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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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39/65

やまぬ心配……………………………38mg

<海桜視点>


 ──紡希大丈夫だったかな……


 会議室の白く明るい照明の下で、海桜はそう思った。

 その横で絆と蒼が黙って少女が目覚めるのを待っている。


 しばらくして会議室のドアが開いた。


「その子、目覚めましたか?」


 ドアの先から玲奈が六つの紙コップを持って現れた。


「ううん、まだ。」

「そうですか。」

「この様子だと、まだ何時間かは待たなくてはいけないですわね。」


 海桜の後ろから梨乃が2Lのお茶のペットボトルを持って現れる。


「だね。」


 戦闘後、私たちは気を失っていた少女の介抱に当たった。

 その場でというのもあれだし、いつまた鎌の魔法少女が帰ってくるのかもわからなかったので、一旦少女を会議室まで梨乃が背負って帰ることになった。

 帰り道では鎌の魔法少女と再度遭遇することを懸念していたが、一つを除いて特に何事もなく無事に会議室に到着した。

 到着してからは介抱するといっても特にすることはないので、今は少女が目覚めるのを待っているだけという状況だ。


 ところで、今この場には紡希がいない。

 紡希がいないことは先ほど除いた一つの何事につながる。

 というのも、紡希は戦闘後なんだか調子が悪そうだったので自宅に帰らせた、というただそれだけのことなのだが、私はその表情になぜか引っかかった。


 今日の紡希は変だったんだ。

 正確に言えば、鎌の魔法少女との戦いが終わった後から変だった。

 単純に考えれば、紡希は体調が悪い、という結論にたどり着くのだが、頭の隅ではその結論に納得できなかった。

 なぜかだかは分からないが、何かに苦しんでいる?ようにも見えたからだ。

 本人に聞いたわけではないからまったくもって正しいことではないかもしれないが、自分の感覚に従って言うと、物理的にというわけではなく精神から来る苦しみではないかと思う。

 ならば紡希は鎌の魔法少女におびえていたということなのか。

 でも、それにしてはそれに対して怖がっているような行動はしていなかったように感じる。


「……」


 ……やっぱり私にはわからない。

 どんなに考えても紡希の真意にはたどり着けない。

 そもそも人の気持ちなんてものはそういうのに敏感な人でないと読み取れないのだ。

 鈍感な私だけで紡希の気持ちを正確にわかろうなんてどうせ無理なことだ。

 ──じゃあ、どうする?

