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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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46/65

一人残して皆無事……………………45mg

 走り出したものの、向こうの状況が戦闘音でしか分からない。

 私が石化解除に取りかかったのは少し前──たぶん10分くらいはすでに経っている。

 10分は日常生活では大したことない短い時間に感じるけれど、戦闘時の10分は相当長い。一秒一秒に死んでしまうかもしれないという緊張感と可能性があって、そのため、一秒ごとに最大の集中力を発揮しないといけない。

 1秒単位で全集中することはとても体力を使うことで10分であってもマラソンを走り終えた時のような疲れが一気に押し寄せて、戦闘での判断力が鈍って、最悪死ぬ。

 だから、メデューサと戦っている皆のことが心配だ。


 不安で海桜と繋ぐ手に力が入る。


「皆が心配?」


 海桜の質問に足を止めることなく頷く。

 長い。ただ長い。距離にしてみれば目的の場所はすぐそこにあるはずなのに、とても長く感じる。

 最初出発した場所からは激しい戦闘音が聞こえていたから、仲間の内の誰かは必ず生きているということはわかってはいたが、それだけでは全員が生きているという証拠にはならない。もしかしたら誰か一人、もっと悪い場合だと二人欠けているかもしれない。

 誰かが死んでいるとしたら、誰だろうか。

 前衛という一番危険な場所にいる蒼か、私に海桜を託して戦闘に参加した玲奈か、はたまた寄られたら一番もろい梨乃か──。


 いや、よそう。こんなことを考えるのは。

 きっとみんな生きている。生きているんだ。


 近づく度、だんだんと戦闘音が大きくなってくる。

 目の前の柱の向こうにはもうそこにいるはず。視界を遮る柱を避けると、前線が見えた。

 

 皆は──?


