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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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一本の固い信念………………………37mg

 魔法少女の存在理由は、魔獣による人類殲滅を阻止すること、にある。


 そのため、魔法少女は日々魔獣との戦闘を繰り広げている。

 しかし、魔獣は非常に強力だ。

 魔法少女一人だけでは到底太刀打ちできない。

 ならばどうするか、その答えは単純だ。


 ──魔法少女同士“全員”で手を取り合って魔獣に立ち向かえばいいのだ。


 そう一人だけではなく、数人だけでもなく、魔法少女全員でだ。


 ──数人だけでも魔獣を討伐することは可能なのではないか?


 こんな反論もあるかもしれない。

 もちろん数人だけでも、魔獣を討伐すること自体は可能だ。

 可能だが、四魔に対してはそうはいかない。

 四魔は普通の魔獣よりもさらに何倍も強力だ。

 これを数人だけで挑むとは困難を極める。


 それだけではない。

 四魔よりも上位を行く存在がいる。

 それこそが魔獣たちの長、魔王である。

 四魔でも困難を極めるのに、数人だけで魔王に対して勝とうなど絶対に不可能である。


 ──ならば、全員でなくとも大勢で戦えばよいか?


 いや、それでも不足している。

 “全員”で戦うことによって、やっと五分五分の勝負になるのだ。


 よって、魔法少女が“全員”で力を合わせることが絶対に必要なことであり、不可欠なことなのである。

 魔法少女同士で争うことなど、以ての外。ただ破滅に足を突っ込むだけの行為なのだ。




 …




 私は魔法少女同士で戦ってはいけないと思っていた。

 いや、今だってそう思っている。

 だって、そんなこと絶対におかしいから。絶対にありえてはいけないから。

 でも、現実は私が思っていたよりも非情だった。

 今、この目の前で絶対にありえて欲しくなかったことが起きてしまいそうだ。

 もう私たちには選択肢は一つしか残されていない。

 魔法少女と戦うことしか。

 もしかしたら選ばないこともできるかもしれない。

 選ばなければ、戦うことを回避できる。

 でも、この現状を見る限りそんなことはできない。

 目の前にいるのは鎌を持った魔法少女、彼女は私たちを殺す気でいる。

 戦わないと、他の魔法少女にまで危険が降りかかるかもしれない。

 戦わないと、自分や仲間が死んでしまうかもしれない。

 そう、戦わないといけない。

 頭ではわかっているけれど。

 戦わないといけない。

 頭ではわかっているのに、


 私の体は拒み続ける。


『魔法少女同士で戦ってはいけない』


 私の体の中に深く刻み込まれ、当然全魔法少女が持ち合わせているだろうと思っていたこの固定概念。


 この固定概念がぶち壊され、戦わなければ仲間の命が、そして自分の命すらも危ぶまれてしまうという状況では、きっと私は戦うことを避けられないだろう。

 しかし、それを避けられる方法があるのではないか、本当に戦わなければいけないのか、話し合えばきっと分かり合える、とばかり考えてしまう。

 戦わなければいけないのに、だ。

 そのような甘えから隙が生まれ、結局戦うことを決意できないまま死んでしまう。


 そんなことはわかっている…!


 わかっている……けど、


 戦った末に勝っても負けても幸せな未来がない、そんな気がしてしまう。

 ならば戦わない方法は?と考えて、やはり話し合いで解決できるのではないか、という考えに戻ってくる。

 しかし、目の前の魔法少女を再確認した時、話し合いでどうこうできるものではなく、話し合いを持ちかけることが致命的な隙になってしまうと思い直してしまった。


 戦う、それとも戦わない。

 魔法少女同士は戦っちゃいけないという固定概念、それとも仲間と自分の命の安全

 私にはそのどちらを選ぶにしても地獄行き。

 そんな気がして選ぶことなどできなかった。


 だけど、仲間たちは私とは違う。

 私が迷っているうちにみんなはもう覚悟を決めて戦っている。

 特に海桜、蒼の二人は果敢にも死神に切りかかっている。

 その二人の目には迷いが一切ない。

 ただ死神を倒す、という一点のみを見据えている。

 迷いの無さは太刀筋にも表れて、鋭い斬撃を死神に叩き込んでいる。


 だが、死神はそれを全て鎌で受け流す。

 それどころか、死神は攻勢に転じ、海桜・蒼はむしろ押され気味で不利に陥っている。


 まるで歯が立たない。


 しかし、この時死神は自らが有利だというにも関わらず、理解できないとでも言いたげに口をとがらせる。


「なんでそんなに抵抗するの?」


「……」


「早く楽になろうよ。」


「……」


「死ぬだけでいいんだよ。」


「……」


 鎌をふるうたび、死神は言葉を重ねる。

 海桜達は応じず動揺もせず、ただ抵抗を重ねるのみだ。

 思ったような反応が得られなかったのか、死神はさらに訳が分からなそうな顔をする。


「もう! 何で何も返事してくれないの!? わけわかんなーいっ!!

