運命の出会い…………………………4mg
真っ二つになった、巨大な蜘蛛。光の粒がポツポツと出て、ホタルのように上空に飛び立って消えていく。
それを背景に少女が立っている。大きなハサミを携えた彼女は、まるで昔話に出てくるお姫様のように凛としている。
「大丈夫だった?」
その少女は、振り返ってそう言う。
しかし、突然の出来事に声が出なくて、しかも動くことすらできない。
地面にへたり込んでいる状況を見て、少女は手を差し述べる。
「ほら、掴まりなよ」
言う通りに掴まる。
綺麗な手だ──。
そう思っていると、ぐっと引き上げられ、立つことができた。
「なんで、武器出さなかったの?」
ぶ、武器──?
一体、何のこと─。
「えっと、あの…?」
少女はため息をつく。
「なるほど」とつぶやいてから、納得の言ったように頷く。
「そうか。君は初心者だったんだ。」
「えっと…、はい……。さっき、よくわからないままで。」
クールな少女の眉がピクッと動いた。
「さっき!? 今日、魔法少女になったってこと?」
「はい……」
その答えに、呆れた顔を見せる。
「それは、考え無さすぎ。わかってるはずだよね。危険なことだって。」
言い返す言葉が見つからない。
確かに、勢いのまま動きすぎていた。
「手、出して」
「え?」
「武器の出し方、教えるよ。知らないままでいたら、すぐ死んでしまいそうだから。」
「ありがとう」と返すと、「ん。」という返答。
そして、言われた通り、手のひらを上に向ける。
「じゃあ、目をつぶって」
まぶたを閉じ、視界は暗闇になる。
「手に意識を集中して……。」
意識を込める。手のひらがじんわりと温かくなった気がする。
「なんでもいいから、思いついた物が手のひらの上にあるイメージをしてみて。」
思いついたもの──、うーん、何か思いついたもの──。
特に何も思いつかない。が、手の内側にゾワゾワする感触がある。
体の真ん中が熱くなってきた。左手に血流に乗ってきた、何かがせり出す感覚がある。
「そしたら出るはず。君専用の武器が」
せり出してきたもの。手の上に重みがある。
恐る恐るまぶたを開けて、確認する。
何だこれ──?
黒い…長い…紐──?
長細いそれは既視感があるもの。既視感というか、毎日使ってるものだ。夜、スマホの充電に使う──。
これ、スマホの充電器のコードだ。
「こ、これって」
「それが君の武器みたいだね。」
興味を持ったように、少女は覗き込む。
充電器が私の武器?
どういう選ばれ方をしたのかな。
「充電器……、なんでだろ?」
ポロっとこぼした疑問を、「はっきりとは知らないけど」と前置きして拾われた。
「その人に一番ふさわしいものが武器になるらしいよ。」
「相応しいもの?」
「まあ、明確な基準があるわけじゃないんだよね。
私のはハサミだけど、どう"相応しい"のか、わからないし。」
ふさわしいもの、っていう基準……。
他の魔法少女はどうなんだろう。
「前に会った子に聞いただけだから、本当にそうなのかもわからないけど」
「なるほど…。」くらいしか返す言葉が思いつかず、気まずい沈黙が流れる。
しかし、少女はそんな空気も意に介さずに、コードの先をじっと見つめる。
「でもさ、その武器でどうやって戦うつもり?」
「うぐっ」
痛いところを突かれた。
武器を出すつもりだったのに、武器になりそうもない日常品が出てきたんだもん。なんでそうなったか、気になるよね。
「これを出そうと思って、出したわけじゃないから……ちょっとわからない、かな」
ホントに何で充電器なのかわからないから、答えようがないよ──。
「ふぅん──。今すぐじゃなくていいから、使い方は考えておきなよ」
全く、おっしゃる通りです──。
これから私も戦っていくんだもんね。
「それじゃ、武器の出し方も教えたし、私はこのくらいで帰ろかな。」
「日も暮れそうだし」と付け加える少女。それまで手にしていた武器を消すと、装衣も元に戻る。
手を振り、この場からさろうとする。
「まって!」
瞬間的に声を出していた。
少女は足を止める。
「どうしたの?」
少女は驚いた表情を見せる。
しかし、自分でも驚いている。なぜ呼び止めてしまったのか、よく理解できていない。
「あの、ええっと。その、もうちょっとお話したいな……、って」
そうだ。
せっかく出会ったんだ。
同じ魔法少女なんだし、友達がいたほうが心強い。いや…、違うかな。ただ友達が欲しかったんだ。
だから、この子と仲良くなるチャンスを逃すまい、と。そう思ったから呼び止めたんだ。
「いいよ。せっかくだからね」
少女は「なんだ、そんなことか」と言わんばかりに、嫌な顔一つもせずに快諾した。
2人の少女で改めて向き合う。
会話の種は──、いや、まずは自己紹介か──と困っていると。その様子を見た少女はくすっと笑う。
「私の名前は海桜。円谷海桜。よろしく。」
「わ、私の名前は羽衣紡希…」
お互いの名前を交わし合う。
まだやっていなかった自己紹介をようやくやり終えた。
「紡希って読んでもいい?」
「え!?」
「あれ、嫌だった?」
嫌じゃない……。
嫌じゃないんだけど、とても驚いた。
出会って少しで、親しみを込めた呼ばれ方をされるのは想定外。
自分の交友関係がないせいで、あんまりこういう常識はわからない。
けど、とても嬉しい。
「嫌じゃないよ。むしろ嬉しい」
「そうか、よかった。じゃあ、私のことも呼び捨てで呼んで」
「ありがとう。海桜ちゃん」
…
中学校に入ってから初めて友達と呼べる関係になれた。
趣味やなんやらは違うけれど、辺りが真っ暗になるまで話した。
海桜は去っていった。
嵐の後のように辺りは静まり返っていた。
この小屋に来たとき、まだ明るかった空がすっかりオレンジ色に染まっていた。
暗くなる前に私も帰らなきゃ
そうして、家がある方向、少し暗くなりかけている方へ歩みだした。
…
「は〜、疲れた〜」
家に帰ってくるなり、ベットに倒れ込む。制服を着たままだということに気がつくが、もう遅い。ベットの魔力は強大なのだ。
制服にシワができて、お母さんに怒られること間違いなしなのだが、甘んじて受け入れよう。
「ん?」
脇腹に1回だけの短い振動を感じた。
「なんだろう」と、ポケットの中を弄って、スマホを取り出す。
メッセージチャットの着信が1件──。
さっき交換したばかりの海桜からだ。
『報酬金こっちに入ってたから、そっちに半分送るね』
このメッセージと、お金を受け取りますかの通知。
『ありがとう』
と返信しておいた。
それにしても、とても疲れた気がする。というか、少々体調が悪い。
いつもなら学校に行って帰っての毎日だからだろうか。
念のため、薬を飲んでおこう。
今日を振り返っていると、またLINEが来た。海桜からだ。
『明日、魔物討伐行かない?』
『もちろん』、と答えておいた。
明日が楽しみだ。学校もあるけど。




