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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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48/65

また逢う日まで………………………47mg

「ふぅー……」


 ハサミを振って消すと、海桜は大きく息をついた。

 それをへたり込みながら、眺めている。


 ちょっと魔力を渡しすぎたかもしれない。もう動けないくらい疲れた。


 残されたわずかな気力を使って首を動かすと、他のみんなも疲れて座り込んでいるのが見える。だが、一人だけ……。


「よっしゃー! メデューサ倒したぞ!!」


 名前にたがわず、緑っぽい蒼色と青色の衣装を身にまといはしゃぐ女の子。

 元気こそが彼女の代名詞、蒼は全員分の戦勝の喜びを代わりに一挙に引き受けるほどの勢いだ。

 その様子を見て、絆や玲奈は孫を見る祖母のように微笑んでいる。きっと、二人もうれしいんだ。

 もしかすると疲れて動けないだけで、ほんとははしゃぎたいくらいなのかもしれない。


 蒼のはしゃぐ様子に気を取られていると、海桜がいる方でドサッと音が聞こえた。


「?」


 何事かと思って、音のした方を見る。が、海桜はただ腰を下ろしただけだった。


 びっくりした……。

 海桜に何かあったのかと思った。


 海桜を見る紡希の目には、メデューサだったものが光の粒となって蛍の光のように宙へ舞い上がっていく様子を捉える。そして、それは海桜の後ろ姿を映える物にしている。


「……」


 きれい──。海桜はスタイルが良くて、どこな所でも絵になるのに、こんなにきれいな背景だとなおさらだ。


「どうしたの?」


 先ほどまであっちの方で座っていた海桜がすぐそばまで来ていた。

 隣に座る海桜。それに応じて、座りなおす。


「ちょっと、ボーっとしてた。やっと終わったんだって」

「そっか」


 見とれてた、なんて言えず、他の理由をでっちあげた。でも、やっと終わったんだっていう感情は全くないわけじゃなくって、その思いはむしろ大きい。今までで一番、大変で長い戦いだった。


「疲れたね」

「うん、今すぐベットで眠りたいくらい」

「今回は紡希が一番頑張ったからだろうね」


 そう?なのかな。必死すぎて自分が頑張ったかどうかなんて考えたこともなかった。


「ありがとね」


 ボソッとつぶやくのが聞こえた。


「?」


 なんのこと?

 海桜に感謝されるようなことしたっけ。


「石化解いてくれたことだよ」

「でも、あれの原因は……」

「その続きはなし、ね。紡希が石化した私を助けてくれた、これだけで十分。原因なんて考えなくてもいい」


 そう言うと、海桜は紡希の頭をなでる。


 こういう時、海桜はいつも頭をなでる。なんでだろうとは思うけれど、その疑問が流されちゃうほど心地がいい。包まれるような安心感、それがここにあって、ずっとこんな状況が続けばいいのになって願う。

 紡希と海桜はしばらく二人でいた。







「花音さん、今後ことって何か考えてる?」

「今後……?」


 花音は意識外の質問に面食らう。

 だが、その内容は疲れた花音の頭にはすぐに理解できるものではない。

 ぼーっとした思考の中で、その意味を探る。


「あ…」


 花音は気が付いた。

 自分が一人になってしまった、ということに。

 その事実に花音は立ち尽くす。そして、思い出す。紗織と歩いた公園、共に魔獣に立ち向かうその後ろ姿、そしてなによりも紗織の笑顔。

 崩れ去ってしまう。何もなくなってしまう。

 良かった過去が、生きる現在が、幸せなはずだった未来が。


 花音の目は、前が見れなくなってしまった。


 座り込んでうずくまる。気が付きたくなかった。これからどうするのかなんて。

 いつもは調子よく出てくる涙も引っ込んで出てこない。

 むしろ、それが辛い。

 