 蒼と玲奈、はメデューサの近くにいる。梨乃も……、大丈夫。柱の陰にいた。

 よかった、全員無事だ。


「海桜!」


 メデューサの一番間近にいるというのに、蒼が一番に気が付く。

 「戦闘に集中していないんじゃない、大丈夫かな」と一瞬は思ったが、戦闘に集中しているからこそ蒼は気配に敏感になって私達に気が付いたんだと思い直す。


 蒼の声に玲奈と梨乃が連鎖的に反応する。


「やっとですね。待ってましたよ、海桜!」


「前衛の増援がちょうど欲しかった所ですの。早く前に出てくださいまし!」


 海桜はメデューサを正面に捉え、前に進み出る。 

 手のひらを前に突き出して、虚空を握る。そこにハサミを生成させると、両手持ちに切り替え構える。


「ごめん、皆。ミスした分取り返すよ……!」


 ハサミの先はメデューサに向けて、海桜は飛び出した。


 ここからはもうメデューサを生かしておく必要はない。


 前線に立った海桜の鋭い刃はメデューサの身体を切り裂き、続く蒼もカッターナイフで果敢に攻め寄せる。が、メデューサを倒すには至らない。

 もうあと一押しで倒すことができる。そんなことが期待できる状況なのだけど、そのもうあと一押しができない。

 前衛組の攻撃は全て致命傷に至らないように逸らされて、メデューサの傷は浅い。さらには、攻撃のテンポが徐々に崩されて来ているような気がする。


 その原因は多分、あの石化光線だ。

 こちらが接近戦を仕掛けると、メデューサはすぐに光線の予備動作に入る。

 だから、メデューサの懐深くまで接近をすることはできないし、刃は浅い所までしか到達できない。

 また、前衛二人の攻撃も連続したものにはならず、有利状況もそこでリセットされてしまう。

 ただ有利状況はすぐに取り戻せる。

 だけど、メデューサは不利になった瞬間、もう一度石化光線を放つ。メデューサの戦況リセット→前衛組の有利状況奪還、これが何度も繰り返される。

 今はまだ、有利状況を取り戻せるから大丈夫だけど、だんだんと有利状況を取り戻すのが難しくなってきている。私たちの有利が保てなくなるのは時間の問題かもしれない。


 前衛組はそんな感じだけど、中後衛組は更に酷い状況になっている。石化光線は前衛組にだけ刺さるものではなくて、中後衛にも影響を及ぼすものだからだ。

 例えば、遠距離の梨乃の場合だと、射撃も光線の間隔に一、二発しか打ち込めないという時間的猶予で、さらに前衛を誤射しないように努めると一撃も放つことはできない。

 ここで前衛を退かせて、梨乃の射撃のみになってしまうと当然躱される。

 現在、梨乃は何もできることがなく、せいぜいできることとすれば、弓を構えるだけのことしかできない。


 そして、もっとも死にポジとなるのは中衛の玲奈だ。

 玲奈は近すぎず離れすぎずの間合いを管理しながら、相手の隙に注射を打つという役割を担っているが、メデューサの石化光線の効果範囲的に間合い管理がうまくいかない。


 つまり現状を一言で言うなら、攻めあぐねている、というほかない。


 ただメデューサにもつけ入る隙はある。

 メデューサは石化光線を放つか、攻撃をかわすかの2パターンの行動しかとっていない。

 言い換えると、石化光線以外の攻撃はとっていない、ことになり、このことは、もしかすると「石化光線を放つことしかできない」のかもしれない。

 石化光線が相当な魔力を消費する攻撃だからとか、単純に対応しきれないからなのかはよくわからないけど、ここがつけ入る隙だと思う。

 つけ入る隙とは簡単に言っても、付け入ること自体が難しい。だけど、できないわけじゃない。私でも何かはできるはずだ。


 メデューサは何度目かの石化光線発動の動作をとる。

 対して、私は柱の陰に隠れる。同じように、他のみんなも回避行動をとる。

 慣れ切ったこのパターンに前衛組の二人が「この後、飛び出て攻撃に移ろう」として、攻勢に出る準備をするのが見える。そして、自分の横の奥の方の柱で玲奈もチャンスがあれば採魔に移ろうとしている。


 そうか…! 魔力の吸収だ。その手があった。

 よし…、私もチャンスがあれば、玲奈に倣ってやってみよう。

 海桜を石化から解いた時みたいに、メデューサにプラグを挿して魔力を奪い取る。

 そうすれば、前衛の海桜達が少しでも戦いやすくなるはず……!

 

 辺りを照らす光が無くなり、暗転する。


 「今だ……!」


 そう思って飛び出した。前方には前衛組も飛び出している。視界には映らないけれどおそらく玲奈も飛び出しているはずだ。


 飛び出て1秒も経たずに、メデューサを視界の中に捉える。

 これまでの観測による予想ではメデューサは一歩も動かずにじっとしているはずだった。

 でも、違った。メデューサは前衛組の間隙をすり抜けて真っすぐこちらに接近していた。


 急な行動の変化に驚いた。けど、私なら大丈夫だ。

 こっちに来ても、充電器の能力で逃げ切れる。

 いや…、もしかすると玲奈の方に行くかもしれない。玲奈は中衛だからそれなりに魔獣の攻撃を回避することはできる。だけど、相手は四魔だ。玲奈ではメデューサの攻撃を回避することができないかもしれない。私みたいに高速で移動する手段を持ってるならまだしも、玲奈の場合はやっぱり難しいだろう。

 メデューサが玲奈の方に行くなら助けに行けるのは自分しかいない。その場合、私は助けに行く。


 でも、どっちだ。メデューサは私それとも玲奈、どっちの方に来るんだ。


 私の方、玲奈の方、どちらに来ても対応できるように充電器を準備する。


 さあ、どっちだ……!


 接近するメデューサの行動に集中し、行動のタイミングを見極める。

 

