目覚めの魔法少女……………………40mg
少女は目を覚ました。
しかし、まだ冴えていない頭では何も考えられず、眠気に促されるままもう一度目を閉じ、
少女は二度寝しようとするも照明がまぶしすぎてできない。
腕で顔を隠し、言葉にならない鳴き声のような音を漏らす。
「う、ううん…」
布団の中に篭もり、もぞもぞ動く。
だが、気が付いた。
どうやら何かおかしいと。
照明をつけたまま寝た記憶がないのだ。
それどころか、部屋で寝た記憶もない。
少女は寝坊した時の目覚めのように突然動きが止まり、跳ね起きた。
少女の目の前に飛び込んできた景色は
まぶしいほど明るく照らす照明、
落ち着いた色のシンプルな壁紙、
自分に掛けられた布団。
それを見た少女は反射的に一言発する。
「ここは、どこ……?」
少女にとって無意識下でポロっと出た発言だ。
だが、言葉に出すことで、少女が今置かれている状況に気が付いた。
──今、どこか知らない場所にいる、と。
そのことを意識した時、少女は突然の状況に固まった。
なぜここにいるのか。
どうやってここまで来たのか。
考えても全く心当たりはなかった。
とりあえず冷静になろうとして、深呼吸する。
すーーっ………
はぁーー………
すーーっ………
はぁーー………
少女はなんとか心を落ち着かせることができた。
そして、頭の中では脳をフル稼働させ、意識を失う前のことを思い返す。
──たしか……。確か、私は………
………………………………………………………………………
意識を失う前、魔獣討伐に行こうとしていた。
紗織も一緒だった。
でも…、その道中、鎌を持った魔法少女に遭遇した。
紗織と一緒に奮戦したが、まったく敵わなかった。
だから、私たちは逃げた。
追いつかれないよう必死に。
必死に逃げた。
だけど、気が付けば紗織とはぐれていた。
自分一人になったと気が付いた途端、一気に不安が増した。
紗織の安否に対しても不安があったけど、その時はとにかく鎌の魔法少女から逃げ切ることしか考えていなかった。
一人の夜の森はとても長く感じた。
走っても走っても周りは暗闇だったからだ。
でも、ようやく遠くに明かりが見えた。
私はそこに向かってとにかく走って走った。
そうしたら舗装された道路に出てこれた。
私は張りつめた気が緩んだ思いだった。
「助かった。ここまでくれば大丈夫だ。」って安堵した。
でも、それは一時的なものに過ぎなかった。
背後で物音がして振り向いた時、振り切ったはずの鎌の魔法少女が立っていた。
恐怖で視界が歪んで「死」という文字が頭の中いっぱいに広がって、そこから先は覚えていない。
………………………………………………………………………
でも、いま私は何処か知らない場所だが、確かにここにいる……
──生きて、帰れた
少女は自然とそう思った。そして、生の実感をかみしめた。
思わず涙が出そうになるほどの思いだった。
「良かった。気が付いたのですね」
「ひゃっ!!」
少女は心臓が飛び出るくらい驚いた。
先ほどまで誰もいなかったはずの横の空間から突然声をかけられたのだ。
恐る恐る横を向くと、そこには赤い丸縁メガネをかけた少女がいた。
そっちも驚いた顔をしている。
「ええと、驚かせてすみません。」
そう言いながら、眼鏡の少女は片手で眼鏡の位置を直す。
「私はあなたと同じ魔法少女です。
あっ……、といっても取って食うようなことはしませんよ。
安心してください。
そして、ここは私たちの拠点のような場所なので、安全な所です。鎌の魔法少女に襲われる心配もありません。」
「そ、そうなんですね……。あ、ありがとう、ございます…」
「鎌の魔法少女に襲われていたようですが、どこか痛んだりしていませんか?」
「え、あ、はい。大丈夫、です…」
少女はそう言いながら腕をさする。
少し腕が痛んでいたが、あえて言わなかった。
この状況を何とか飲み込もうとするために、少女は部屋の中を見回す。
そこにはメガネの人のほかに和服姿の少女と、無邪気そうな少女、それに茶髪の少女が立っている。
しかし、いるべき人物が一人いない。
それは紗織だ。
いるべきというよりは、いてほしかったというほうがいいのか。
とにかく紗織の姿が見えない。
もしかしたら別の部屋にいてまだ目覚めていないだけかもしれないのだが……
二つ目のもしかしたらの可能性、マイナスの可能性を考えたら、どうも不安感が拭いきれない。
もしかすると紗織はこの人たちに助けられていないのかもしれない。
そんな事を考えてしまうと、もう止まらない。
マイナスな思考が加速する。
はぐれたのが山中だったから、私と別の場所に出てしまってこの人たちと出会わなかった?……
それとも、まだ山の中で彷徨っているのかもしれない……
はたまた……
紗織の居場所を考える少女の中に不安が強くなってくる。
「そういえば自己紹介を忘れていましたね。申し遅れました。私は橘玲奈です。そして─、」
「あ、あの!」
玲奈の自己紹介に少女は割って入る。
紗織がいない不安に耐えきれなくなったからだ。
「えっと、どうされました?」
玲奈は驚いた表情を見せる。
「あの… 私のほかにもう一人いませんでしたか?
