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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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40/65

やっぱりここにいた…………………39mg

<紡希視点>


 自分を窮地に追い込むにはどうすればいいかを考えた結果、すぐに一つの方法が思い出される。

 それは、一人でメデューサと戦うこと。

 もともとはメデューサと戦う予定だったから居場所もわかっていたのだ。

 だから私がその考えを実行に移すまではそう長くはなかった。


 ぼろい舗装道路の上。カーブを曲がった私の前に突然西洋の古城が現れた。


 山陰に身を隠していた古城は日本の風景とは全く異なった異国情緒を感じさせる。

 まるでここが外国のように感じてしまう。

 だが、日本語で書かれた看板が目に映った。

 それによっておしくもここが外国であるという幻想は打ち砕かれた。


 そう、この建物は西洋の城を模しただけのものなのだ。


 近づいて建物をまじまじ見てみると、「おぉ」と感嘆の声が出た。

 三方が高い山に囲まれているため、最初は相対的に小さく見えたのだが、これが意外に大きかった。


 まずは手前の建物。

 両端にはそれぞれ一本ずつ塔が立ち、中央で門と一体になっている。

 その奥にはひときわ大きい建物が立つ。

 こちらにも塔が付属しており、さっきのものよりも太くて高い。

 いづれの建物も白で統一されている。

 暗くてよく見えないが、ところどころが汚れやツタで元々の白さを失っている気がする。

 おそらく建てた当時は白鳥を思わせるような白さで青空が映える建造物だったのだろう。

 これだけの建物が捨てられて放置されて、それで荒廃していく、というのは何となく物悲しい気がする。


 私は本来の目的を忘れ、散々廃墟の城に見入ってしまっていた。


 そうだ。

 私はメデューサを倒しに来たんだ。

 まずは出現条件を探さないと。


 改めて城を見た時、なぜかゾッとした。

 先ほどまでは物悲しいという感情があったのだが、今ではそれを感じるのがおかしいと思える。

 むしろ夜の暗い雰囲気に合わない城の城壁が不気味に感じる。

 いうなれば、そう、ゲームやアニメで見る魔王城のようだ。


 しかし、ここまで来てしまったからにはもう入るしかない。


 古城の中に私は恐る恐る足を踏み入れる。

 そうすれば、入っていくばくもしないうちに少し狭めの空間に出た。


 ──思ったより中は広くないな。


 そう思いつつ部屋の中を見回す。

 ロビーのような場所であることはわかるが、特に何かあるわけでもなく、

 あるものと言えば、すりガラスに一部だけ穴が開いている受付窓口のようなもの、

 そして二階に上がる階段。

 あとは奥に続く廊下がある。


 この部屋は狭いが、まだまだ探索すべき範囲は広そうだ。

 手始めにまず一階から探索しよう。


 そう思って廊下の奥の方へ進んでいく。

 しかし、廊下の両壁にはドアが定期的に並んでおり、どれだけ奥に進もうが、まるでビックリハウスに迷い込んでしまったかのようにその光景が繰り返される。

 どれだけ進んでも全く変わらない景色にだんだん気が滅入ってしまいそうになる。

 ただ一つだけ、ドアプレートの数字が増えていくのを見て心の安定を保てる。

 永遠に続くようにも見えてもどんなことにだって必ず果てはあるのだ。


 そうして数字が増えるのを見ていると、ようやく突き当りにたどり着いた。

 ここには何も気になる点はなかったことだけ確認して踵を返す。


 行きはよいよい帰りは怖い、

 とは、よくいうがその逆で帰り道は気が滅入りそうにはならなかった。

 一度通った道だからだろうか、

 この廊下の長さが有限であることを知っているからだろうか、

 どっちかはわからないけど、とりあえず悪い気分にはならなかった。


 最初の部屋に戻って来ると、次は上の階に上がってみる。

 この二階は一階と同じように一本の廊下が伸びている。

 先程と同じように奥まで歩いていってみるも、一階と同じような装飾で一階と同じような長さだった。


 ──じゃあ、三階もおんなじかな。