 答えは単純。わかっている人に聞くしかない。

 私が知っている中で、わかっている人といえば……梨乃だ。

 梨乃ならわかるはずだ。

 完璧に知っていることはないだろうけど、きっと私よりはわかっているはずだ。


「梨乃──、ちょっといい?」

「紡希のことでございますか?」


 梨乃は私の脳内を見透かしたように言い当てる。


「うん。そうだけど…。よくわかったね。」

「そのくらいは見たらわかりますわ。あなたのそのお顔に書いてありますからですわ。」


 梨乃は冗談めかして言うが、真剣な面持ちだ。


「流石だね。梨乃にかかればなんでもお見通しだ。

 そう、紡希のこと心配で… いつもと何か違うかったような… 何かおかしかった気がするんだ。」


「そうですわね……

 紡希はよく自分を卑下しますので、心の中に色々抱えているのでしょう。

 でも、彼女は閉じこもるタイプではないですわね。むしろ自分で何とか解決しようとするのではないでしょうか。

 彼女は強い心を持っていますわ。自分のことはきっと自分で何とかできるはずですことよ。

 きっと明日には自身で解決し終わっていますわ。

 彼女を信じましょう、ね? 海桜。」

「そういわれたらそうだけど……」


 信じる、か……。

 多分、ここで一番いい行動は紡希を信じることだとは思う。

 紡希は自分で考えて自分で行動できる自立した人間なのだ。

 信じてあげることが紡希にとっても嬉しいことであることは確かだろう。

 逆に信じないことが紡希が持つ私への信頼に対しての裏切り行為とそう違いない行為になりうるかもしれない。

 でも、自分で考えて自分で行動するということには客観的な立場からの視点でないと間違った思考に傾きすぎる危険性をはらんでいる。

 そう考えると私は紡希を信じることはできない。


 裏切り行為になってしまうかもしれないけど、やっぱり紡希のことが心配なんだ。 


「せっかくもらったアドバイスを投げ捨てることになって申し訳ないけど、やっぱり行ってくる。」

「えぇ! 海桜もですのー!?」


 梨乃が少し大げさに驚く。


「…まったく紡希も海桜も人の話を聞きませんわね。

 行くのならさっさと行ってきなさい。」


 もしかしたら梨乃は結局私が紡希の所に行くことをわかっていたのかもしれない。


「ごめんね。梨乃。」


 直感で行動する紡希の癖が移っちゃったかな。


 今すぐ行くからね。まってて紡希。


 私は外に出るためドアノブに手をかけた。


 …


 紡希の所へ行こうとして、何も考えずに外に出た。

 ただ紡希のいるところへ行きたくて。

 でも、根本的な問題に気が付いた。


「どこにいるんだろう?」


 ちょっと考えてみよう。

 別れたのはトンネルを戻って山道から普通の道路に出た辺りだった。

 そして、その時紡希は家がある方へ帰って行っていた。

 普通に考えれば、家にいるはずだ。

 たしか、紡希の家は加茂町の…双針だったはず。

 ここからそう遠くない、歩いて行ける距離だ。


 海桜は紡希の家へ向かって歩を進めた。



 …



「確かこのあたりだと思ったんだけど……」


 海桜の目の前には少し大きめの住宅地が広がる。

 この場所は大字で双針というのだが、田舎の町にしては大きく、加茂町の中心的場所でもある。

 しかし、町中にはところどころ田んぼや畑があるし、数百メートル離れれば、田園地帯が広がっている。

 だからド田舎の中でいくらかましな所と言ったような感じだ。

 そうとは言え、宅数は多い。

 あてずっぽうでは紡希の家は分からないだろう。

 なので、前に紡希が言っていた自宅の特徴を思い出して探してみる。


 紡希の家は確か……


 二階建て


 屋根はレンガみたいな赤色


 壁は薄い肌色


 って言っていたはずだ。


 この特徴を持ち合わせている家は……、あった。

 そして─他に同じような家はないみたい。


 ということは言っていた特徴にすべて合致する家は一つだけ。

 紡希の家はたぶんここだ。


 家の前までのちょっとした門の所に行くと、柱に表札が上がっている。


 えっとなになに……


『UI』


 ユーアイ?、いや、『うい』だ。

 紡希の苗字が「羽衣うい」だから、やっぱりここで正解だ。


 無断で入るのはすこしはばかられるけど、紡希がいるかの確認だけさせてもらおう。


「おじゃまします……」


 大きな音をたてないようにそっと門を開く。


 キィーー……


 少しばかりは音を立ててしまったが、入れるくらいには開けれた。

 今度はそろっと間に体をねじ込ませる。


 ──よし、通り抜けられた。


 紡希は深夜に帰るとき、庭から登って自分の部屋に帰ると言っていたから、まず庭に行ってみよう。


 庭は玄関の脇を通って行ったところにあるようだ。


 その方に行ってみる。

 庭には芝生が引いてあり、よく手入れされているようで雑草はほとんどない。

 昼間に見れば青々として綺麗なのだろうとは思うが今は夜なのでそこのところはよくわからない。

 そんな庭に面して縁側と大きい窓がある。

 窓にはカーテンがかかっていて中は見えない。

 ここから目線を上にすると、ベランダが見える。

 おそらくここが紡希の部屋だろう。

 しかし、部屋の電気もついていないし、物音もしない。


 ──もう寝てしまったのだろうか……?