 だが、私の思惑をよそにメデューサは私と玲奈の間の広い空間を通過していった。


「……えっ」


 私は自分の後方にいる人物が標的だとは夢にも思わなかった。

 自分よりも圧倒的に近接攻撃に弱い者でありながら、この戦場で最も重要な役割を果たす人物。

 メデューサがその人物を狙わない理由はなかった。のに、私たちはそのことに気が付かなかった。

 決まったパターンでしか動かなかったのも全ては私達の隙を誘うためだったんだ。



 メデューサは標的へ襲い掛かる。

 狙われたのは紡希でもなく、玲奈でもなく、近距離に攻撃手段を持たない梨乃。


 遠距離戦では無類の強さを見せる弓も接近されては武器を持たぬと同義。梨乃になす術はなくなる。

 その事態を回避するため、メデューサの攻撃範囲に入る前に、迎撃せんと梨乃は弓を構える。

 だが、メデューサの移動速度は速かった。


 矢が放たれる前にすでにメデューサは頭部の蛇の咬合攻撃の範囲に入っている。

 梨乃はとっさの反応で絞った弓を解除しつつ撤退に転じる。

 そして、三歩後方に退いて咬合攻撃を躱すも、梨乃は体のバランスを崩す。

 そこへもう一度蛇の大群が口内を見せて迫りくる。

 梨乃はバランスを崩したままでは体の重心移動がうまくいかず、後ろへ下がれない。

 バランスを取りなおそうにも、時間が足りない。

 だから、梨乃はしゃがんで避けようとした。

 ただし、しゃがんだだけでは到底避けられない。

 そのことも梨乃はわかっている。

 勢いに乗って噛みついてくる蛇の大群を矢で勢いの方向をそらして受け流した。

 ある蛇の頭は矢じりに当たって千切れ、他の多くの蛇の頭は獲物噛むことなく宙に食らいついた。


 しかし、まだメデューサの攻撃は止んだわけではない。

 逸らされた蛇の頭を再度、梨乃に向かわせた。

 ここで梨乃にとって最悪なことにしゃがんで避けた後につながる次の行動がとれなかった。

 なぜならバランスの崩している状態でしゃがめば、さらにバランスを崩してしまう行動になってしまうからである。

 つまり、しゃがむことは次にとれる行動を全て無くしてしまう最悪の悪手だったということだ。


 メデューサが標的を決めて梨乃に襲い掛かった瞬間に梨乃の救援に向かった前衛組も程よい距離感で戦況を見ていた中衛組も誰一人として、間に合わない位置にいた。


──万事休すですわ


 梨乃はそう思った。

 絶体絶命の状況で、そう思うのも無理はない。


 梨乃は無数の赤黒い口腔で視界が残酷な赤黒く覆い尽くされた時、心の中で母のことを思い出した。もうこの世には居ない母の優しい抱擁で静かに眠る、情景が頭の中に投影されて、心地よい感覚に落ちた。だが、その没入感は一瞬のうちに現実の現在の情景に差し替えられる。

 絶望した梨乃の頭の中では、ここから生きて帰る術を見つける思考力すら廃され、ただその時を受け入れようとした。


 しかし、梨乃の前に人影が移動したと思えば、それはメデューサの咬合を受け止めた。


「間に合いましたね。梨乃さん」


 梨乃は驚きのあまり、目を見開いた。


「あ、貴方は……、花音さん!」


 梨乃の視線の先には、援軍に来た花音の姿があった。

 そのことに驚き混乱した梨乃は何を思ったか、素っ頓狂な質問を口にする。


「紗織さんとは会えましたの…?」


 返答はない。


 梨乃は質問を誤ったと思った。

 そもそも、ここで質問をすること自体間違えていることなのだが。


「……いいえ、すでにもう手遅れでした。」


 メデューサの攻撃に耐える花音は悲しさが漏れ混じった声で返す。

 梨乃は花音に何と返したらいいかわからなくなり、無言という最も駄目な返し方しかできない。


「でも、もういいんです!」


 言い切ると、花音は豪快にメデューサをはねのけた。


「一度、退却しましょう」


花音は梨乃の手を取る。


「ええ……」


 花音は梨乃の返答を聞いてすぐ、後方に走る。

 やり取りも見ていた紡希らもそれに従い、地上へ行く階段手前まで退いた。



「花音さん」


 階段手前の空間に着くなり、梨乃は花音に向き直る。


「危ない所を助けていただき、心よりの感謝を申し上げます。そして、貴方のことを考えない発言をしたこと、お許しください。せっかく命を救ってくださったのに……、わたくしは……」


 後から到着した紡希らの表情が曇る。


「梨乃さん、そんなに気を使わなくても大丈夫です。ほら皆さんも、辛気臭い顔しないでください。もう一度言いますが、紗織のことはもう諦めました。だって、どんなに想ったって紗織とはもう会えないんですから。