 涙を流して、はい後回し。


 そうしたかったのに。気が付いたことをなかったことに。

 そんな都合のいいことはできなくて。

前を見たくないのに。前を見られないことにしたいのに。

 これからも生きていくことを決めたなら、前を見なければいけない。


 本当の未来を見なければいけない。

 紗織がいなくたって、一人だって、どんなに暗くて黒くて苦しい未来だって、現実だって、自分のその目で見続けなければいけない。

 生きるのだから。生きるのは苦しいことなのだから。


 もう前を見たくない。現実の未来も現在も面と向かって見たくない。もう辛いのはたくさんだ──。


「もし花音さんが良ければなのだけど、私達のチームに来ないかな?」


 その言葉を聴いた時、光が差した気がした。まだ真っ黒な未来・現実だって、かろうじて存在する細い光。

 それは、うずくまってて見えなかった前を向かせるようなもの。


 花音は顔を上げた、その先に絆と目と目合わせした。笑顔が見えた。紗織のものとはまったくもって同じものではないけれど、その本質は同じ。

 同じ優しい笑顔だ。

 その笑顔に甘えてしまいたい。紗織にしたように──。


 絆から手を差し伸べられる。

 迷うことなく、その手を取ろうとした時。


──でも、迷惑になるんじゃないかな。


 花音は手をひっこめた。


「…?、どうしたの」


 絆は不思議そうな顔をする。

 その後ろで、玲奈や蒼、梨乃までこちらを見ている。


 不快そうにはしていない。

むしろ、いつでも迎える準備はできているといった様子。

 そのことに安心した。だけど、差し出された手を取ることにためらう。


 その理由とは迷惑にならないか、を考えているからというわけではない。

 ふと、一つの考えが湧き上がってきたからだ。


「…そうだ。」


 閃きが花音の中に舞い降りた。

 キーとなったのは絆たちの姿、そして、自分の武器に鏡が選ばれた理由となる生来の性格。この2つからだった。


 おもむろに手鏡を取り出す。

 魔法で作った武器の鏡じゃなくて、実物の鏡。

 街頭の少し暗めの光で、自身の左右逆になった顔が映し出される。


 写った顔は、いつの間にか涙でぐしゃぐしゃになっていた。


 現実から目をそらしていた花音は、ようやく気が付いた。

 ありのままの自分に。


 わたしってば、ひどい顔。


 花音はクスッと笑った。

 涙を出しながらで、さらにひどい顔になっていく。


 友達が死んだんだもん。仕方ないよね。


 花音は袖でゴシゴシ拭った。

 それでも、ひどい顔のままで、涙を顔中に広げただけだった。


 でも、きっと沙織にはまた会える。

 今度は本当の天国でまた会える。


 もう一度袖で拭って、そして、花音は涙を止めてみせた。


 会える時まで待つんだ。

 老衰で死ぬまでの長い長い時間を、一番会いたい人に会うために。

 そして、それまでの暇な時間はその時にしか出会えない人に会いに行って、話をする。

 日が暮れるまで、夜が暮れるまで、飽きるほどに。


「これ、よかったら使って」


 絆がハンカチを差し出す。

 花音の顔にはまだ涙が残っている。


「ありがとう…」


 そのハンカチを受け取って、涙をすべて拭う。

 涙を拭いただけなのに、腫れ物はすっかり落ちた。


「どう。すぐに答えるのは難しかった…?」

「ううん、大丈夫。決めました。これからのこと、私の将来のことを。」



「ごめんなさい。私は皆さんのところへは行けません。」


 絆は思いも寄らない答えに驚いた。

 それは絆以外も同じで、驚きの表情が表に出てきてしまっている。


「私は皆さんに助けてもらって、誰かを守ることはとても力のいることだと実感しました。

だから、そんなことは非力な私にはできないと思っていたんです。


 でも、皆さんの戦闘を見てその考えが変わりました。

 適材適所。

 その言葉がぴったりあうような息のあった見事な連携。

 できることはやり抜く。できないことは任せる。といった自分と仲間への信頼。


 皆さんの行動の一つ一つが私に語りかけてくるようでした。


 私には何ができる?


 それを考えたとき、手元の鏡盾を思い出したんです。

 私には人を守る力を元々持ってた。

 この気付きは私の体を動かせました。そして、梨乃さんのカバーに入れた。

 と、色々あるのですが、端的に言います。


 私は皆さんみたいに、誰かを守れる魔法少女になりたいです。

 もっというと、この市の中にいる困っている魔法少女、全員を守りたいんです。

 だから、ごめんなさい。」


「少し驚いたけど、花音さんは自分の意思を持って行動するんだね。それはすごいことだし、とても良いことだよ!

私達は花音さんの決意を応援するから、何か困ったことがあれば、私達に相談してね」

「ありがとうございます。絆さんには、励まされてばかりです」

「そんなことないよ。することは別々のことだけど、私達お互い頑張ろう!」


 二人は固い握手を交わしあった。

 紡希達一行と花音とは進む先は別。だが、新しくできたこの絆は切れることなく続いていくのであった。

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