逆何時もの景色………………………5mg
昨日、海桜に魔獣討伐に行かないかと誘われたが、具体的にどこに集まるか、いつ行くのかもまだ決めてない。
それに気づいたのが翌日の朝、つまり、今日の朝。
連絡をしようかと考えたが、海桜からの連絡を待つことにして、登校した。
それから連絡がないまま、もう放課後になってしまった。
どうしよう。
まだ連絡が来そうにない。
「……」
これはもうこちらから連絡すべきだ。
『魔獣討伐いこうって話、まだ時間と場所決めてなかったけど、どうする?』
とりあえず送った。
当然だけど、すぐには返事は来ない。
もうちょっと待ってみよう。
…
家に帰ってきた。
自室に戻ってLINEを確認する。
返事来てる。
『詳細決めるの忘れてた。まじでごめん。夜中でも大丈夫かな?』
『夜中……。たぶん大丈夫だと思う。』
『おっけー。じゃあ、時間は23時、場所は沖春中近くの公園ね』
『わかった』
なぜ夜中なんだろう。
と疑問が浮かんだが、すぐに理由が分かった。
魔法少女はその姿を見られてはいけないという制限があるからということだろう。
姿を見られた場合はどうなるかわからないから、なるべく見られないように動くのがいい。
人気のない夜中は魔法少女の活動には最適だ。
23時までは時間がまだある。
7時に夕食を食べて、それからお風呂に入る。
その後は、少しゆっくりしていよう
…
23時頃
公園の近くまで来た。
こんな夜遅くに出歩くのは初めてだ。
海桜はもう着いているだろうか。
そんなことを考えて公園の入口から中を見渡す。
ベンチに黒い影がいる。
「紡希!こっちー!」
一瞬誰だか分からなくて、身構えたが、海桜だということに気づいてホッとした。
「じゃあ、行こうか」
今日の目的地をまだ聞いてない。
どこに行くんだろう…?
「そうだ。倒しに行く魔獣、まだ決めてなかったね」
海桜はそう言うと、ポケットからスマホを取り出して画面を開いて、こちらにも見えるようにした。
「どれがいいかな」
その言葉を聞いて、画面を見ると『magical dose』の魔獣リストだった。
自分自身戦う能力をほぼ持っていない。
だから、戦闘には参加できない。
できたとしても少しだけだ。
ほとんど海桜の力のみで戦うことになってしまう。
そのことに一端の罪悪感を感じる。
早く戦うすべを身に着けないと、海桜に負担をかけすぎてしまう。
今は海桜に負担をかけすぎないようなレベルの魔獣に挑むべきだろう。自分が魔獣討伐に慣れるという意味でも。
前と同じレベルの星☆にしよう。
「できれば、星☆に。」
「了解。星☆だね。
すると──これなんかどうかな」
海桜が選んだ魔獣は
『オロチ』
オロチ…聞いたことがある、気がする。
巨大な蛇のことだったような。
この魔獣の名前には由来があるのかもしれない。
提案に承諾すると、
海桜はスマホの地図を確認して
「出現場所は神社らしいね。方向はあっちかな」
と指を指した。
昨日魔法少女になった魔法神社とは別の方向を指している。
今回の目的地は魔法神社とは違う神社のようだ。
倒す魔獣や目的地も決まったことで準備が整った。
目的地に向かって歩き始めた。
…
夜中の住宅街は昼間とは違う、
怖いとは少し違うような、異様な雰囲気だ。
辺りが暗いからという理由もあるだろう。
というかほとんどそれのせいだ。
たぶん。
明るさが変わるだけでいつも見ているような町並みが少し変に感じてしまうのはなんだか不思議だ。
いくつかの住宅には電気が付いていて、
それがカーテンの隙間から漏れている。
だけど、その光は道路を照らす程ではない。
それに対して、街灯は地面をぼんやりと照らし、
少し離れた所に一本、また一本と同間隔に割り当てられて整列している。
道路上に照らされた円の列は一層夜の異様さを煽っているように見える。
道路に沿って歩き続けた二人の間に会話はなく、沈黙が続いた。
