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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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自分にできること……………………44mg

 玲奈から作戦の概要を聞いた。

 それによれば、私の能力で海桜の石化を解くことができるという。

 私は「それは本当なのか」と疑問に思った。

 なんせ自分にはできることが限りなく少ないのだ。

 そのことを伝えても、玲奈は「紡希ならできる」と言う。

 さらに「やってみてから言って」とも言う。

 確かに玲奈の言うとおりだ。

 いう通りだが、やはり自分にはできなそうだと思ってしまう。


 だけど、海桜のためにできることならなんでもやってみたい。

 たとえできないことでも。


「それでは作戦開始です」


 玲奈の掛け声とともに私は充電器を取り出し、プラグ側を海桜に、端子側を地面に突き挿す。

 すると、海桜の石像がネオンイエローに光り始めた。

 その光がだんだんと充電器に集められていき、プラグから光りはじめ、それがだんだん端子側に波及し、やがて地面を光らせる。

 その光の流れとともに、魔力の流れが地面のコンクリートへと伝わっていく感覚があった。


──おお、案外簡単だ。


 玲奈のいう通りに自分でもできた。

 これで海桜を早く助けられる。

 やってみて、よかった。


「すいません、紡希。こっちはうまくいかないようです」


 石像の反対側で採魔をしていた玲奈が謝ってきた。

 そちらの方を見てみると、どうやら針が石像に刺さらないようだ。

 玲奈はもう一度、針を石像に突き立てる。が、やはり、その表面で弾かれる。


「だめです。やっぱり刺さりません」


 玲奈は独り言のようにつぶやいて、強く口を結ぶ。

 だが、それもすぐやめ、考え込む。少しして、考えがまとまったのか、口を開く。


「紡希、石化解除の方全部任せてもいいですか?」


 玲奈の口から出たのは可否を問う言葉だった。

 たぶん私が石化解除することに関して絶対にすべて一人でやっていけるという玲奈の確信が背景にあるのだろう。

 それにもかかわらず、今回玲奈は「〇〇して」というような指令ではなく、あえて可否を尋ねるような形で発言した。私の意思で決定できるように。

 または責任の重大な役目を無理矢理押し付けまいと考えているのかもしれない。

 色々考えてもその言葉の真意は確実にはわからないが、これだけはわかる。


 玲奈は私を信頼してくれているということだ。


 つまり、それは私のことを足手まといではなくちゃんとした仲間だと思っていることを意味する。


『仲間からの信頼には行動で応える』


 急にこのセリフが天啓のように舞い降りた。

 どこで聞いたのかは忘れてしまったが、確か前にやってた青春スポーツドラマのものだったか。

 その時はテレビの中でしかまともに使われていないという現実ではイタいセリフも今はその通りだと感じる。


 行動で応えるためにはどうする?


 その答えはもう決まっている。


「うん。任せて」


 私の返答を聞いた玲奈は微笑んだ。


「とても頼もしいです。私は梨乃たちに加勢してきます。ので、海桜のこと任せました」


 そう言うと、玲奈は蒼たちがメデューサと戦っている方へ行ってしまった。


 ここからが私の腕の見せ所だ──。


 向こうへ行く玲奈の姿を見ながら、私は強くそう思った。


 手元の充電器を見る。

 いまだ海桜の石像から出た光を地面に伝えている。

 石像に残る石化の魔力が少しずつ減っていく感覚があるが、まだまだ時間はかかりそうだ。

 このままだと、戦っている皆がもたないかもしれない。

 もっと早く効率的に魔力を移動させることはできないだろうか。


 私は使える限り最大の脳のリソースを割いて、思考する。

 今までの経験や思い付きの中から探るも、なかなかいいアイデアが浮かび上がらない。


「……ダメだ。いい案が思いつかない」


 二人でやれればきっと早かったんだろうけど……、玲奈はできなかった。

 そして私以外に魔力移動ができる人間はいない。

 だから、二人でやるなんてことはできない。


「二人でやれば、か──」


 つぶやく。そして、発した言葉がダイレクトに耳へ流れ込んできて、頭の中で自然に反芻させられる。何度も自らが発した言葉の意味を問ううち、解決の糸口になりうるものを見出す。