 いえ、やっぱり絶対にではないですね。死んだ後になら会えるかもしれません。でも、生きている間にはもう会えない。会えるのは今を生きている人だけ」


 花音は少し悲しそうな顔をする。

 しかし、すぐに表情の曇りを隠すため、ニッと笑って誤魔化した。


「そこで私考えたんです。今を生きている人に会って話をして仲良くなりたいって。すでに知り合っている人達だけではなく知らない人とでも仲良くなりたいって。ここからが私の初めの第一歩なんです。

 記念すべき初めの第一歩は、あなた方と仲良くなりたい。そのために、私は一緒に戦います。仲良くなった人や今後仲良くなる予定の人達を守るために」


「ありがとうございます。花音さんが参戦してくださるなら百人力です。」


 玲奈は付け加えて「そうですよね」と梨乃に話を振る。


「そうですわね。貴方には感謝してもしきれないほどですわ……」


「こちらこそ感謝しきれないほどのことを皆さんにしていただきました。

 これはその分の恩返しみたいなものです。ですから、感謝の言葉なんて不要ですよ。

 さあ、戦いの作戦を考えましょう。私のこと、思うように使ってください」


間髪入れず蒼が元気よく手を挙げる。


「花音のいう通り、早く作戦会議しよーよ!じっとしてても意味ないし、早くメデューサ(あいつ)倒したいもん!」


「そうだね。私も二人と同じ意見だよ」


!!


 いつの間にか、絆がいた。

 考えてみれば、花音がここにいるから絆もいるのは当然なのだが、あまりにも突然現れたから驚いた。


 玲奈はオホンと咳払いをする。いつも会議前にやっているアレだ。


「では、再戦のための作戦会議を行いましょう。何か意見がある人はいますか?」


 玲奈の質問にも誰も答えず、皆が無言。


 現状、メデューサを討伐することに行き詰まっているから当然だ。

 わかっていれば、さっきの戦いの中でやってるもん。


 「……意見がある人はいないんですね。では、どうしましょうか」


 皆が頭を抱えて考えている。しかし、花音が低く手を上げた。


「あの~、私に作戦があります」


 花音は恐る恐ると言った様子で話し始める。


「あ、作戦と言っても確実なものじゃないんですけど……、私の鏡でメデューサの光線を跳ね返せないかと思うんです」


 花音の作戦で賛成意見がわっと湧き上がる。

「なるほど……! 逆にメデューサを石化させてしまえばいいってことか!」

「ずいぶんと可能性のある作戦ですわね。その作戦に乗りましたわ」

「蒼も賛成!」


 絆も小刻みにうなずいていて、もちろん私も大賛成だ。

 出来上がった作戦に沸き立つ中、玲奈が手を上げる。


「私もおおむね賛成なのですが…、最初の一回目でやりきらないと、作戦が成功しない可能性もあると思うんです。

 メデューサは不利と悟ると距離を取って状況をリセットさせたり、非常に硬い立ち回りをしています。そのため、石化光線を反射できたとして、ここで確実に当てられなければ、石化光線の使用を避けるのではないですか。」


 玲奈の意見は的確だ。確かに、外せば二度目はない。


「その場合は大丈夫です。石化光線を使えなくさせるだけで、こちらが距離をとらざるを得ない状況が少なくなると思います。ですので、メリットはあると思います。」


 絆があっ、と何かを思い出したように言葉を漏らす。


「そういえば、花音さんの移動速度が少々遅いのもネックだね。」

「鏡は重いですからね…」

「おっしゃる通り、ある程度素早くなくては光線をうまく返せる位置にはたどり着けませんわ。

 したがいまして、花音さんの移動能力を増強できるような方法が欲しい所ですわね……」


 梨乃は横目でちらっとこちらを見る。

 その一瞬の視線に気づいた。

 たぶんその意味は、ここが私の番ってことだ。


「じゃ、じゃあ。私の充電器の伸縮能力を使うのはどうかな?」


 梨乃はよく気が付いてくれた、とでも言いたげな目をする。


「では、紡希にお願いすることとしましょう」


 と言った玲奈は続けて会議で決まったことの結論を出す。


「会議の結果、作戦内容は、花音さんがメデューサの光線を鏡で打ち返す。そして、そこまでの移動は紡希が担う。以上になります。準備はよろしいですか…?」


 玲奈が全員の顔を見て確認する。


「それでは、再戦と行きましょう」


 再び担う大役に責任感を感じつつ、私は戦場に戻った。

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