 寝ているとしたら紡希はあんまり悩んでいるわけじゃない、のか?

 まあ、紡希が大丈夫そうならいいや。


 てか、早くこっから出ないと。

 こんな時間にこんなとこにいるのを見られたら、警察呼ばれちゃう。


 私はそそくさとその場を去った。



 …



 ──紡希は本当に家に帰っていたのだろうか。


 玲奈たちがいる会議室に戻る道中、ふとそんな可能性を思いつく。

 実は家に帰っていなくてどこか別の場所に行っていました、となればかなり心配だ。


「しまった。紡希が本当に部屋にいたのか、確認すべきだったなぁ」


 後悔というほどではないが、そしておけばよかったのにという希望をつぶやく。

 しかし、そんな希望をつぶやいたところで過去には戻れないので、全くもって意味のないことである。


 そうこうしているうちもう会議室の方まで戻ってきてしまった。

 ここで不安要素は無かったことにして会議室の中に入ってしまおうか。


 でも、なんだかなぁ。

 やっぱり、不安は不安なんだよな。


 うーん…


 よし。

 ここは不安を解消すべきだろう。

 でも、もう一回行って確認しに行く、っていうのもあまり何度も人の家の庭に無断で入るのもあれだなあ。

 いや、ここはもう一度確認しに行こう。


 そう決めた私は十数分後、また紡希宅の前にいた。

 門に手をかけ、慣れた手つきで庭へ侵入していく。

 今度は二階の部屋に紡希がちゃんといるのかを確認しに行くことが目的だ。


 塀に足をかけ、ベランダの手すりを掴む。


 よし。

 届いた。


 よいしょっ、と。


 体を引き上げ二階のベランダへとよじ登る。

 ベランダに足をつけると、目の前にガラス窓が現れた。

 このガラスの向こうが紡希の部屋のはずだ。


 いたらいたらで安心すっきりとして帰れるのだけど、問題はいなかった時、

 はたして紡希はここにいるのだろうか。


 そっとのぞき込む…


 しかし、ここに紡希の姿はなかった。


 不安な予感はものの見事に的中してしまった。

 私たちと別れた後、紡希は家に帰ってなどいなかった。

 ここにいないとなれば、紡希は何処に行ってしまったんだ……?

 まさか…自死?

 いやないないない…

 そんな子じゃないはずだ。

 落ち着いて、深呼吸しよう。


 一旦、肺の中を空っぽにして、新鮮な空気を肺に送り込む。

 そして、また息を吐く。


 心が落ち着いてきて、だんだん頭がさえてきた。

 酸素を供給できて、冷静な思考ができるようになったみたいだ。


 紡希がいる場所を見つけるために、紡希の視点で現状を考えてみよう。


 紡希は今、問題を抱え込んでいる。

 その問題に気が付いたきっかけはおそらく死神との戦闘の時。

 あの時、紡希は何をしていたか……?

 私はその時、紡希のことを見る余裕はなかった、けど、

 なんとなくわかったかもしれない。

 その時、たぶん何もできなかったんだと思う。

 何もできない自分を卑下してもっと強い自分になろうとしているんじゃないかな。

 思いついたら考えずにすぐに行動する紡希の性格も併せて考えると……

 強くなるために今たった一人で魔獣を倒しに向かっている……?

 これが正しいとすると、紡希はあんまり簡単に倒せる魔獣の所ではなく強力な魔獣の所にいるはずだ。

 強力な魔獣。それはつまりメデューサだ。

 ひとりで行くにはあまりに無謀。がしかし、紡希は無謀なことだとわかっていてもそこへ飛んで入る。

 このままだと、紡希は死ぬ。

 紡希は不服だろうが、私が助けに行くしかない。

 場所はもう分かった。


 向かおう、今すぐに。

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