紙をもっていた──、紙を武器にしていた魔法少女なんですが……」
「あなた以外のですか? …すいません。あの場にはあなたしかいませんでした。」
それを聞いた少女の頭の中には、紗織が暗い夜道の中で立っているというイメージが流れる。
そして、紗織の背後に死神が静かに立っている。
紗織は死神に気が付いていない。
大きく振りかぶられた鎌の刃は、紗織の首へ一直線に向かう。
──もしホントにそんなことになれば、私はきっと後悔する……。
少女は手にぐっと力を籠め、こぶしを握る。
──行かなくちゃ
そう思って反射的に立ち上がろうとする。
だが、視界が歪む。
ぐあんぐあんに世界が揺れ、渦巻くように世界が回る。
まだ立ってはいけないと脳が警告してくる。
それでも無理やりどうにか立とうとする。
「まだ動かないで。目が覚めてすぐだからまだ安静にしてた方がいいです。」
少女の行動を玲奈が諭した。
「でも、まだあそこに沙織がいたはずだから……、すぐにでも行かないと……」
少女は無理やり立ち上がろうとする。
めまいがしようとも関係ない、そう言わんばかりに。
「とりあえず今は落ち着いて。一回落ち着きましょう。」
玲奈は少女の肩を抑え、優しくなだめる。
「まず今の状況、情報を整理して、それからあなたのお友達の捜索に行きましょう。
何もまとまってない状況では危険ですからね。
自分たちまでも最悪な状況に陥ってしまっては元も子もないというのもありますし…
とにかく状況整理と情報共有が大事です。だから、一度落ち着いて話をしましょう」
玲奈の説得を聞いて、少女はしばらく考える。
結論が出て、ぽつりと言う。
「そう、かもしれません……。」
少女のその様子を見て玲奈がやさしくうなずく。
「では、互いが何ができるか確認するために、改めて自己紹介を。
私は玲奈。橘玲奈です。
ポジションは中衛。武器は注射器。自分の魔力を麻痺薬に変換して魔獣に打ち込むことが可能で、魔獣の魔力を吸収することもできます。
戦闘時の私の役目としては魔獣の体勢を崩し、自陣を有利に導くことが主です。
平時にはチームを取りまとめるリーダーを務めさせていただいてます。
以後、よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします……」
「そして、こちらが絆。」
そう言いながら、玲奈は茶髪の少女を手のひらで指す。
紹介された絆はペコと頭を下げた。
「五月女絆です。
私の武器は糸だけど、一つにまとめてロープとして運用できます。
できることは魔獣を拘束したり、あと直接攻撃すること。
ポジションは中衛、サポートするのが得意です。
よろしくね。」
そして、絆は少女の手を取る。
「お友達さんのこと心配だよね? 大丈夫、きっと無事だよ!