 そう考えながら続いて三階を見てみるも、やはり二階と同じ結果だった。

 そして、これ以上上の階がないので建物の全てに行ったことになる。

 が、魔獣の出現条件となるようなものや魔獣自身は見つからなかった。


 どこか見落としがあったのだろうか──。

 もしかしたら部屋の一つ一つ確かめなければいけなかったのかな。


 とりあえず一階に戻ってもう一回考えよう。


 きしむ階段を慎重に降りる。

 一階の床に足をつけると、魔獣出現の条件について思考し始めた。

 私はじっと立ち止まりながら考えることができない性分なので、思考するのは廃墟に残された物品をいじりながらである。

 こうするのは偶然魔獣の出現条件につながることがあるからなのだが、それに付属して残されてきた思いのようなものが感じられる気もするからだ。

 そして、その思いには楽しいものから悲しいものまでいろんな思いが込められている、と私は勝手に感じている。

 しかし、そっちに心惹かれて考べきこと忘れてしまうこともしばしばだ。

 そのしばしばに今も当てはまる。

 今私は埃が被った黒電話に心惹かれている。

 なんとなく目についたものだが、自然と手が伸び、そのダイヤルにふれる。

 褐色に変色したダイヤルは思いの外、なめらかに回った。

 何度もダイヤルをいじくりまわしていると、なんとも不思議な魅力感じ始める。

 それは何も用事がなければ。いや、用事があったとしても長時間いじっていられるようなよくわからない魅力だ。

 そんな魅力に憑りつかれていると、ふと気になって階段がある方向を見る。

 そこには上に続く階段しかないはずなのだが……、いままで隠れて見えていないものがあった。

 それは下に続く階段だ。

 この建物には地下があったんだ。


 ──きっとここに魔獣はいる。


 と感じ、迷いもなく階段を下って行った。


 …


 下へ行くたび、月の光も届かなくなって闇が深くなっていく。

 コツンコツンと鳴る足音は闇へ吸い込まれる。

 いつの間にか周りの壁や床はコンクリートへ変わっている。

 華やかな様相はもうすでにない。無機質で画一化された空間に閉じ込められたかのように感じる。


 そして、最期の段を下りて地下一階へとたどり着いた。


 階段の下に降りてきた場所の、その先に細い廊下が延びている。

 そこに沿って歩く。


 地下は暗く、風が通らないため湿気が出ていかなく、じめっとしている。


 ほどなくすると広い空間に出た。

 ここには柱が規則的に並び立つという何の用途に使われていたのかがよくわからない空間であり、他の場所からは感じられないような異質さを感じる。

 異質さの正体をはっきりいうことができないが、なんとなくの推測はできる。

 この異質な雰囲気からはなんともいえない嫌な気配を感じる。

 この気配は何度も感じてきた。

 そう何度もだ。

 その気配を感じるタイミングは必ず魔獣が出現するとき。

 だから、この異質さの正体はおそらくメデューサだろうと思う。


 その空間の中へ慎重に足を踏み入れる。

 音を全く立たせないように動作がゆっくりになる。


 入口に一番近かった柱の陰に隠れると、そこから空間の中央の方を覗き見る。


 そこには人の形をしたものがある。

 しかし、よく見てみれば人にはあるはずの脚がない。

 かわりに下半身には蛇のしっぽが生えている。

 そして、頭部の髪の毛は小さい蛇の頭に置き換わっている。


 ──やっぱり私の推測に狂いはなかった。あいつがメデューサだ。


 と思うと同時に私は二つの選択肢を突き立てられた感じがした。


 今自分に与えられた選択肢は生か死の二択のみ。

 ここまではいつもと同じだ。でも今回は決定的に違う点がある。

 ここには海桜や絆なども含め私を助けてくれるような人物はいないということだ。

 つまりは自分を救えるのは自分だけ。

 ここでは誰も助けちゃくれない。

 他人に頼ってばかりじゃ、いつか自力でやるしかない状況になった時、動ける人間が自分一人しかいない時、必ず私は何もできずに終わる。

 そんなのは絶対に嫌だ。

 でも、私は私に甘い。

 いつも助けてもらって後悔する癖にそれを次に生かそうとさえしない。

 そんな人間が仲間と魔獣を倒しに行って、他人に頼り切らずに戦えることは果たしてできるのか?