「……そうだ。そうだよ。もっと単純に物事を考えればいい。一人しかいなくて、充電器が一つで足りないなら、もう一つ使えばいいんだ」

 

 問題は、もう一つ出せることができるのかなんだけど……、とにかくやってみよう。


「手の上に充電器があることを強くイメージして……」


 頭の中では、海桜と始めて出会った時のことが思い起こされる。

 大きい蜘蛛みたいな魔獣に何もできず逃げ回るだけしかできなかった私を助けてくれた海桜の後姿。

 それはまるで桜のような美しさを持っていて、今でも忘れられない光景だった。

 海桜は魔獣との戦い方を知らない私に優しく教えてくれた。

 おかげで、武器の出し方、今では意識しなくてもスムーズに出し入れできるようになった。

 だから、教えてもらったことを存分に生かして、今度は私が海桜を助けるんだ。


 手のひらの上に、充電器が徐々に形成され始める。 

 それと同時に重みも感じ始める。この感覚は今までにも何度も感じてきた。

 目をつぶり、徐々に増える重みを感じながらその時を待つ。


「──よし、できた…!」


 紡希の手のひらの上にはもう一つの充電器が乗せられている。

 そのプラグと端子を別々の手でつかみ、一方は石像、もう一方は地面に差し込む。

 またプラグが発光し、その光が充電器を通して地面へと伝っていく。

 石化の魔力が移動する感覚は強くなって、みるみるうちに地面へと石化の魔力が排出されている。

 石像に目を向けると、表面に細かいヒビが見え始めていた。

 おそらく海桜に残る石化の魔力はもうほとんど残っていない。

 あと少し。もう少しだ。


 無機質な灰色がだんだん崩れていき明るい色がその隙間から見え始めた。

 海桜の魔法少女衣装の紺色がはっきりしてくる。


 突然黄色の蛍光がプツっと消えた。かと思えば、海桜の服が揺れた。

 色鮮やかになった海桜の体は、支えていたスタンドが突然無くなった人形のように無抵抗に前に倒れかかる。

 しかし、無意識下で出された足が地面を掴む。


「うわっと…!」


 海桜は踏み出した足を見つめている。何がどうなったのかがまったくわからない、と言った様子だ。


「あれ?私生きて…」


 海桜の声を聴いた瞬間、いろいろな思いがあふれ出した。嬉しい思い、申し訳ない思い、寂しかった思い、そんな思いそれぞれが混じり合ってこんがらがってよくわからなったけれど、体は動きだした。

 こうすると最初から決めていたわけでもないのに、自然とその行動に誘われる。

 目から熱いものがこぼれ出そうな感覚がある。


「海桜…! 海桜…! 本当に、本当によかった…」


 海桜の体に飛びつくように抱き着く。


「え。ちょ紡希。」


 海桜は突然のことに驚き戸惑う。でも、私はそんなことは今は気にしてられない。もう自分のことで精いっぱいだから。この涙を抑えるので必死だから。帰ってきた海桜に泣き顔なんて見せたくないから。

 私は顔を崩さないように笑顔を無理やり作る。


「よかった……。よかった……」


 でも、どうしてかな。笑顔を作ろうにもできる前に絶対崩れてしまう。

 目をつぶってこぼれそうになる物をせき止めようとする。だけど、もうこらえきれない。

 私はこぼれ落ちる涙で海桜の胸元を濡らした。


「──ありがとう、紡希」


 海桜に頭を優しくなでられる。そして、取り出したハンカチで涙をぬぐってくれた。

 その手には海桜の温かみがあった。手から伝わる体温はここに海桜がいるっていう海桜の存在を感じ取れる。

 それが嬉しくて、ただ嬉しくって。また涙がこぼれ落ちてしまう。


「泣くのはそれぐらいにしておこ? 私達にはまだやることがあるでしょう」


 ……そうだった。


 海桜から離れて、袖で涙をぬぐう。


 忘れていた。

 私たちはまだメデューサを倒していない。

 まだ玲奈たちが私たちの到着を待っている……。

 役目はここで終わったわけじゃない。まだまだやらなきゃいけないことがあるんだ。


「海桜、メデューサを倒しに行こう」


 手を差し出す。

 海桜はその手を強く握る。


「もちろん」


 私も握り返す、もう離れてしまわぬように。

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