高まった戦意の中で誰もそのミスを指摘しない。返す言葉は一つ。


「「オー!」」


 重なり合った喊声は静かな夜の平原に響き渡った。

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