 否、そんなことは不可能だ。


 だからこそ自分をメデューサがいる死地に送り込んだのだ。

 私は自分に甘いんだ。このくらい極端なことを自分に強いないと成長できない。

 メデューサに相対して恐れに流されて動けないまま、死んでも結構。

 みんなに並びたてるほどの存在ではなく、あのチームの足を引っ張るという不要な存在であることが明らかになるだけだ。


 私があの場所にいる資格を得るためには、こいつを自力で倒すことが唯一の方法なんだ。


 自分の考えを再確認しながら、柱の陰に隠れてメデューサの様子をうかがう。

 赤色の目を右へ左へ動かし、毛先の蛇がちょろちょろと舌を出し、ズズズと円を書くように這い回っている。

 幸運にも、メデューサには気が付かれていないようだ。


 充電器を持つ手を強く握りしめる。

 いつもと同じくらいの緊張や圧迫を感じているはずなのに、やたら強調されて感じる気がする。

 でも、この緊張感や圧迫感はもともと私一人が背負うはずの分量だったのだろう。

 今までは、みんなに分散して背負ってもらっていたものが自分のもとに帰ってきただけなんだ。

 やっぱり私は人に頼り切っていたんだ。


「……」


 ……よし。覚悟は決めた。


 メデューサにプラグを挿して魔力を吸収するだけ。

 簡単なこと。

 挿して吸収、のみ。


「!」


 メデューサの動きが止まった。

 頭は私がいるのと反対の方向を見ている。


 チャンスだ……!


 柱の陰からそっと出て、メデューサの後方役約10mの位置に立つ。


 完全に真後ろに立つまで、あと30歩くらいだ……


 絶対に物音を立てないように、慎重に足を進める。


 あと、29……、28……、27……、26……


 進むスピードが気の遠くなるほど遅く感じる。


 25……、24……、23……、22……、21……、20……、19……、


 メデューサにはまだ辿り着かない。


 18……、17……、16……、15……、14……、13……、12……、


 もうあと少し。


 11……、10……、9……、8……、7……、6……、5……、


 よしっ、いけるっ!


 4……、3……、2……。


 あと一歩で挿せる……!

 そう思った瞬間、メデューサの髪の毛が逆立った。

 そして、毛先の蛇の頭が一斉にこちらを睨む。


 まずいっ! 気づかれた!


 と思わんうちに無数の蛇の頭が襲い掛かってくる。

 大きさ自体は小さいが、数も数だ。嚙まれたらひとたまりもない。


 もうダメだ──


 と目の前のことから目を背けて他者にすべてを託すのは過去の私。

 いつもならばそれでよかったが、今は私一人だ。

 ここで変わらなければいけない。

 私を助けられるのは私一人しかいない。


 過去の私と決別するんだ。


 だから、私は目の前で今起こっていることから、弱くて頼りにならない自分から、


「目を背けない!!」


 自身の背に端子を挿し、もう一方のプラグを反対の手で投げ飛ばす。

 プラグは風を切る音を立てて、後方の柱めがけて飛んでいく。


 メデューサの蛇は前右方、前方、前左方から覆いかぶさるように襲い掛かり、開かれた口々から生える鋭い歯が私にたどり着かんとする。


 しかし、すんでのところで間に合った。

 プラグは柱に突き刺さり、充電器のコードは一瞬のうちに収縮した。

 そして、私の体は引っ張られるままに後方へ飛び、勢いは急には止まれず柱へ衝突する。


「ぐゥッ」


 間一髪のところで離脱できた。

 痛かったけど、このくらいなんてことない。

 まだギリギリの状況、まだ終わってない。

 メデューサの次の動きを見ないと。


 攻撃を外したメデューサはゆっくりと振り返る。振り向きざまに見えたその目の赤色は薄光を伴っている。


 それを認識した瞬間、「すぐに柱に隠れるべきだ」と瞬間的に思った。

 メデューサには生物を石化させる能力があると聞いたからだ。

 どう石化させるのかについては知らないが、メデューサの尋常ではない様子にからして目の薄光はその前兆だろうと感じ取った。


 柱の陰に隠れるのとほぼ同時であるが少し遅れて当たりに赤色の光が一瞬照らされ、柱の裏には一瞬影ができる。

 先ほどまで床の亀裂の間に咲いていた雑草は石になっている。触って確認するまでもない、見るからに石になっている。

 またギリギリの所で避けることができた。


 しかし、ここでも安心していられない。メデューサの攻勢はまだ続く。


 違う角度からまた赤い光線を照射する。


 私はまた陰になる所へ逃げ込む。

 自分があの石化光線に当たったら一巻の終わりだ。

 かといって、逃げるだけでは倒すことができない。


 ならば、照射する前にこちらから仕掛けてやればいい。


 石化光線の合間を狙って。


 ──次の三回目の照射は隠れてやり過ごし、四回目の間隙を突こう。


 三発目の照射が来る。


 隠れる。


 光が消えた瞬間、飛び出して、プラグを挿す。

 これだけだ。

 これだけの行動だが、この一回で決めなければいけない。

 これでだめだったら……いや、そんなことは考えない。

 絶対ここで決める!!