捜索は私たちも手伝うから、一緒に頑張ろう!」
「あ、ありがとうございます……」
続いて玲奈は無邪気そうな少女を雑に紹介する。
「そして、これが蒼。」
「これって言うな! 物みたいじゃんか!」
「蒼なら適当に扱うくらいがいいと思いましたので。」
「このー!」
少女はくすっと笑みをこぼした。
笑ったことによってかはわからないが、少女には不安が少し和らいだように思われた。
「蒼は蒼だ! よろしくな!」
「ちょっと、ポジションや武器のことも説明してください。」
「はいはい、説明しようとしてましたー。
武器はカッターナイフ。バッサバッサ魔獣をなぎ倒せるぞ!
ええっと、ポジション……、ポジションね。うん、ポジションポジション……
…それで、ポジションってなんだ?」
「…定位置のことですよ。」
「蒼は戦うときは前の方にいるぞ。」
「前衛ってことですね。」
「そう!ぜんえーぜんえー。蒼のポジションはぜんえーだ!」
蒼は自信満々にそう言うが、玲奈はやれやれといった表情をする。
「最後に梨乃です。」
紹介を受けると、和服姿の少女は優雅に礼をした。
その動作は洗練されて美しく思えるような物である。
「ご紹介にあずかりました。わたくし、瀬戸梨乃と申しますわ。
ポジションは後衛、武器は倭弓を使用しております。
戦の時においてわたくしが指揮官の役割に任じられていますの。
どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「では…、あなたの名前をお聞きしても?」
最後に少女の番が回ってきた。
「はい。ええっと、私の名前は花音、です。
武器は鏡。盾として使えます。でも、あまり応用は効かないかも…です。
あと一応……、友達の名前は紗織で、武器は紙です。
紗織は紙を自由自在に変化させることができるので、けっこう柔軟に戦えます。
あと…、とても正義感が強い性格で、率先して行動できるタイプです。
鎌の魔法少女と出会ったのが山の中だったから、きっとまだそこにいると思うんです。」
事情を聴いた玲奈は少し考えこんで、話し始めた。
「なるほど、今の状況はおおよそわかりました。
では、捜索の方法について決めます。
捜索の場所は道路から山の中に入ったところで、捜索範囲はそれなりに広いと思われます。
ですが、鎌の魔法少女に遭遇する可能性を考慮すると、何手にも分かれて捜索するのは危険なので、一つにまとまって捜索することとします。
役割はそれぞれ花音さんが案内を、蒼が周囲の警戒を、残りの私と梨乃は捜索に専念する、というように振り分けます。
蒼が先頭に立ってもらって、花音さんはその傍にいてください。
私たちは後ろからついていくというかたちになります。
魔獣もしくは鎌の魔法少女が出現した際には前衛が蒼と私、中衛が花音さんで後衛が梨乃。戦闘時、指揮は梨乃に任せます。
ここまでで何か修正すべき点はありますか? 無ければいまから出発しましょう。」
「………」
「ないようですね。では行きましょう」
紗織の捜索に行こうとした瞬間、ドアが騒がしく開いた。
会議室の外に出ることができる唯一のドアだ。
その場にいた全員が驚いてドアの方を一斉に見ると、紡希が立っている。
肩で息をしていて急いできた様子だ。
「あれ、体調は大丈夫なんですか? まだ体調が悪いなら、今日は帰っててもよかったのですが。」
驚きつつも、玲奈が紡希に話しかける。
ここで玲奈は紡希が海桜と一緒にいないことに気が付いた。
海桜が先ほど紡希を探しに外に出ていくのを玲奈は見ていたので、
紡希と海桜が一緒にいないことを不思議に思った。
「あ、そういえば海桜が急にあなたを探しに行ったんですよ。見当たらないですが、海桜とは会いましたか?」
紡希はぼろぼろと涙を流す。
「……み、……み、……海桜が、……海桜が、」
普通ではない紡希の様子を見て、その場にいる全員がようやく気が付いた。
尋常ではないことが起きている、と。
「どうしたんですか!? 紡希!! 海桜がどうしたのです!?」
と、玲奈は問い詰める。
紡希は声を絞り出してその問いに答えた。
「海桜が…、石にされた……!」




