ヒント…………………………………43mg
【海桜救助班──紡希、玲奈、蒼、梨乃】
「おりゃぁぁぁぁ!!!!!!」
蒼が先走る。
カッターナイフの向く先は、四魔の一角メデューサ。
焦っているのではない。
蒼は先手を取ることこそが勝利への近道だと思っている。
つまり、勝つためには先手必勝こそが絶対なのだ。
蒼は確実に勝つため、海桜の救出を確実に成功させるためにメデューサの行動の一歩先を行く。
「蒼! 一度退いてくださいませ!」
梨乃が声をあげる。
しかし、蒼は止まらない。
「嫌だ! 絶対ここで決める!!」
「違いますわ! まず海桜を元に戻す方法を探る必要があるからですわ!
メデューサを倒してからじゃ遅いかもしれませんの!」
「え…!うおっとっとっと……」
蒼は慌てて脚に急ブレーキをかけた。
「セーフ!」
そして、こちらを向いて手を水平に広げてセーフのポーズをとる。
敵の前だというのに。
「危ないです!前見て!前!」
その不用心ぶりを見た玲奈がおもわず叫ぶ。
「え? 前?… うわっ!」
蒼が振り向いた先のメデューサはすでに攻撃モーションに入っている。
後ろに跳ぼうにも時間がなく、必ず噛みつかれてしまうだろう。
どうやっても、もう避けようがない。
「ちょ、ちょっと。ちょっと待って!!──」
「「蒼ー!」」
梨乃と玲奈の悲鳴に近いような叫びが響く。
メデューサの髪から伸びた蛇の大群はもうすでに蒼の眼前まで迫っている。
その蛇の大群が一斉に蒼に噛みつかんとした。
その時、蒼の腕に黒いひも状のものが絡みついた。
かと思えば、蒼の体は勢いよく後ろに引き込まれていく。
そして、蛇の大群はすでに蒼が脱した後の虚空に食らいついた。
──間一髪!
蒼は腕を引っ張られながら、そう思った。
十メートルほど引っ張られると、その勢いは急にスンっと消え、蒼は壁にぶつかった。
「いてっ」と言いつつ蒼は自分の腕を確認する。
腕に絡みついていたもの、それは黒い充電器のコードだった。
──充電器のコードと言えば……
充電器のコードと言えば、紡希だ。
つまり、紡希が助けてくれたんだ。
蒼はそう考えた。
「ごめん。大丈夫だった?」
紡希は申し訳なさそうな顔をして蒼を心配する。
それに対し、蒼はにかっとした満面の笑顔である。
「ありがとう! 紡希! お前もやるな!」
一方、紡希は感謝されて驚いた。
と、その前の自分の行動にも驚いた。
紡希は自らを悩みに悩んだ末、結局行動するタイミングを逃してしまう人間だと評していたからだ。
──なんでだろう。考える前に体が動いた。
紡希は深く考えた。
自分が即座に行動できた理由を。
なぜ今までそれができなかったかの理由を。
とはいえど、考えてもやはり理由はわからない。
ただこの出来事が自分の中に揺るぎない一つの信念を打ち立てるためのヒントになるような気がして、考えることをやめたくなかった。
紡希が思考する中、戦況は動く。
蒼が無事なことを確認するとすぐにメデューサの動きを観察していた梨乃が、奴の目が赤く光りかけているのを視認した。
──目が光ったということは……、これが事前に聞いていた石化光線ですわね……!
「光線が来ますわ! 柱に隠れてくださいまし!」
梨乃は大声で叫んで注意を促す。
「だってさ、隠れるぞ!」
「うん。」
紡希はそう返答し、柱の陰に隠れた。
…
「流石に隙は無いですね。どう倒せばいいか…。
それにまだ海桜の石化を解く方法がわからないですし…。」
玲奈は柱の陰からメデューサを注視しながら、誰かに言うかのようにつぶやいた。
それを梨乃は静かに聞いている。
──もっとも懸念すべきは海桜の方。メデューサの方は倒せばいいという目標がある以上幾分かはましですわ。
梨乃は心の中でそう突っ込みつつ、海桜の方を見る。
現在、海桜の石像はメデューサの背後にある。
海桜の姿を見るに、表面は全て石のようにしか見えない状態である。
それが内部までそのような状態なのか、表面だけの話なのかが分からない。
もし後者ならば、表面だけを何か道具を使ってこじ開ければ救出ができるだろう。
そして、石化を解くことに関してメデューサを倒しても問題はないことになる、はずだ。
だが、問題は前者だ。
前者の場合だと、内部まで全て石になっているため、表面だけを破壊することによって救助することは不可能だ。
いや、不可能どころか事態はさらに悪化するだろう。
もどせないどころか別のなんらか方法で石化を解くことができたとしても海桜が血だらけになってしまうからだ。
その方法で救助できないとなると、メデューサのある特定の行動を引き出すことによって石化を解除するしかないのか…?