 当たりを照らしていた赤い光が消え、また暗がりに染められる。


「今だ!!」


 自身の声を合図に柱の陰から飛び出す。


 頭の中にはもし失敗したらとかそんなマイナスな思考はもうない。


 プラグを右手に握り、左手では端子を腹部に刺す。


 あと数歩先。


 メデューサの目にはまだ光がこもっていない。

 突然起きた出来事に対応できていない。


 これ以上ない絶好の機会だ。


 ──いける…!


 プラグをもう一度強く握り、メデューサの額めがけて腕を前に押し出す。


「いっけえええええエェェェッ!!!!!」


 全身全霊を込めた一撃。

 絶好のタイミング。

 そんな良条件がすべてそろった状況で、プラグの先が到達した場所は──


 メデューサの額の前にいる蛇であった。


 !?

 …いや、予定と違うけど、大丈夫だ。

 メデューサのコアにつながっている体の一部なら、吸い取れる──


 しかし、現実は無常だ。そんな甘い私の思考を裏切ってくる。

 メデューサの頭から生える別の蛇がプラグを挿されている蛇の胴体を食いちぎり、メデューサの一部からただの肉片に成り下がった。


 ──これじゃあ、魔力を吸収できない……


 更に他の蛇の集団の目は私を捕捉し、今にも食いつかんとする。


 い一旦、退こう。

 さっきみたいに後ろの柱に……

 って、あれ?

 プラグは?

 じ地面に落ちたんだった

 早く拾わないと……


 震える手でプラグを拾おうとする。


 あれ?うまく掴めない。

 取れない。

 早く、しないと。

 早く、しないと。

 全部終わってしまう。

 致命的な遅れをとってしまう。

 だから、早く、早く。

 あ…!やっと掴めた。

 早くこれを投げて挿せば…

 あれ?挿さらなかった……?

 なんで?なんで?


 あ、蛇の頭挿しっぱなしだった……


 黒い蛇の赤黒い口内が無数に並んでいるのが見えた。


 ──また、失敗してしまった


 目の前の現実を受け入れ、そっと潤ませた目を閉じた。

 あとはもう涙が頬を伝って地面に落ちるまでに終わる。私はそう悟った。



 …


 いつまで経っても死んだ心地がしない、という疑問が頭の中をぐるぐる回る。

 もう死んだはずなのに、手足の感覚が無くなったり、心臓が動いているような音が聞こえなくなるようなことが起きない。

 案外、死んでしまっても生きてるのと何にも変わらないのかな。

 変わるとすれば、生きてるという事実が死んだという事実だけ…みたいなかんじなのかな。

 無理やり納得しようとするも、腑に落ちない。


「やっぱりここにいた」


 考えていると優しい声が聞こえた気がした。

 よく見知った声。


 私がわからないはずがない。


 その人物とは、海桜だ。


 でも、聞こえるはずがない。


 だってここには海桜はいないはずだから。

 海桜の幻聴を聞くなんて、私まだ未練があったのかもね……


「助けに来たよ」


 あれ?二度目も聞こえた。

 これは絶対幻聴じゃない。

 でも、なんで?

 私……、もしかしたらまだ生きてる!?


 一度諦めて閉じた目をもう一度開く。


 目の前には海桜がいる。そして、メデューサの蛇はほとんど頭を無くしている。


 え!?


 なんで海桜がここに……?


「紡希の行動は単純だからね。すぐにわかっちゃうよ。」


 海桜は優しく笑いかけながら頭をポンポン撫でる。


「強くなりたかったんでしょ。じゃあ、そんなところに座ってないで立ちなよ。ほら…」


 海桜は手を差し伸べる。

 私はいつもこの手に助けられてきた。

 綺麗で華奢な手だけど、力強くて心強くてとっても頼りになる。


 その手をつかめば、私は一人じゃないって気持ちがどんどん湧いてくる。

 そう私は一人じゃないんだ。

 自分のできないことはそれができる誰かに任せて、自分は自分できる最大限のことをやればいいんだ。

 なにも全部一人でしなくても良かったんだ。


 私は何度でも立ち上がる!

 だって、隣にはいつも海桜がいるから。

 海桜が手を差し伸べてくれる限り、私は無敵だ!


 だよね! 海桜!


 アイコンタクトで伝えた投げかけに海桜はにっと笑って、ハサミの先端をメデューサに向ける。

 それに倣ってプラグの先端をメデューサに向ける。


「行くよ!!」

「うん!!」


 私はひとりじゃないんだ……!!

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