 …あ、でも。そっか! ぶっ殺しちゃえば結局一緒だもん。わかんなくても別に大丈夫じゃん。

 理解しようとしなくてもよかったんだ。殺して天国へ送ってあげればいいだけなんだからね!

 よしっ!じゃあ…、」


 死神は笑みを浮かべる。


「死んで!」


 死神は言い切ったと同時に鎌を横に薙いだ。

 蒼は対応しきれなかった死神の斬撃に頬をかすめた。

 でも、蒼は絶対に退かない。

 たとえ傷から血が垂れようと拭いもせず、死神という脅威から目をそらさず真正面に立ち向かっていく。

 海桜は海桜で蒼のカバーにも入りながら蒼にヘイトを向ける死神の隙を突こうとし、逆の場合でもどんなに斬撃を受けようとも絶対に退かず立ち向かう。


 ──二人はなんでこんなに行動に迷いがないのだろう?


 疑問が浮かぶが、答えは全くわからない。

 でも、二人は一本の固い信念を持っていることだけはわかる。

 どんな状況でもこれだけは、という信念だ。

 その信念が行動につながっているのだろうが、そんな信念なんてどうやってもてばいいのか。

 やっぱり考えてもわからない。

 でも、それが二人の強さの源なのだろう。


 二人の信念はやがてこの不利な戦況をひっくり返す。


 海桜はハサミの留め具を外して、両手に持つ。


「『双刀』…!!」


 片方で死神の攻撃を受け止め、もう片方で切る。


「ッ……!」


 死神の意表を突いたこの攻撃は決め手とはなり得なかったものの、死神に傷を負わせた。

 続いて蒼が死神の側面から斬撃を放つ。

 しかし、これは当たらず、死神は背後へ飛んで退いた────瞬間。


 一本の矢が死神の手を貫いた。


 これは梨乃の一撃だ。


 梨乃は死神と味方の距離が開くのを待っていたのだ。


「いッ……!」


 死神の手からは血がこぼれ落ちる。



「あ、あがァー!! いッタァァ!! いィたァい!! いィたァい!!!」


 もう片方の手で押さえるが、それでも止まらない。

 私たちを一瞥すると、死神は悔しそうな表情をしてすぐに逃げ去った。


「あ、待て!!」


 逃げる死神を蒼は追わんとする。

 しかし、海桜に首根っこをつかまれ、ぐぇという情けない声を出した。

 それでも追いかけようとするが、


「待つのは蒼だ。今は助けた女の子の方を優先しよう。それに深追いは禁物。」


 と、海桜に言われ、蒼はようやく追おうとするのをやめた。


 結局、選択を渋った挙句私はこの戦いに何もできないまま終わってしまった。

 私は大切なことを横一列に並びたてて同等に扱っていた。

 そのなかに矛盾を抱えているものもあったのに。

 全部守ろうとして、どれを優先するかの選択ができなかった。

 もし、この状況に一人で直面していたらすべてを失っていたのかもしれない。

 今回は仲間がいたからこそすべてを失うことを避けられた。

 その点では、みんなに感謝している。

 でも、周りに仲間がいたからうまくいったこの現状に甘えてはいけない。

 今後周りに仲間がいない状況だってあるかもしれないからだ。

 このままだとその時私は何を優先すればいいのかに悩み、全部失う。

 だから、このままじゃいけない。

 なによりもこれだけは優先するという、自分の中で本当に大切な一つを決めておかなくちゃいけない。

 蒼や海桜のように一本の固い信念を心の中に打ち立てなければいけない。

 でも、そんなものどうやって見つければいいんだろう?

 しかも、たとえ見つけられたとして、これだけは、と決めたものがなんの価値もないものだったら?

 それどころか、そのものが地獄への片道切符だったら?

 と考えると、選択を間違いそうで怖い。


「紡希ちゃん、大丈夫?」


 絆が気にかけてくれる。

 でも、この問題は自分で解決しないといけないんだ。

 仲間に頼ってばかりいる私への試練なんだ。

 だから、絆には言えない。

 ごめん、絆。


「なんでもない。大丈夫だよ」


「そっか……」


 絆は口頭では納得しようとした素振りを見せるものの、未だに心配が拭えないようで、言葉に余韻を残した。


 …


 今回私はまたみんなに迷惑をかけてしまった。

 心配までかけてしまった。


 ──このままではだめだ。


 と、何度も思ってきたけれど、今に至るまで“このまま”から変えることができなかった。

 というか、思うだけでしようとはしなかっただけだったかもしれない。


 もう私はこのままでいることはできない。


 今回は思うだけじゃない。

 やろうとするだけじゃない。

 絶対にやるんだ。

 自分を絶対に変えるんだ。


 そのためにはもっと自分を追い込まないと。

 変えざるを得ない状況に自分を追い込まないと。


 ここで自分を変えなければ、もう今度はないんだから。

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