移動し始めてすぐはそれなりに会話はあった。
例えば、目的地の特徴。
目的地の神社の名称は貴船神社。
住宅地に囲まれる森の中に存在する。
いわゆる鎮守の森というものだ。
そこは相当な広さらしい。
実際、航空写真で見ると、住宅地に隕石が落ちたかと思うほど地図が丸く大きく緑で塗りつぶされていた。
この情報は海桜がスマホの地図アプリから得たもの。その場ですぐに調べてくれたらしい。
会話はこれくらい。
以降は足音ぐらいしか聞こえない状態が続いた。
「もうすぐ着くよ」
海桜が沈黙を破った。
その言葉の通り、しばらく歩いていると、
鎮守の森は住宅街のど真ん中に急に現れた。
今いる歩道の突き当りの道路を挟んで、すぐ前に石造りの鳥居がある。
鳥居は街灯に照らされて認識できるが、その先に続く石畳には街灯の光がない。暗闇が続いている。
「ライトって持ってきてる?」
という海桜の問に
持ってきた、と答える。
「危うくライトなしで特攻するところだったよ。ありがと」
海桜は安堵したように感謝した。
…
鳥居をくぐり、石畳辿って神社の奥へ進んだ。
森の中は思ったより明るい。
ライトなしでも石畳の枠や木の一本一本くらいは確認できそう。
今夜は雲ひとつない快晴かつ満月だからだろう。
拝殿へは意外と早く着いた。
しかし、魔獣は現れない。
昨日初めて魔獣と戦ったときもそうだった。
なぜだろう?
「海桜、魔獣出てこないね」
「魔獣はその場所に行っただけでは出てこないよ。条件があるんだ」
成る程、そうだったのか。
確かに昨日も小屋に着いて中を探索して、しばらく立ってから魔獣は現れた。そのときは花瓶を動かすことが条件となったという感じなのかな。
「条件って?」
「それはわからない。こうすればいいっていうのもないし、法則性もたぶんない。だから色々試してみよう」
「そうだね」
それから二人は拝殿周りを探索し始めた。
「まず初めに賽銭を入れ、鈴を鳴らしてみよう」
という海桜の提案に私は承諾し、二人は賽銭箱の前に立った。
拝殿の真ん前に立つと、緊張のようななんだか変な気持ちになる。
これから魔獣との交戦が始まるかもと思っているのか、
普通ならありえない時間にお参りしているからなのか、
理由はわからないけれど。
小銭を賽銭箱に入れ、縄を揺らし、カランカランと乾いた鈴の音を鳴らす。
目をつぶり、
二礼、二拍手、一礼
何も起こらない。
どうやらこの行動は魔物の出現条件ではないようだ。
「なにも起こらないね」
「そうだね、違ったみたい。他になにかできることあるかなぁ…」
今まで拝殿の方へ向けていた明かりをなんとなく木が生い茂る方を照らす。
すると、何かがキラッ光った。
一瞬明かりをその方へ向けていただけだったから、
見間違いかなと思った。
それで、もう一度、照らしてみる。
やっぱり、何か光っている。
「ねぇ海桜、あそこ。なにか光ってない?」
「確かに。なんだろう、あれ。ちょっと行ってみようよ」
光る物の正体を突き止めるため、近づく。
木に刺さっているものだとはわかるが、まだ何なのかはわからない。
もう少し近づく。
先に進んでいた海桜がそれの正体を認識した。
「わかった。これ、釘だ。釘が刺さってる」
海桜の後ろから覗いて、確認した。確かに釘だ。
それも大きめのサイズだ。
でも、こんな所に刺さっているのはおかしい。
もしかして条件に必要なのかな。
よし、引き抜いてみよう。
そう思い、近づいて、釘をつかむ。
「え、? ちょっと待って。紡希、何してるの?」
海桜が驚いて声を上げる。
「たぶんこれが条件なんだよ。」
言うとすぐに、引き抜いた。
それも思いっきり。
釘は案外軽く抜けた。
抜いてすぐ気配を感じた。
森の奥から。
その方角へ振り向く。
暗闇の中でなにかが動いている。
それが近づくにつれ、姿がはっきりしてくる。
数十メートル先。
魔物だ。白い大蛇がいる。




