悪夢は続くよどこまでも……………41mg
「海桜が…、石にされた…!」
突然にして飛び込んだ情報に一瞬にしてその場が凍り付いた。
あまりにも突然でそして非現実的すぎて誰の心にも実感が湧かない。
しかし、紡希の様相でそれがまぎれもない事実だと物語っている。
誰もが驚きで声が出ない。
そんな中、絆が最初に口を開く。
「え……、なんて…? 聞き間違いかな? 海桜ちゃんが石にされたって聞こえたけど……」
紡希は何も言わない。口をつぐんで黙ったまま、顔を伏せる。
垣間見える表情は暗く影を落としている。
「聞き間違いじゃ、ない」
紡希の様子を察した絆は愕然とした。
沈黙した絆の代わりに冷静さを欠いた梨乃が問い詰める。
「一体、どういうことですの!?
石って……。まさか二人だけでメデューサに挑んだのではなくって!?
海桜は今どこにいらっしゃるのですの?」
紡希は押し黙ったまま、何も言わない。
「答えなさい! 海桜は今どこですの!?」
それでも紡希は答えない。いや、答えられない。
紡希は伝えようとはすれど、声が震えてうまくしゃべれず、どんどん息が荒くなっている。
「何とか言ったらどうなんですの!?」
返答が聞けないことに堪えかねた梨乃が紡希の胸倉を掴んで乱暴に揺らし怒鳴る。
「早く答えなさい!! 早く! 早く!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
ようやく口を開いたかと思えば、紡希は消え入りそうな声で謝るばかりで、それがさらに梨乃を怒らせる原因になった。
「この!! 早く、はやく答えろよ!!」
梨乃は語気を荒げて、鬼の形相で怒り狂う。
「一度落ち着いてください、梨乃!」
玲奈が冷静さを失った梨乃を一喝する。
対して梨乃はムスッとして言い返す。
「これが落ち着いていられましょうか!早く海桜を助けに行かなければ大変なことになるでしょうに。
今は一刻も早く紡希から海桜の居場所を聞かなければなりませんわ」
「だからこそですよ。
紡希を怒鳴り上げて問い詰めるよりも双方とも落ち着いて事情を聞く方が何倍も早く救助に行けるにきまってるじゃないですか。
第一、いつもの梨乃らしくないですよ。いつものように冷静な梨乃は何処に行ったのですか。
このような時だからこそ冷静さが必要なのですよ。」
「………そうですわね。少し焦っていたかもしれませんわ。」
「分かればいいのです。」
梨乃を諭した玲奈は紡希の方に向く。
「紡希、今何が起こっているのかゆっくりでいいので話せますか?」
紡希は玲奈の問いかけにこくっと頷く。
たどたどしくとぎれとぎれながらも紡希は事情をしゃべる。
「わたしは……、優柔不断で…弱い私…が嫌だった。
自分を成長させたくて……、メデューサに挑んだ。別に……、死んでもいいや……って。
思った通り……、メデューサは強くて……、敵わなかった。
でも……、もうダメだ……って時……、海桜が助けてくれた。
それが、心強くって……、絶対倒せる…って思った。
でも……、そのあとすぐに……、海桜は……、海桜は……、私をかばって……光に当たっちゃって……石になった……。」
黙って聞いていた玲奈は口を開く。
「なるほど、事情は分かりました。
場所はトンネルの奥の廃ホテルですよね。
早急に向かいましょう。海桜を助けに。」
そう言うと、玲奈はドアの方へ歩き出し、他の皆もそれに従った。
「紡希、よく話してくれましたね。
でも、悩み事があるときは一人で抱えないで私たちに相談してください。
私たちはチームですから。
だから、一人でメデューサと戦う必要はなかったのですよ。」
玲奈は紡希の頭をやさしく撫でた。
…
一行は死神と戦闘したトンネル前まで来ていた。
ここで絆・花音の紗織捜索班と紡希・玲奈・蒼・梨乃の海桜救助班で別れる。
どちらも緊急性が高いため、ここに来る道中そう決めた。
海桜救助班の方が多いのは魔獣と戦闘するための要員を確保しなければならないからで、一方の紗織捜索班に絆が振り分けられたのは、もしも死神や魔獣と遭遇した場合、柔軟な行動をとれる人物が必要だったため、武器の性能に柔軟さを持ち合わせている絆が適任だったからである。
「じゃあ、手筈通り私たちは紗織さんの捜索をするよ。
皆は海桜ちゃんを助けに行ってて。
紗織さんを見つけた後からすぐに合流するからね。」
「分かりました。そちらは絆に頼みました。」
「うん」
玲奈と絆は行動開始前の言葉を交わす。
お互いの心の中には紗織の捜索、海桜の救助とそれぞれ別の目標を持っている。
しかし、両方とも絶対に作戦成功させるという固い意志を持っている。
「……玲奈ちゃん、敵は四魔の内の一体だよ。気を付けてね」