しかし、メデューサ自身も石化を解除する方法を持ち合わせていない可能性だってある。
その場合のことを考えると、いろいろなことを試さないといけない。
試しながら戦うことは普通に戦うことよりも圧倒的に危険のある行為だ。
まして、相手は四魔だ。危険度なんて計り知れない。
でも、海桜は大切な仲間だ。桃香のように絶対に失いたくはない。
だから、強大な危険性のある行為が自分自身に降りかかることなんて覚悟の上だ。
たとえ自分が死んだとしても、必ず海桜を石化から解き、皆を生還させる。
もう誰も失いたくない。というこの一心で。
とはいえ、海桜救助のための方法のめどが全く立っていない。
なんとか問題解決の糸口を見つけなくては。
この戦いの方針がバシッと決まる、そんな糸口を。
「梨乃、この先どうします?」
玲奈が尋ねる。
「そうですわね……。やはりメデューサをどうこうするよりも、まずは海桜を助けたいですわ。」
玲奈は梨乃の言葉に頷く。
「私も同感です。早く助けだしてあげたいという気持ちもありますし、海桜の方を優先すべきと思います。」
「だから…といっても……、どうしたら石化を解けるのか不鮮明な所ですわね……。
今はとにかく試して、解決法を探るほかないのでしょう…。」
「そう、ですね……。あと、そもそも何か試すことも決まってないですね。その辺は何か案はありますか?」
玲奈の疑問に梨乃は少し間を開けて答える。
まとまっていないことを話すことに少し抵抗があったからだ。
「現状、わたくしは海桜の石化が表面だけのものだったら表面を削り取ってしまうのがよろしいかと考えていますわ。
うまくいけばそれはそれでいいのですが……、ただ…失敗すれば、取り返しのつかないことになりますの。
どうでしょう、玲奈。」
帰ってきた質問に玲奈はすぐに答える。
「私はまだやるべきではないと思います。成功するかどうかわかりませんし、失敗のリスクが大きすぎます。」
「…ですわね。」
「かといって、私からは何か良いアイデアを提供できるわけではありませんが……。
いえ、一つだけ……」
玲奈は人差し指を立てる。
「一つだけ案がありました。」
「それは……?」
「採魔です。」
「採魔? 魔力の吸収をするんですの? それをメデューサに対して使ったって意味がないのじゃないかしら?」
「はい。もちろんメデューサに対して使うのではありません。
海桜に対して使います。
石化した海桜に対して採魔することで石化を解除できると思われます。」
「なるほど。では、その仕組みに教えてくださる?」
「分かりました。説明する前にこれはあくまで推測であるということだけ念頭に置いておいてください。
まずメデューサの石化光線の仕組みについて考えてみます。
石化光線はその名前の通り対象を石化させるという能力を持っています。
この石化させる能力のエネルギー源はおそらくメデューサの魔力からでしょう。
魔力を光エネルギーに変換した光線に魔力を変換して能力を付与している形になります。
身近な例をあげますと、私の痺れ薬みたいなものですね。
私の痺れ薬も同様に魔力を返還して能力を付与しています。
ただし、この時魔力は変換させたとはいえ魔力と性質を持っているので、採魔することが可能です。
だから、能力の効果が持続している時、まだそこに残る魔力を吸い取ってしまえば、効果をなかったことにすることができます。
これを石化の能力に応用してみるとどうでしょうか。
仕組みがかなり似ているので、私は成功すると思っています。」
黙って聞いていた梨乃が口を開く。
「なるほど。かなり可能性のある提案ですわね。しかし、あなたの注射器には吸収できる魔力の量に限界があるのではなくて? それにもしできたとしても、時間が掛かりすぎますわ。」
「その辺りは数をこなせば大丈夫です。時間の方に関しては"紡希"に手伝ってもらいます。」
「紡希ですの?」
「えぇ。そうです。
現在まで紡希は自分から他者への魔力移動しかしたことがないようですが、できることはそれだけでなく他者から自分や、他者から他者への魔力の移動もできるはずです。
ただ、これは推測に過ぎないですから、本当にできるのかは疑問ですが、紡希ならきっとやってくれるでしょう。」
「わかりましたわ。今からその推測を軸に行動します。
わたくしと蒼で時間を稼ぎますわ。玲奈は紡希と海桜救出に専念してくださる? そして、紡希への説明をお願いしますの。」
「了解です」
その返答を聞き取ると、梨乃は動き始める。
「では、頼みましたわ。」
「そちらも。」
梨乃が弓を構えるのとほぼ同時に柱の陰から飛び出ると、玲奈は海桜の方へと向かう。
「蒼!ここで時間を稼ぎますわ!」
「了解!」
オーダーを聞いた蒼は飛び出て、メデューサの方へ向かう。
「紡希!海桜を助けますよ!来てください!」
「え? 私?」
「あなたの力が必要なんです!」
「わかった…!」
紡希も立ち上がり、海桜の方へ向かった。