「絆こそ、そちらも用心してください。鎌の魔法少女の強襲があるかもしれないですから。
では、また後程。健闘を祈ります。」
「うん、また後で。」
二人は挨拶をかわし、それぞれの目的地へと進んでいった。
…
【海桜救助班──紡希・玲奈・蒼・梨乃】
──また戻ってきた。
紡希の前に見えるのは西洋風の古城。
先ほど海桜を置いて逃げ帰ってきたところだ。
事情と共に気持ちを吐露したことで幾分かましになったが、結局は何も果たせない無力な自分に対して嫌に思う気持ちや紡希をかばって石化してしまった海桜に対する申し訳なさ、を含めた膨大なマイナスな感情は依然として紡希の中に存在していた。
その中に恐れという感情もある。
なんせ自らを死の一歩手前まで追い込んだメデューサにその日のうちにもう一度会って戦うというのだ。
しかも、海桜が救援に来る前と後で実質二度も負けているようなものだ。
今度も負けるのではないかという気持ちが増幅して、その敷居をまたぐのがはばかられる。
しかし、ここで逃げれば、まだ助かる見込みがあるかもしれない海桜を見殺しにする行為であって、それだけは──海桜が死ぬということだけは絶対に避けたいという気持ちも紡希は抱えている。
そのため、紡希は恐れを押し殺しつつ、玲奈たちの後ろから城内に入っていく。
室内に入ると少し狭めのロビーが最初に現れた。
紡希にとっては一度通った道であるが、他のメンバーにとっては知らない場所だ。
そのため、慎重に周囲を警戒しつつ内部へ侵入していく。
入口の左手には上に続く階段が横から見える。
が、魔獣が出現するのは二階ではない。地下一階だ。
入口から死角になって見えなかった下へ続く階段こそが目的地に続く道である。
先陣を切って古城に入った蒼は早速下への階段を見つける。
「あったぞ! 紡希が言ってた階段。」
と、言って蒼は下へ続く階段を指さす。
「海桜がいるのはたしかこの先……だったよな」
「うん…この下」
蒼の質問に紡希が消え去りそうなか細い声で答える。
対して、蒼は紡希の返事を聞くと「なら早く行かなくちゃな!」と言って紡希の手を握り、先陣切って階段を駆け下りた。
「え? ちょ、ちょっと……、え? えぇ?」
蒼に引かれるままに階段を下りる紡希は戸惑いの声をあげる。
しかし、蒼はそんなことを気にも留めずに駆け下りる。
「ちょっと! 待ちなさい! 蒼!」
玲奈の制止も受けるが、それだけでは蒼は止まらない。
「早くいかないと、海桜があぶないかもだもん」
蒼は言い訳をコンクリート壁に反響させて玲奈に伝える。
玲奈はその言い訳を反響した回数分だけ階段の上で受け取る。
──海桜が心配なのはわかりますが……。
「少しは慎重に進んでくださーい!」
玲奈は階段の下にいる蒼に伝えるために大声で叫ぶが、返事は帰ってこない。
「まったく、蒼ったら状況が見えているのか見えていないのか、どっちなのでしょうか………?
いや、あの様子だと十中八九見えていませんね。」
独り言にしては音量が大きすぎる愚痴をこぼしながら、玲奈はしぶしぶ蒼の後を追った。
…
長い廊下を二つの足音がひた走り、反響した音で何倍もの人数が走っているかのように錯覚させる。
足音の発生地点の一つは蒼で、もう一つは紡希だ。
先ほどまで蒼に手を引かれていた紡希は今はもう自力で走っている。
目の前の目標に集中し、恐れも気にならなくなっている。
長い廊下の先、広い空間に出ると、紡希の視界に二つのものが捉えられた。
一つは四魔の一角──メデューサ。そのもう一つが、
「海桜…!」
紡希が叫ぶ。
海桜は石になったまま動かない。
おそらく紡希の声も聞こえてはいない。
「いた! 海桜がいたぞ! ついでにメデューサも…いたぞ!」
蒼も叫ぶ。
蒼の声も海桜には聞こえていない。
だが、二人の声は玲奈や梨乃には聞こえていた。
声を聴いた玲奈と梨乃も少し遅れて到着する。
二人の視界にもメデューサの姿と石化した海桜の姿が映る。
「あれがメデューサですね。そして…、海桜…。あの様子では大丈夫かはわかりませんが、きっと何とかなるはず……、いいえ、何とかして見せます。」
その目で見た海桜の現状に不安を抱えながらも、玲奈は戦い、海桜を救うことを決意する。
「…では、戦闘指揮頼みました。」
「……」
梨乃から返事がない。
「あれ? 梨乃?」
「……ん?え。 あぁ! もちろんですわ。任せてくださいませ。」
梨乃はその手に弓を持ち、開戦の合図を出す。
「さぁ、気を引き締めて行きますわよ。海桜を取り戻す戦いへ!」
それぞれが己の武器を持ち、応える。
「おぉっ!」「はいっ!」「うんっ…」
四人の魔法少女たちは海桜の奪還に挑んだ。




